放射線と放射性物質(その2) 原子核と放射性物質


国際環境経済研究所主席研究員

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4.放射線、放射性物質の単位
 
 ここでは放射能の単位を説明するために計算式や化学用語を使わざるを得ない。難しければ適当に読み飛ばして頂きたい。しかしながら、ベクレルは放射性物質の量の単位であり測定値にミリとかマイクロが付くことはほとんどないこと、そして、シーベルトは被ばくエネルギー量の単位でミリ・シーベルト、マイクロ・シーベルトが特に重要な単位であり、瞬間値がミリ・シーベルトより大きな単位で話題になるところは極めて危険な場所であること、の二つは是非覚えてほしい。

1) 放射性物質の量の単位;ベクレル
 ベクレル(Bq)とは放射性物質が1秒間に壊れる数=壊変毎秒(dps)=のことであり放射能の量を表す単位である。  注) 1Bq(Becquerel) = 1dps (disintegration per second)
 ウランの放射能を発見してノーベル賞を受賞したアンリ・ベクレル(Antoine Henri Becquerel)に因む国際単位SI (Le Système International d’Unités = the International System of Units)である。単一の核種であればベクレル値と半減期からその放射性物質の量がわかる。
 少し脱線するが、SIとはあらゆる分野に用いる単位系としてメートル法を拡張した単位系であり、60年の国際度量衡総会で採択された。我が国で使われていた尺貫法がメートル法になったのもこの時期である。宝石のカラットやヘクタール、石油の単位のバーレルなど、慣習的に用いられている単位で使用が認められているものがいくつかあるが、計量法ではメートル法表記が望ましいとされる。
 一方、メートル法の起源がフランスだったため、アメリカ、イギリス、カナダ西部などでは、ゴルフ・コースの距離や道路標識、ガソリンの単位のガロン、大リーグでの投球のスピードガン表示などのように、未だにヤード・ポンド法が幅を利かせているところがある。

 SIが登場するまでは、ラジウムを発見してノーベル賞を受賞したキュリー夫人に因んで放射能の量をキュリーという単位で呼び、ラジウム1g を1Ci (curie) = 3.7×1010 Bq (dps) = 37 GBq(ギガベクレル)としていた。それはこういう意味である。ラジウム226の半減期は1,600年=5.05×1010秒、1gのラジウム226の原子核の数(a)は2.66×1021個であるので、放射能(b)は約3.7×1010Bq= 37 GBqとなる。SI単位に付くG(ギガ)やM(メガ)など桁数を表す接頭辞(接頭語)の主なものを表に示した。
注) 1 mCi = 37 MBq(百万ベクレル)  1μCi = 37 kBq = 37,000 dps

ラジウム1gの放射能の量
(a) [ラジウム1gの原子数]=[アボガドロ数=1モルの原子数]÷[ラジウム1モルの質量数]
∴[6.02214×1023]÷[226]=[2.6647×1021個]
(b) [ln2;2の自然対数]÷[半減期]×[ラジウム1gの原子数]=[放射能の量]
∴[0.69315]÷[5.05×1010秒]×[2.6647×1021個]=3.659×1010Bq

 同様に、問題のセシウム137は半減期30.07年であるから次のように3.21×1012Bqとなる。半減期が短い分、同じ1gの重さで放射能は約100倍近くになる。

セシウム1gの放射能の量
(a’) [セシウム1gの原子数]=[6.02214×1023]÷[137]=[4.4×1021個]
(b’) [セシウム1gの放射能量]=[0.69315]÷[9.5×108秒]×[4.4×1021個]=3.21×1012Bq

単位換算表(その2)

 福島の事故が起きた当初、コメの食用流通の出荷制限基準として、暫定的に500 Bq /kgと決められたが、2012年4月から一般食品が100Bq/kg、乳児用食品および牛乳が50Bq/kg、飲料水が10Bq/kgに改定された。また、一時期学校給食の基準が40Bq/kgと報道されたが、計測機器の検出限界と混同しており明らかに誤りである。40Bq/kgが基準になれば「自然由来放射性物質を含めて含有しないこと」を意味するので自然界には存在し得ない。後述するが人体も計算上一人あたり3,000~5,000Bqの放射能を持つ。

 廃棄物の埋立て基準は8,000Bq/kg以下は通常廃棄物の扱い、8,000~100,000Bq/kgの廃棄物はセメント固化し不透水性土壌層で覆って埋立て、100,000Bq/kg超は遮断型処分場のみで埋立て処分する、とされた。セメント工場は廃棄物を原料として逆有償で受け入れており受入基準は100Bq/kgと極めて厳しい。例えば、500Bq/kgの玄米の灰分が1%とすると焼却により放射性物質は100倍の50,000Bqに濃縮する。当然、汚染された玄米も受入れないことになる。