欧州のエネルギー・環境政策をめぐる風景感(その1)


国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院特任教授

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再生可能エネルギー政策の蹉跌

 その典型例が日本で何かと理想化されて報じられる再生可能エネルギー促進策である(最近、ようやく欧州の再生可能エネルギー政策の実像が報じられるようになってきたのは喜ばしい限りである)。ユーロ危機の直撃を受けたスペインでは、財政赤字削減のため、政府が補助してきた再生可能エネルギー固定価格購入制度を中断せざるを得なくなった。またユーロ危機によって庶民の可処分所得が圧縮される中で、上昇を続けるエネルギーコストが各国で政治問題化している。エネルギーコストは逆進性が強く、低所得層になるほど、総家計支出に占めるエネルギーコストのシェアが増大する。「歴代政権の中で最もグリーン」を標榜していた英国のキャメロン政権は、再生可能エネルギーの中でも割高な太陽光発電への間接補助を大幅にカットし、むしろシェールガスの開発に重点を置き、環境団体の批判を浴びている。日本の固定価格購入制度のお手本となった本家本元ドイツでも、行き過ぎた消費者負担が政治問題化し、かつて環境大臣として再生可能エネルギー推進に辣腕をふるったガブリエル社民党党首が、大連立政権の副首相兼経済エネルギー大臣として再生可能エネルギー政策のコスト削減に取り組んでいるのは皮肉な構図である。

 もちろん欧州におけるガス、電力料金の上昇を再生可能エネルギー推進策のみに帰するのはフェアではない。英国エネルギー気候変動省が2013年3月に発表した資料によると平均的な家庭の年間電力・ガス料金1267ポンドのうち、エネルギー気候変動政策に由来する部分は112ポンド(約9%)とされている。他方、再生可能エネルギーへの支援、それに伴うネットワークコスト、スマートメーターの設置等でエネルギー代金は2020年までに更に200ポンド上昇するという電力事業者の見通しもある。石油やガスのコストは国際市況で変動するものであり、やむを得ない部分はあるが、問題は政府自身のイニシアティブであるグリーン政策によって、どこまでエネルギーコストを引き上げることが許容されるかということだ。英国では労働党のミリバンド党首は「エネルギーコストの上昇に直面しながら現政権は全く無策だ。2015年の総選挙で労働党が勝ったら、20ヶ月の間、エネルギー料金を凍結する」と咆哮し、保守党のキャメロン首相は「エネルギー価格上昇はミリバンド党首がエネルギー気候変動大臣の時代に導入した施策が原因だ。グリーン補助金を削減すべきだ」と応酬する等、エネルギーコストが次期総選挙に向けた主要イシューになりつつある。

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