オバマ政権の環境・エネルギー政策(最終回)

環境・エネルギーを巡るオバマ外交


環境政策アナリスト


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 オバマ大統領は、これまでみてきたようにこうした米国のエネルギーを取り巻く状況が一層強靭なものになるなかで、核軍縮、核不拡散と原子力の平和利用を通じて国際的な安全保障へ取り組むだろう。そして地球環境問題を通じて国際的に貢献をすることを、legacy(「政治的遺産」)とするかのような意図が見える。両方とも現状の袋小路だけみればなかなか前進は難しい。しかし、冒頭に述べたように仮に民主党時代が続くことも十分考えられる中でオバマ大統領が立ち上げた政策が大きな潮流となっていく可能性もある。そうしたならばオバマ大統領の施策が十分でなくとも後世からみればlegacy(「政治的遺産」)とみられるかもしれない。そういう意味でもう選挙に気を配る必要性のないオバマ大統領はその政治的資源をすきなだけ活用するだろう。つまり第一期よりも第二期の方がオバマ大統領らしい政策を打ち出す可能性があると考えられる。そのためにも多少過去のことを整理したうえでどのような道筋に沿って進んできたか、これからどの道筋へ進むだろうかと考えることは意味があるかもしれない。

 オバマ大統領はアフガニスタン侵攻を2014年全面的に撤退すると発表した。同国の治安は悪化したままであるが、2300人の兵士を失った米国民の強い思いでもあっただろう。4500人の兵士が死亡したイラク侵攻にも厭戦ムードが広がっていた。そういう思いの中でオバマ大統領は大統領に就任し、終結への道筋をつけた。ブッシュ大統領のときに活躍していた先制攻撃を是認するネオコンは表から完全に姿を消し、ハーバー大学先輩のジョセフ・ナイ教授のソフトパワーをオバマ大統領は標榜する。局面的にはアフガニスタン増派を決定したときにその姿勢に疑問を投げ掛けられたこともあるが、基本的にはソフトパワーを現実的に指向してきた。長い戦争に耐えてきた米国民にも支持されている。核軍縮、核不拡散と原子力の平和利用、そして地球温暖化問題をソフトパワーによる外交に基づいて解決しなければならない。
 オバマ大統領とロムニー候補が大統領選挙をしているとき、ある共和党支持者はわたしに「ロムニー候補なら中東に安定をもたらすであろう。しかし、オバマ大統領では中東は混乱し、原油価格が上昇するであろう」と言っていた。イランなどは対米融和派の新しい大統領が選出されるなどのオバマ大統領の外交方針にとって一見したところ有利な情勢が生まれつつある。どこまでソフトパワーによる外交で実を挙げることができるか、真価が問われる。「悪の枢軸」と呼ばれた3国はブッシュ大統領のときのような対立関係ではないものの、いまだその行く末は予断を許さない。ノーベル平和賞の対象となったプラハ演説は実行に移すことが求められている。核軍縮・核不拡散においてどのようなものでもいいから国際的合意がほしいところだろう。それができるとハードパワーでは解決できなかったという評価を得、ソフトパワーの有効性が相対的に高まるであろう。オバマ大統領はソフトパワーによる一層の核軍縮・核不拡散・原子力平和利用の推進を後世にまで残る貢献という積極的意味でのlegacy(「政治的遺産」)にしようとしていると思われる。
 地球温暖化についても中国との間で合意したような個別の合意をBASIC(新興国)との間で積み上げていくことができたとすれば、米国がずっと主張していた「applicable to all」(すべての国に適用)の原則へ進むことができる。2015年にも予定される国連気候変動枠組条約交渉に対して国際社会をリードできる。仮に議会の勢力分布が変わらずキャップ&トレードによる法制度化ができなくても、規制を巡る訴訟が多発したとしても国際的に合意できる分野はある。この点でもlegacy(「政治的遺産」)作りのためには好材料となるかもしれない。国際的評価を背にlegacy(「政治的遺産」)づくりを可能であると見ているのかもしれない。
 国務長官に2代にわたり前上院議員、大統領職を狙おうとした大物を据えて行ってきた外交は第二期で実を結ぶことができるか、おおいに注目して見て行きたい。

おわりに

 筆者は会社において米国のエネルギー・環境政策を長く見てきた。その後ワシントンに駐在することによって多くの友人を得てそれまでの文字による頭での理解に加え、空気による肌での理解が可能になった。ワシントンはいろいろな世界の動きに敏感で常に新しいイシューが出てくる。そうした中に身をおくことはエクサイティングである。一方、多くの地方はより身近なイシューに囲まれ、時間がゆっくりと動く。ワシントン、ニューヨーク、サンフランシスコは米国の中でも特殊な場所である。ドレスデンというシカゴからしばらく車で走ったところの原子力発電所を訪ねたとき、説明に出たエクセロンの社員は地元で生まれ、地元のコミュニティーカレッジで勉強し、そのままその発電所に就職したという。シカゴにはしばしば行くが、ニューヨークには生まれてから数回しか行ったこともなく、ワシントンには行ったことがないという。ワシントンや、ニューヨーク、サンフランシスコなどは地元に足場がない人たちが集まるが、他のほとんどの地域では多くの場合完全に地元に根付いた生活をしている人のほうが一般的である。米国はワシントンだけではなく、実際には各地方のこうした人々の考えが議会を通じてキャピトルヒルで集約される。しかも上院については人口に比例せず各州2名ずつの議員である。州としてはそれほど大きいほうではないオレゴン州とアラスカ州がエネルギー天然資源委員会の両トップとなっている。上院は、米国は州の連合体として誕生したという伝統に基づいて、一票の重さは関係なく一州の重さが優先する。こうして多数ではない人たちの利益が優先されるということもありうる。
 米国では政策を作り出すところは議会である。しかも2年ごとに全議席が選挙の対象となる下院というよりもひとりあたり6年の任期の上院の議員の影響力に注目する必要がある。そういう意味では大統領の動静と同じ、またはそれ以上に議会が重要であるが、それでもオバマ大統領になってねじれにも関わらず大統領と議会のやりとりは、健康保険制度改革、財政の崖、などでみたように重要な側面であり、そこにまさに米国民主主義の要諦があると言っても差し支えない。
 オバマ大統領が、2004年の大統領選挙のときに自身連邦上院議員への候補として民主党党大会のトップの演説をケリー候補のために行った。そこで当時イリノイ州上院の一議員に過ぎなかった地方政治家が中央で鮮烈な政治的デビューを飾ったのであった。それから4年でみずから大統領候補として名乗りを上げた。マスコミの露出が増えた、当時近所の人たちと集まりがあるとビールを飲みながらさまざまにオバマ論議を行った。共和党支持らしき人、民主党らしき人それぞれにオバマ大統領の人物評の議論になった。それも「ヒラリーは意地悪だ」とか「ブッシュは家族でマイアミに旅行しても一人でお昼はゴルフに興じ、夜は酒におぼれている」などというゴシップ的な人物票でなく、演説に関する話題だったり、そのハーバード大学での活動(ハーバードローレビュー編集長だった)、地域政治活動などの内容だったりした。その時から党派の違いを超えてどのようにオバマ氏をとらえるかを皆で探っていたように思う。それが第二期目に突入し、すでにその人柄を探るということはなく、民主党出身の歴史的な大統領たちとの比較においてどういう政治的実績を残すかという段階に入ったようである。しかも、彼の業績は彼だけのものでなく、今後のアメリカの流れを作るものになるかもしれない。
 もちろんオバマ大統領を財政、外交、安全保障、医療保険などの観点で論ずるとまったく違う政治家像になるのかもしれないが、浅学菲才にしてそこまですべての側面を含めた理解はわたしにはできない。そうした論点からの論評を待って議論をすることを期待したいと思う。またエネルギー・環境問題といっても、わたしのバックグランドである電力との関係が前面に出すぎたかも知れない。この点も違った観点があるかもしれず議論を期待したいと思う。
 わたしがワシントンから帰国後あるところで報告を求められて、オバマ大統領のエネルギー・環境政策を論じさせてもらったのがこの報告の出発点である。その後、地球環境の仕事をする中で米国の動きを押さえないと国際交渉の行方を見間違えると考え、駐在時代に作ったネットワークを通じてさまざま意見交換を通して得た情報をそのつど報告してきたものがあった。それをパソコンの中で書き散らしのままになっていたものを整理して書きとめたのがこの報告である。
 ここでの情報源の主たるところはワシントンで活躍されている、国際技術・貿易アソシエーションのチャールズ・ダイク将軍、エリック・ランデル氏、エジソン電気協会のジョン・イーストンらの多くの敬愛すべき諸兄・友人からのものであり、それらが出典の中心をなしている。かれらが忙しいときにわたしに割いてくれた友情に感謝したいと思う。特にランデル氏とは頻繁にメールや面談を通して多くの議論を重ねてきた。特別の感謝を申し上げたい。ただし、当然のことながらここでの文責はすべて筆者にあることを付け加えておきたい。


前田 一郎氏(まえだ・いちろう)
環境政策アナリスト
1956年横浜市生まれ。1980年早稲田大学政治経済学部卒業。同年東京電力入社。日本エネルギー経済研究所派遣を含め、原子燃料部、企画部、国際部に加え、1992年から1996年の間ロンドン事務所駐在、2004年から2008年ワシントン事務所副所長。


<参考文献>
Foreign Affairs & CFR Papers 2009 No.1 マイケル・レビー「経済刺激策と地球温暖化対策を一本化させよ」
Center for American Progress Capturing the Energy Opportunity: Creating a Low-Carbon Economy
エネルギー情報局(EIA)Annual Energy Outlook 2013
NEDO海外レポート No.1991,2012.12.20 ARPA-E(DOE高等研究計画局)選定プロジェクト-技術概要リスト
みずほ証券リサーチ&コンサルティング 米国経済ウォッチ(No.13-16)「暫定予算成立、「財政の崖」問題はほぼ終了」
E&ETV 2012年10月8日 Presidential debate; Romney, Obama campaign surrogates debate energy and climate issues
Paul Joskow Natural Gas: form Shortages to Abundance in the US December 31, 2013
113th Congress Congress of the United States House of Representatives Committee on Energy and Commerce Gene Dodaro Controller General U.S. Government Accountability Office宛 Fred Upton 議長およびJohn Shimkus Subcomiittee on Environment and the Economy 議長書簡
エネルギー経済研究所 杉野綾子電力グループ主任研究員 米エネルギー省委託のLNG輸出マクロ経済影響調査に関する論点整理
米国天然ガス産業の変革及び今後の展望について JETRO(ジェトロ)ヒューストン謙次郎氏Union of Concerned Scientists Production Tax Credit for Renewable Energy April 1 2013
February 15 2013 New York Times Mattew L. Wald In New England, a Natural Gas Trap
Foreign Affairs Bjorn Lomborg Environmental Alarmism, Then and Now July/August 2012
Pew Center Global Climate Change Summary of the American Power Act(kerry-Lieberman)
May 2010
The President’s Climate Action Plan Executive Office of the President June 2013
Generation mPower delivering clean energy to the wind with small modular reactor technology
Discussion Draft: A Bill to establish a new organization to manage nuclear waste, provide a consensual process for siting nuclear wats facilities, ensure adequate funding for managing nuclear wate, and for other purpoese
米国における水質・大気排出規制の動向 2012年5月日本貿易振興機構(ジェトロ)

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