放射線と放射性物質(その2) 原子核と放射性物質


国際環境経済研究所主席研究員


(※これまでの解説は、「放射線と放射性物質(その1) 原子と分子」をご覧下さい)

3.原子核と放射能

 ところが、安定な原子核から構成されているはずの自然界に、極めて量は少ないが不安定な原子核が定常的に存在する。その成り立ちに違いがあるので二つに分けて説明する。第一のグループは、遠くの天体から飛来する高エネルギー粒子が大気中の窒素、酸素、アルゴン原子などと衝突して定常的に生成している放射性物質で、代表格は窒素からできる炭素14である。高エネルギー粒子の核反応により副次的・連鎖的に生成する素粒子やガンマ線が宇宙線として地上に降り注いでいる。前述の放射性水素トリチウムも宇宙線の働きにより定常的に生成している。

 もう一つのグループは、長寿命のため宇宙創成以来崩壊しないで残ってきたカリウム40や、アクチニウム、トリウム、ウランなどの重い原子核が段階的に放射線を出しながら次々に変化し安定な鉛あるいはビスマスの核になるまで、放射壊変系列という過程で生成している、ラドン、ラジウムなどである。壊変および自然の放射線量については後述する。

 これらの放射性物質は放射線を出しながら安定な他の原子核に変わる。例えば炭素14は原子核から電子を放出してプラス電荷が一つ増え窒素に戻るが、戻るまでに数千年の寿命がある。この寿命を半減期、放射性物質が半分になるまでの時間で表している。

 なお、自然を構成する元素が安定だといっても、地球の46億年(4.6×109年)の歴史の中で崩壊していないという意味でありいずれ壊れるという。最も安定な陽子(水素の原子核)でも崩壊するとされ、小柴昌俊博士のノーベル物理学賞受賞の業績、ニュートリノ発見で有名なスーパー・カミオカンデで観測中であるが、まだ確認されていないことから半減期は10溝年(1033年!)以上との話である。いずれにせよ人間の寿命に比べたら全く意味はない。心配はそれこそ杞憂というものである。

 キュリー夫人(Maria Skłodowska-Curie)によるラジウム発見以来、多くの科学者の研究成果によって原子核物理学が発達し、近年人工放射性物質が意図的、非意図的に作られるようになった。原子爆弾や原子炉内の核分裂で生成する原子核のほとんどは、それぞれの原子の安定同位体の質量数からずれていて不安定であり、例えばセシウム137は核から電子(ベータ線)とそれに伴うエネルギー(ガンマ線)を放出し、安定なバリウムの原子核になる。これを放射性崩壊、壊変という。質量数の大きな原子には、ヘリウムの原子核を放出するアルファ崩壊(α壊変)を起こす原子がある。

 また、一部の大きな質量数の原子核はもともと安定ではないが、ウランのうち質量数が235および233、トリウム、プルトニウム239の4種の核が核分裂を起こす。これらを核燃料と呼んでいる。
 これらの原子核に低速の中性子(分子の熱運動程度の速度で動いている中性子なので熱中性子という)を吸収させると、原子核がさらに不安定になって分裂し、2個程度の破片になるとともに大量のエネルギーを放出する。1個の中性子により分裂する原子核1個から2~3個の熱中性子が放出されるので、周囲に同じ種類の原子核があると次々に連鎖的に分裂を始め爆発する。これを連鎖反応という。ガボン共和国のウラン鉱山で20億年前に自発核分裂を起こした痕跡が見つかっている。ウラン235がある程度の濃度になると自然界でも核分裂が起きることを示している。
 この連鎖反応を利用したのが濃縮ウランやプルトニウムを原料とする原子爆弾である。連鎖的に分裂が始まることを臨界という。99年9月に東海村JCOで2名の死者を出した臨界事故は、濃縮した核燃料溶液が臨界を起こす量になってしまって起きた事故である。

 臨界を制御することにより連続して安定的に核分裂を起こさせエネルギーを取り出す技術が原子炉技術の基礎になっている。当初の技術はアメリカ海軍の潜水艦の動力源として、ユダヤ系アメリカ人のハイマン・G・リッコバー(Hyman George Rickover)を中心に開発された。ノーチラス号という名前の原子力潜水艦(原潜)を製造、58年に北極点を潜水したまま横断し開発の成果を誇示した注1)
 ただし、63年にスレッシャー号と言う原潜が大西洋マサチューセッツ州沖で沈没、乗員129名全員死亡という大事故を起こし、68年には乗員99名のスコーピオン号がアゾレス諸島沖で沈没事故を起こした。今も大西洋の深海に二つの原子炉残骸が横たわっている。なお、スレッシャー号の事故は機関室内の海水配管の破損とそれに伴う電気系統の事故、スコーピオンの場合は投棄魚雷の爆発による事故とされている。ソビエト連邦でもクルスク号という原潜がバレンツ海で事故を起こしている。
 発電用原子炉が商業化されたのは63年である。既に50年以上経過した技術であり、これまで起きた様々な事故を教訓に年々改良を加えてきたと思われるが、今回、このような重大事故を起こしたことにより、安全対策が発展途上であったという誹りを免れることはできない。稼働再開の条件として、今回の事故の経験を生かしたより安全な技術の確立を望みたい。

 核分裂により生成する原子は多種類あり、例えばウラン235の場合には核分裂生成物は質量数140と95付近にピークがある。そのほとんどが数秒から数日で放射線を出して崩壊し安定な原子になるが、一部に安定するのに数十年以上かかる中途半端に安定な原子核がある。
 環境放射線からの被ばく防止の視点で注意が必要なのはこれらの原子核で、長期にわたって放射線を出し続ける原子で半減期の長いセシウム137とストロンチウム90、数日で安定化するが初期に大量に出て人体に取り込まれやすいヨウ素131と半減期が短いが量の多いセシウム134である。
 セシウム137やストロンチウム90は、冷戦時代、部分的核実験禁止条約が63年に発効するまで繰り返された、米英ソを中心とする大気圏内核実験、その後の中仏による核実験の放射性降下物として今でも地中に残っている。

注1)
Submarine Force Museum http://www.ussnautilus.org/

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