これでよいのか日本!

グラフに見る石油・ガス史上最高値の時代と日本


国際環境経済研究所主席研究員、(一財)日本原子力文化財団 理事長

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敬意を表したい BP エネルギー統計:Statistical Review of World Energy

 毎年、6月に、石油開発メジャーのブリテイッシュ・ペトローリアム:BPが通称“BP統計”(“Statistical Review of World Energy”)を公表している。この統計は今年で63年目になるようだが、長年利用している者の一人として、BP関係者に最大級の敬意を表したい。
 最新の2014年版からグラフや統計値を素材に、以下、ブログしたい。BP統計は、世界中で大勢の人たちが目にしているわけで、今さらの感があるのだが、皆さんの寛容さに期待させていただく。

現在、石油は、歴史的最高価格状況にある

 石油の産業としての誕生は、アメリカのオハイオ州クリーブランドでジョン・D・ロックフェラーが石油精製業に乗り出し(1863年)、1870年にスタンダード・オイルを創設した頃に始まったと言ってよいだろう。その後、電力システムと自動車の開発・発展が石油の一大産業への道を開拓した。
 したがって、石油の歴史は、およそ150年ということになる。
 次の二つのグラフ(前出BPのPresentation Slidesより)が物語るところをよく味わいたい。
 至近時点で日本のガソリン価格がイラク情勢の悪化と石油輸出への懸念により、リッター160円台後半の高値になった。普段あまりエネルギーに関心を寄せていないメデイアも取り上げている。しかし、この高値は、日本石油市場の歴史上三度目で、一時は180円の大台に乗せたこともある。
 目を世界に転じたい。図-1は、1863年からの石油価格推移のグラフである。筆者の好きなグラフだ。現在の石油価格が石油産業の歴史150年の中で名実ともに最高値水準にあることが一目瞭然で分かる。

図-1 原油価格の歴史的推移
図-1 原油価格の歴史的推移

アメリカを除く世界の天然ガスも高価格化

 天然ガスを見てみよう。日本にとっての天然ガスは、全て液化されて輸入されて来るLNGだ。日本が都市ガス用、そして、世界に先駆けて発電用燃料として、東ガス・東電共同でLNGを導入したのが1969年(昭和44年)に始まる。最初に輸入したアラスカ産LNGの価格は、当時の石油に比べ3割ほど高かったようだ。このことを頭の片隅に於いてグラフを見てみよう。
 図-2は、天然ガス価格の推移を価格条件のフェーズを合わせ(ドイツの天然ガスは、パイプラインで輸入されているが、これもLNGと比較できるようフェーズ合わせがされている)、日米独英について比較してくれている。よく指摘されるとおり、日本の輸入LNG高価格が目立つ。しかし、ここで注目したいところは、安いシェールガスの生産増が続くアメリカを別にして、天然ガス価格もトレンドとして高価格化しており、特に、ここ数年はかってなく高くなっている点である。具体的価格の推移は、表-1にあるとおりだ。この表もBP統計からだが、有り難いことに右側には、原油のOECD諸国平均輸入価格が記載されていて、大いに参考になる。

図-2 日米独英の天然ガス価格推移(単位:$/百万btu)
図-2 日米独英の天然ガス価格推移(単位:$/百万btu)
表-1 天然ガス価格比較(単位:$/百万btu)
表-1 天然ガス価格比較(単位:$/百万btu)

そんな状況下、日本は、石油・天然ガスの消費が増えている

 2011年3月の巨大津波によって引き金を引かれた福島原子力事故の影響によって、現在全ての原子力発電は稼働していない。動いていない原子力発電欠落分を各電力会社は、古い火力発電ユニットを整備して動かしたり、既存火力をフル稼働させたりして補っている。当然のこととして、燃料消費量は、大きく増加している。
 発電用燃料消費量について、2010年度とその後(2011~2013年度平均値)を比較すると、石油:2.3倍、石炭:42%増、LNG:32%増となっている。表―2はそれを示したものだ。

表―2 発電用燃料消費量推移(10電力会社年度発受電実績)
表―2 発電用燃料消費量推移(10電力会社年度発受電実績)

発電用燃料費は二倍以上に

 以上の通りの状況は、当然のこととして、発電用燃料費の大幅増加をもたらしている。北海道から九州までの9電力会社の燃料費合計で見ると、2010年度:3.66兆円だったが、2013年度には、7.79兆円と2倍を超える大幅増加となっている。良くマクロ的に語られる通り、原子力発電の欠落は、発電用燃料の消費増加をもたらし、燃料費の増加額は年間3兆円を超えているのだ。この影響により、日本の貿易バランスは、この6月で、23か月連続の赤字となっている。
 一方、発電用燃料費の急増は、結果的に、電気料金の値上げと言う形で、電力消費者の負担増加となっている。

隠れた負担:電力会社の赤字決算

 しかし、原子力発電欠落の影響の実情は、電力料金値上げだけに留まらない。電力会社の赤字と言う形で隠れてもいるのだ。因みに、電力9社の経常損益を見ると、24年度合計:1.44兆円の赤字(9社全て)、25年度:赤字6社計・4,893億円となっている。

改めて、問いたい。“日本はこれでよいのか?”

 以上、2014年版BP統計に始まり、改めて、この歴史的エネルギー高価格時代に原子力発電を稼働させず巨額な燃料費を支払っている日本の姿を概観してみた。
 三年前の東日本大震災の巨大津波が引き金となって福島第一原子力事故が発生した。福島を中心に、未だに多くの方々が自宅に戻れず避難生活を余儀なくされている。
 一方で、福島事故の経験も踏まえ、各原子力発電所では安全対策も高められてきている。再稼働のため、10基の原子炉の安全性評価申請が提出されてから、既に、一年が経過した。その後、現在までに安全審査申請済みの原子炉は計19基に及んでいる。しかし、一向に審査の具体的進捗は見られない。
 日本は、本当にこれでよいのだろうか。皆さんに問いかけたい。

2014年7月10日