再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)の見直しは可能か


Policy study group for electric power industry reform

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 2012年7月に再生可能エネルギーの固定価格買取制度(いわゆるFIT)がスタートして1年間余りが経過した。法施行後の3年間は再エネの加速的普及をはかるために発電事業の利潤が政策的観点から適正以上に上乗せされ、太陽光発電の買取単価が諸外国の水準を大きく上回る設定とされるなど、急速な再エネ拡大に向けた期待が集まる一方で、将来的な国民負担増大への懸念も残されている[1]。
 我が国より一足早く2000年からFITを始めたドイツでは、国民負担の急激な増大に対する産業界などからの反発が強まりつつあり、今年9月の連邦議会選挙後に抜本的な制度の見直しが行われると伝えられている。日本でも法施行3年後となる2015年度以降には、国民負担を抑制しつつ再エネを普及させる制度への改善が望まれる。ここでは今後の議論の一つの材料として、FITの改善策の試案を提示してみたい。

1.再生可能エネルギーの普及策

 現在、我が国を含めた多くの国で再生可能エネルギーの普及のために何らかの政策手段が採られている。主な普及策を簡単に整理しておく。

  ① 政府による発電設備への設置補助金
  ② 政府による発電事業への税額控除(PTCもしくはITC)
  ③ RPS(Renewable Portfolio Standard)制度
  ④ FIT(Feed in Tariff)制度
  ⑤ 市場価格へのプレミアム分助成(Feed in Premium)制度

 日本ではもともと①と③が用いられていたが、現在はドイツ・スペインなどが先行したFITに移行している。
 米国では③のRPS制度を多くの州で採用しているが(29州とワシントンDC)、加えて政府による助成(①や②)が行われている。このうち税額控除による優遇には、年間の発電量に応じた税控除をおこなう生産税額控除(Production Tax Credit: PTC)と、プロジェクト投資額の一部を税控除する投資税額控除(Investment Tax Credit: ITC)がある。米国ではいわゆる「財政の壁」の影響でこれらの優遇税制が廃止されるとの観測から、風力発電業界で新しいプロジェクト計画が減少し雇用数も減るなどの影響が出ているとされていたが、議会を通過した「財政の壁」回避策では、2013年に建設開始される風力発電プロジェクトに対して税額控除が継続されることになった。
 ⑤のFeed-in Premium(FIP)制度は、再エネ電気を卸電力市場に売却した際の市場価格に一定のプレミアムを助成する(助成の原資はFITと同様に賦課金として全需要家が負担する)方法である。FITを採用していたデンマークおよびスペインで採用され、ドイツでもすでに一部施行している方式である。

2.ドイツにおけるFIT見直し議論

 ドイツではすでにFITによる2013年のサーチャージが5.277セントユーロ/kWh(約6.9円/kWh、年間3500kWhを消費する平均世帯の負担額は年間24,000円程度)という水準にあり、現行制度を続ければこの額はさらに増大していく見通しである。これに対し産業界などを中心に再生可能エネルー買取法(EEG)の見直しへの強い要請が出ている。
 メルケル首相もBDEW(ドイツドイツ連邦水道・エネルギー連合会)年次総会での講演で、ドイツの再エネ優遇政策には変わりがなく、既設の再生可能エネルギーへの助成を遡及して見直すことはないとしつつも、「再生可能エネルギーもドイツのエネルギー転換を実施するためのコストにもっと貢献するべきだ」として、連邦議会選挙後のEEG改正による再エネへの助成措置の大幅な見直しを示唆している[2]。これを受けてBDEW会長は3つの方向性を要請している。

再生可能エネルギー事業者には、市場への直接売電(Direct Marketing)を義務づける。
(なおDirect Marketingは現在でも選択できるが、これをすべての再生可能エネルギーに義務づけるアイディアは2月にアルトマイヤー環境相が言及している)
連邦と州政府での整合のとれた導入計画を立てる
再生可能エネルギー全般に関わるコストを抑制するため、市場のインセンティブを活用して再エネの拡大を図る

 EEGの見直しがどのように行われるかは9月に行われる総選挙の結果を待たなければならないが、現状の情勢から見ると国民負担軽減のために何らかの改正が行われる公算が大きいと考えられる。

3.FITへの競争の導入

 RPS制度のもとで再エネの導入義務を課された電力会社は、競争入札などを実施することによりできるだけ安価に再エネからの電気を購入しようとする。RPSのメリットは再エネ発電事業者間の競争により再エネの売電価格が低減されることだといえる。一方、RPSの課題は電力会社への義務量の設定方法である。義務量が大きすぎれば導入コストが拡大する一方、小さすぎれば普及は進まない。
 FITとRPSのいずれの場合も、再エネ発電事業者と電力会社(あるいは送電系統運用者)との間に長期相対契約が結ばれ、事業期間中のキャッシュフローの相当程度が固定されるので、市場価格に一定のプレミアムを助成するなどの枠組みよりも、再エネ事業者の資金調達面では有利となるだろう。
 FITとRPSの価格決定メカニズムは図1のように表現できる。FITでは購入量によらず買取価格が固定されるため需要曲線は水平になる。RPSでは逆に購入量が固定されるため需要曲線は垂直になる。いずれの場合も再エネの量または価格の一方をあらかじめ固定した「極端」な買い方だといえるだろう。

図1 FITとRPSの価格決定メカニズム

 これを改善するため調達量や調達価格を前もって固定せず、価格に応じて調達量を変化させる方法として、再エネからの長期の買電契約(PPA)の締結のために、売り手と買い手の双方が価格をつけあうダブルオークションを考えてみる。

買い入札:あらかじめ右下がりの需要曲線を考えてこれを買い手の入札曲線とする。
売り入札:売り手(再エネ発電事業者)側が設備容量(kW)・売電価格を応札する。

 この入札を毎年おこなって、その結果によって調達量(kW)、調達価格(\/kWh)を決定し、落札した再エネ事業者と電力会社(または送電系統会社)の間でPPAを締結するのである。買取期間中(15年~20年)の買取価格は入札で決定した調達価格に固定される。このプロセスによって決定した価格と電力会社(または送電系統会社)の回避可能原価の差額による負担分は、FIT同様にサーチャージによって回収されるものとする。
 価格決定にダブルオークションを採用するメリットは、

売り手側の競争により再エネ価格の低減が期待できること
再エネ導入量の増加に従って自動的に買取価格が低減されるため、国民負担を一定範囲に抑制しながら再エネの導入を進められること
従来のFITやRPSと同様に、電力会社(または送電系統会社)が再エネ事業者から長期相対契約によって再エネの電気を購入するため、再エネ事業者の資金調達が容易となることと想定されること
FITでは随時、系統連系の申し込みがなされ、連系希望地点のバッティングが生じれば先着優先で接続されるが、年間1回のオークションとすれば系統増強コストも含めて最適な再エネを選定できる。また多数の再エネを一括して送電する合理的な系統増強プランを策定できる

などがあげられる。一方で買い手側の入札曲線の決め方が問題になってくる。

 図2は太陽光発電の発電コストの「学習曲線」の例であり、導入拡大にしたがって発電コストがどのように低下するかを、累積生産量に対して概ねコスト対数的に低下するという前提で推計したものである。需要曲線を設定する際には、この価格見通しの学習曲線を参考にすることが考えられる。

図2 学習曲線による再生可能エネルギー(太陽光発電)の発電コスト見通しの例[3]

 つまり学習曲線の左側から前年度入札までの落札分(累積導入量)を取り除いて、当該年度の新規購入の入札曲線にするのである(図3)。この場合に入札の上限価格は前年度の買取価格になる。このような仕組みにより、再エネの導入量と価格はあらかじめ設定した学習曲線の上を推移することになる。なお、この例では単純化して太陽光発電のみを考えているが、再エネの種類毎に学習曲線が異なるので、その違いの扱い方は課題となる。

図3 学習曲線を利用したダブルオークションによる価格設定

 これにより再エネ普及が進んでも、国民負担の総額はあらかじめ想定した一定額を超えることはない。なおこの制度上では、再エネの導入拡大や価格低下がどの程度早く進むかは、競争や技術革新などによる価格低下次第である。早期に価格低下が進む場合にはこの学習曲線の上を速いペースで導入が進んで政策的な助成が不要となり、他方、学習曲線における価格低下の見込みに無理があった場合には導入が停滞することになる。逆に言えば、当初の見通し通りにコストが低下しないにも関わらず、再エネの普及が進んで国民負担が増大することを避けることができる。

4.今後の課題

 再生可能エネルギー導入拡大に関わる負担の軽減策としてFITを改善する一つの試案を提示したが今後議論すべき課題も多い。例えば以下のような課題が考えられるだろう。

再エネの種類毎にオークションを行うのか、まとめてオークションを行うのか
すべての再エネをまとめてオークションする場合、買い手側の需要曲線をどのように決めるのか
検討する機関や前提によって学習曲線は複数存在するが、これらの中からどのように適正な需要曲線を定めるのか

 試案に多くの課題はあるものの、将来の国民負担の総額を提示しながら、再エネの導入を拡大していく(あるいは一定以上の負担となるならば省エネルギーなど代替技術を推進する)ことが本来望ましいのではないだろうか。今後の活発な議論を期待したい。

<参考文献>
 
[1]
澤 昭裕ブログ:「再生可能エネルギーは本当にコストダウンするか?
[2]
“Chancellor Merkel Outlines Aspects of Reform of Renewable Energy Sources Act,” German Energy Blog, http://www.germanenergyblog.de/?p=13317
[3]
朝野賢司:「太陽光発電は普及すればコストが下がるのか?」、SERC Discussion Paper SERC09033

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