関心が集まるか米国共和党大統領候補者討論会


環境政策アナリスト

印刷用ページ

 8月23日ウィスコンシン州ミルウォーキーで2024年11月に予定されている次期大統領選挙に立候補を表明している共和党候補による討論会が開催された。トランプ前大統領は2021年議会議事堂襲撃事件を始めとする4件の事案で起訴されている中欠席した。ウィスコンシン州は伝統的に接戦州であり、2016年はトランプ前大統領が制し、2020年はバイデン大統領が勝利している。また、ミルウォーキーは2024年共和党大会が予定されている。共和党内の争点として浮上すると思われる点を中心に紹介したい。

候補者の顔ぶれ

 現在各候補の支持率(8月21日時点)は、一位ドナルド・トランプ前大統領55.4%、以下ロン・デサンティスフロリダ州知事 14.3%、ヴィヴェック・ラマスワミ氏(実業家)7.2%、マイク・ペンス前副大統領4.0%、ニッキー・ヘイリー元国連大使 3.2%、ティム・スコット上院議員(サウスカロライナ州)3.1%、クリス・クリスティー前ニュージャージー州知事3.0%、エイサ・ハッチンソンハンソン前アーカンソー州知事0.8%、ダグ・バーガムノースダコタ州知事0.6%、ウィル・ハード元下院議員0.4%、ラリー・エルダーラジオ司会者0.4%となっている。当然この中には途中、出馬を取りやめる候補も出てくると思われる。最大支持率のトランプ前大統領を中心として2位以下の候補は大まかに言えば3つに分類できる。

  • 反トランプ派:伝統的穏健共和党に分類され、自由市場指向派。トランプ氏の影響力を共和党から排除しようとし、仮にトランプ氏が起訴されている事案で出馬できない場合指名のチャンスがあると考えている。クリスティー、ハッチンソン、ハード候補がこのグループに入る。
  • 共和党体制支持派:現在の共和党の体制を重んじ、トランプ氏に取って替わろうとするが、トランプ支持者を排除することはしないと見られている候補。伝統的共和党派と異なり、アメリカ第一のトランプ氏の主張を受け継ごうと考える。ペンス、ヘイリー、スコット候補がこのグループに入る。
  • トランプ亜流派:トランプ氏の政治的スタイルを模倣しようとする。ワシントンとは距離を置いてきており、外交、国政、社会問題などで伝統的な共和党から離れたポジションをもつ。トランプ氏が立候補できない場合に取って替るか副大統領指名をもくろむ。デサンティス、ラマスワミ、バーガム、エルダー候補がこのグループに入る。

討論会の主な議論

外交問題
 いずれの候補者も、中国を米国に対する外交的敵対者とみていることに変わりはない。またロシアによるウクライナ侵攻がもっとも喫緊の課題であると考えている。ラマスワニ氏は「ウクライナへの資金提供はいま止めるべし、ウクライナ支援はロシアを一層中国に接近させる」と述べたが、これは共和党支持者の中にある一定の主張を代表するものであろう。クリスティー氏は「ウクライナ人にプーチンの軍隊がなにをしているかみたい」と言い、プーチンを「天才」と呼んだトランプ氏を批判。ヘイリー氏は「ロシアに対する勝利は中国に対する勝利」と発言をしてウクライナへの支援に反対する主張を批判した。

妊娠中絶問題
 連邦最高裁判所は2022年6月人工妊娠中絶を憲法上の権利と認めた「ロー対ウェイド判決」を覆したが、関連して議論されている妊娠15週以降の中絶を禁止することを連邦レベルで合法とするかどうかについて、討論会参加者はおおむね賛成し、議会に審議を必要とする(ヘイリー氏)か、道徳的問題としてそれは不要とする(ペンス氏)かに見解が分かれている。

気候変動問題
 討論会参加者は、気候変動問題が人為的な要因であるという考えにヘイリー氏を除き反対した。8月20日に26年ぶりにカリフォルニア州を通過したハリケーンヒラリー、その前週過去100年で最悪の被害を出したハワイの山火事があって、一般国民の中でも気候変動が関心事となっている。ただし、民主党支持者の78%が気候変動を主要な脅威であると考えるの対し、共和党支持者では23%に過ぎない(ピューセンター調べ)。こうした災害があっても過去10年間その傾向は変わっていない。ハワイ山火事へのバイデン大統領の対応の問題(デサンティス氏)、中国・インドが温室効果ガスの排出を削減すべき(ヘイリー氏)などの発言があったが、反炭素政策は経済に水をさす(ラマスワニ氏)との主張には会場からの不満の声が上がった。

今後の予定

 次回は9月27日カリフォルニア州シミバレーで第二回討論会が行われる予定であるが、ここで今回討論会参加者のうち何人かは脱落するであろう。トランプ氏は引き続きこの討論会を無視すると言われている。その意味でこのプロセスがどの程度国民の関心を引き付けるのかは、今のところ不透明である。また、この討論会がトランプ氏に近いFoxニュース主催で行われたこと、また53 %の共和党支持者は今やFoxニュースの報道を信頼できるものと答えていることを考えると一層穏健共和党を代表する候補者の主張はかすれていき、トランプ氏寄りの議論にすり寄せられている可能性が強い。

出典:
国際技術貿易アソシエイツ
ブルッキングス・コンメンタリー記事(8月23日付)
アキオスニュースレター(8月25日付)
ピューセンター調査(6月28日)