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水素社会を拓くエネルギー・キャリア(5)

「水素社会」の実現のために必要なこと


国際環境経済研究所主席研究員、元内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「エネルギーキャリア」サブ・プログラムディレクター


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 つまり、エネファーム、FCVといった燃料電池関連機器が、これまでに掲げられた目標まで順調に普及したとしても、日本の化石エネルギーの消費量とCO2排出量にもたらすインパクトは、2030年ごろになってもざっくり言って1%程度以下の削減スケールなのだ。エネファーム、FCVの普及だけでは、私たちが期待する「水素社会」への道のりは、まだまだ遠いと言わざるを得ない。

 だからと言って、燃料電池の導入は意味がないということでは決してない。燃料電池の導入と利用の拡大を図ることは、水素エネルギー利用の道を開くという点ではきわめて重要な取り組みである。特にFCVの普及台数が当面の目標を超えて大幅に伸びるようになれば、単に台数の増加による効果の拡大にとどまることなく、水素源を化石エネルギーから製造される改質水素から再生可能エネルギー由来のCO2フリー水素に求めざるを得なくなることから、化石エネルギーの消費量やCO2排出量の飛躍的削減につながる可能性がある。(この水素源の問題は次回以降に説明する。)またFCVは、非常時には分散電源として利用することが可能注5)なので、その普及は、「水素社会」の価値の一つである社会のレジリエンスの向上にも寄与する。

 エネファーム、FCVが普及するだけでは、私たちが期待する「水素社会」への道のりは、まだかなり遠いということは、実は現在の化石エネルギーの消費構造【表1】を見れば、ある程度自明なことでもある。エネファームが関係する民生「家庭部門」の化石エネルギーの消費量は、全体の5%、FCVの関係する運輸「旅客自動車部門」のそれは10%程度に過ぎない。他方、日本では化石エネルギーは、発電のために40%、製造業で22%が消費されている。こういった化石エネルギーの多消費分野で水素エネルギーの大量導入が進まなければ、「水素社会」の価値を手にすることは難しい。

【表1】 日本の化石エネルギーの消費構造

 このスケール感は、エネルギー・キャリアの開発、利用に際して念頭に置いておくべき重要なポイントである。つまり、エネルギー・キャリアの果たすべき役割を考える際にエネファーム、FCV向けの水素エネルギーの貯蔵、輸送を中心に考えていては不十分ということだ。

 中でも発電分野は、水素エネルギーを大量に導入しやすい分野である。水素を混焼することによって発電機の化石エネルギー消費量、CO2の排出量ともに大幅に削減することが可能である。導入にあたっての技術的な課題は、発電機での水素燃料の利用可能性を実証的に確認することだが、自家発の分野では、既に商業機ベースで水素を20~60%、最高では90%まで混焼した混焼発電も行われている。それにもかかわらず、現在まで電力会社によって水素発電が行われていないのは、水素を燃料として用いた場合の発電コストが現段階ではまだ高いこと、一般家庭向けの電力として長期安定的に発電できることを確認する必要があることなどの課題があるからである。

 いったん電力会社などによって水素発電(水素の専焼及び混焼)が始まると、水素の需要量は飛躍的に増加する。仮に、今から2030年までに新設・リプレースされるLNG火力発電に50%の水素が混合されると、水素需要は最大で220億Nm3に上ると推計されている注6)。ここまで水素の需要量が増えると、国内で供給可能な水素では足りなくなる。そしてこのことは、真の「水素社会」の実現に向けた取り組みの加速につながっていく。

 この水素量に関わる問題と、水素エネルギーの経済性の問題については、次回以降ご説明したい。

注5)
病院でFCバス(燃料電池バス)が2台、コンビニエンス・ストアで同0.5台、災害時避難所(学校)で同0.83台あれば、非常時には、そこで必要となる非常電源の一日分を賄えると言われている。(「水素・燃料電池戦略ロードマップ」 2014年6月)
注6)
「水素・燃料電池戦略ロードマップ」 2014年6月

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