原油価格の下落は、再エネビジネスに凶報か? -再エネ導入が止まらない7つの理由-エネルギー・温暖化関連報道の虚実(13)


国際環境経済研究所前所長

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 原油価格は、昨年7月から約半額以下にも落ち込みました。再生可能エネルギーは、化石燃料価格の高騰を背景に導入が進んできましたが、ここに来ての原油価格の落ち込みで、先行き大丈夫なのかという懸念があります。

 そんな心配はない、数年前とは環境が変化しているんだと主張する記事が、ブルームバーグに掲載されました。
http://www.bloomberg.com/authors/AG-V6rP5f0g/tom-randall

 この記事では、再エネの将来は心配ないとする7つの理由が挙げられています。

(1) 太陽光発電は、石油と競合関係にはない

 確かにその通りです。石油火力発電所は、先進国では第一次オイルショック以降ほとんど建設されていません。また、50$/bでもまだまだ高すぎる燃料です。
 太陽光発電の競合電源は、原子力、天然ガス、石炭や水力です。そのうち原油価格と連動しそうなものは天然ガスと石炭ですが、それらの価格は原油価格の急激な動きほどの動きを見せているわけではありませんし、長期契約も多くあります。
 太陽光発電導入の勢いは止まらないだろうというのが、この記事の見方です。

(2) 電気料金は上昇し続けている

 米国では、シェールガスの出現にもかかわらず、小売の電気料金は上がり続けています。燃料費は削減されたものの、老朽化が目立つ送配電線への投資が1980年代に比べて4倍、3兆円弱(2010年)にも膨れ上がっているため、その分電気料金は上がっています。そのため、屋根に設置する太陽光発電は競争力アップしていくだろうとこの記事は予想しています。

(3) 太陽光パネルの価格低下

 mmbtuあたりの価格で言えば、すでに太陽光は化石燃料を下回る技術進歩が実現したというグラフが掲載されています。またエピソードとしても、最近ドバイが大きな太陽光プロジェクトを進めていることが挙げられています。つまりこの面からも、原油との相対的な競争力の向上が示されているというわけです。

(4) 電気自動車の売れ行きは着実に増加

 米国では、高価な電気自動車を買う層は、そもそもガソリン代など気にしていないので、電気自動車の売れ行きと原油価格はリンクしていない。
 欧州ではガソリン税が高すぎて、少々の原油の下落では電気自動車の競争力は揺るがない。
 中国では、環境破壊が進んでいるため、電気自動車への政府サポートが強力になってきている。
 こうした状況と技術革新(燃費向上)が相まって、電気自動車は今後とも導入が進むだろうということのようです。

(5) 給油所でのガソリン価格は、原油価格ほど下がっていない

 インドやインドネシアなどの途上国では原油価格の下落分、ガソリンへの補助金カットに回しているため、これまでの給油所価格はそれほど変化していないし、中国のような国では逆に原油価格の下落分を増税して吸収しているため、やはり給油所価格には反映されていなません。
 実は世界的に見れば、化石燃料への補助金は生活補助として政治的に重要なため、再エネへの補助金と比べて6対1で多いので、実は再エネ導入をどんどん進めようと思えば、化石燃料への補助金をカットするのが最も効率的で手っ取り早い方法なのです。

 この記事によると、あと二つの理由は、(6)これまでの歴史を見ても原油価格がいつまでも低位安定している予想されない、また(7)再エネ投資の勢いは力強いので、これが停滞することは考えられないということのようです。

 後の理由になればなるほど根拠が弱く、また理由同士が競合していたりするので、本当にこの記事通りになるだろうかという疑念は払拭できません。ただ、そこに全く根拠がないかといえば、それなりに合理性をもつ理由もあると思います。
 ここ最近の海外の報道を見る限り、世界的には再エネ投資についての見込みは強気なものが多く、関連業界と一緒になってムードを盛り上げているようなものばかりが目立ちます。

 投資関係者はこれらの情報を丹念に収拾して、相当規模の資金をつぎ込むかどうかの決断をするのでしょうが、一時の再エネバブルは弾けつつあります。
 この記事とは逆の見方になりますが、この原油価格の下落で、やはり事業リスクは更に大きくなったと見ていいのではないでしょうか。