2030年の電力化率はどうあるべきか
杉山 大志
キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹
2.歴史的趨勢としての電力化:過去と現在
図3で、過去の電力化率(=最終エネルギー需要に占める電力の割合)を見てみよう。国によってエネルギー需要の構成が異なるのでばらつきはあるものの、以下の傾向ははっきりしている。すなわち、電力化率は、あらゆる国で、一貫して上昇してきた。そして、電力化率は所得水準にも依存するが、それ以上に、同じ所得水準であっても、時間とともに電化率が大きく上昇してきた。
所得水準が上がるにつれて電化が進んできたのは、電気が、便利・安全・クリーンだからである。所得水準が同じであっても時間と共に電化率が上昇してきたのは、技術進歩によって、次々に新しい機器が利用可能になり、かつそのコストが低下してきたからである注2) 。
今後も、この傾向は変わらないだろう。電力化率は、一貫して、時間と共に上昇する。それは、経済成長が早ければ勿論加速されるが、仮に経済成長が遅くても、技術進歩に伴って電化率は上昇していくだろう。
3.温暖化対策としての電力化:2030年を越えて
CO2を大規模に削減しようとすると、電力の低炭素化と、電化率の向上がその主要な手段となる。このことは、IPCC第5次評価報告書でも取り上げられている。図4では、世界全体の、2050年における、最終エネルギーに占める電力の割合(電力化率)の計算結果が示されている。CO2濃度を低く抑えるシナリオ(図4の左側)ほど、電力化率が高くなる傾向にあることが、国際機関、エネルギー研究者、環境NGOなど、多くの異なる研究グループによって、共通の見解として示されている注3)。
電力化は、歴史的趨勢としても起きた現象であり、今後も続くであろう。温暖化対策をするということは、これを一層加速することである、と理解できる。
温暖化問題は、2030年に終わるものではない。2050年、あるいはそれ以降をも見据えて長期的に取り組むべき問題である。2030年のエネルギー需給見通しには、そのような、長期的な観点が必要である。より高い電力化率へ向かうための中間点として、2030年に向けて電力化率は下がるのではなく、上がる、とすることが適切であろう。
では電化率の向上を実現するためにはどうすればよいか。それが消費者に選択されるためには、2030年の電力供給は、単にCO2原単位が低いというだけでは落第である。安定して、安価なものでなければならない。つまり、環境という1Eだけを突出させるのではなく、3Eのバランスをとったミックスを実現することが、長期的な温暖化対策として、最も優れたものとなる。
- 注3)
- なお、IPCCというと66%の確率で温暖化を2℃に抑制するというシナリオが最もよく報道されているが、その内容を見るとバイオエネルギーとCCSを大量導入して排出をマイナスにするというかなり極端な(というより荒唐無稽な)シナリオなので、このシナリオ自体は、筆者はとても受け入れられない。IPCCとしても実現は困難である(challenge is huge)と認識している。2℃シナリオの問題点について詳しくはこちら。だが、より一般的な結論として、温暖化対策は電力化と相性が良いという点については、2℃以外の多くのシナリオでも確認できる。