欧州のエネルギー・環境政策をめぐる風景感(その1)


国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院特任教授

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移り行く中心軸

 ロンドンに駐在して3年が過ぎたが、この間、欧州のエネルギー環境政策は大きく揺れ動き、現在もそれが続いている。これから数回にわたって最近数年間の欧州エネルギー環境政策の風景感を綴ってみたい。最近の動向を一言で要約すれば「地球温暖化問題偏重からエネルギー安全保障、競争力重視へのリバランシング」である。

 日本を含め、多くの国でエネルギー政策は3つのE、即ちエネルギー安全保障(Energy Security)、環境保全(Environmental Protection)、経済成長あるいは経済効率性(Economic Growth, Economic Efficiency)を追求するものとされている。しかしその重心は時代の流れを追って変化する。欧州について言えば、1990年代はエネルギー市場の自由化、競争促進による効率性が重視され、2000年代は地球温暖化問題がエネルギー政策の中心軸に据えられてきた。私がIEAに在籍していた2002-2006年の頃、懇意にしていた欧州のあるエネルギー政策担当者が「欧州のエネルギー政策は温暖化問題にハイジャックされた」と言っていたことを思い出す。

欧州委員会の関与の高まり

 気候変動政策が欧州のエネルギー政策を席巻するプロセスはEU各国と欧州委員会との間の主導権争いとも重なる。貿易政策と異なり、EU諸国のエネルギー政策は元来、各国の主権に委ねられる部分が大きかった。
電源構成

欧州諸国の電源構成(2011年11月)

 各国のエネルギー賦存状況や、特定のエネルギー源(特に原子力)へのポジションが大きく異なる以上、当然のことでもある。上の図にあるように、欧州諸国の電源構成を見ても、石炭中心のポーランド、原子力中心のフランス、水力・原子力中心のスウェーデン、スイス、原子力を排除するイタリア、デンマーク、オーストリア等、バラバラである。

 しかし伝統的に各国に委ねられてきたエネルギー政策についても90年代以降、欧州委員会の関与が段々に高まってきた。域内共通エネルギー市場に向けた電力・ガス自由化指令、域内共通エネルギー市場を機能させるための優先的エネルギーインフラ整備(特にガスパイプライン、送電網)等がその事例である。