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COP18現地報告1 -記者泣かせの「裏年」-


国際環境経済研究所前所長


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 気候変動枠組条約締約国会合(COP)がカタール・ドーハで開かれている。
COPには表年、裏年のようなものがある。交渉対象がシンボリックなものであって世間の注目を集め、各国首脳が関心を示すような会議になるのが「表年」だ。京都議定書が署名されたCOP3や各国批准の流れが決まったCOP7(マラケシュ)、ここ最近ではオバマ大統領が参加し、日本からは新たに政権の座に就いた鳩山総理が温室効果ガス▲25%削減構想を引っさげて現地に赴いたCOP15(コペンハーゲン)などがある。一方、こうした年に比べると、交渉対象がテクニカルで、各国の首脳やメディアも関心が薄い年が「裏年」だ。
 今回のCOP18は「裏年」に当たると言えよう。昨年の南アフリカ・ダーバンで、各国は京都議定書の次の枠組みの交渉を始めることに合意し、2015年末を目指して、全ての国に適用される法的効果を持った取り決めを目指して交渉することとなった。今年はこれから始まる長丁場の交渉の入り口であり、各国とも、ジャブの打ち合いまでも行かない様子見の姿勢だ。
 米中は新たな政権が決まったばかり、EUは経済危機の真っ最中、日本は総選挙の公示が行われたタイミングと、主要国や各国メディアは国内問題の方に関心が集中している。気候変動対策は国内経済に及ぼす影響や国際競争力の問題に直結しているため、各国とも国内での納得や合意がキーポイントになる交渉であるため、こうしたタイミングでは各国とも大胆な提案や譲歩などを行うことは極めて難しい。

 もちろん、これまでの国際交渉で懸案になっている点はいくつかある。例えば、
1)京都議定書の次の枠組みに向けての交渉の下準備がどの程度整うか(作業計画やスケジュール等)
2)それとの関連で、今後温室効果ガスの削減義務が課せられることを懸念する途上国が、先進国からの資金や技術を今後とも継続的に引き出すことを目的として、どのような主張をしてくるのか・先進国がそれを認められるのか
3)京都議定書第二約束期間について、特にEUが批准可能な形での数量目標コミットメントを行うかどうか
4)その他の技術的な問題として、新たな市場メカニズムとして日本が提唱している二国間オフセット・クレジット・メカニズム(BOCM)がどのような扱いになるのか、また京都議定書上のメカニズムであるCDMは、第二約束期間に入らない国にも使うことが認められるのかどうか、第一約束期間を終えると一定の国に発生する大きな余剰枠は持ち越せるのかどうか

などである。これまでの前半の事務レベル交渉では、なにも進展を見せておらず、今後の閣僚級会合の交渉に委ねられることになっている。
 ただ、これらの問題は総じて技術的で、新聞やテレビのトップを飾るような話題ではない。これから本格化する閣僚級会合で、よほどのサプライズが飛び出さない限り、大きな報道の扱いになることはないだろう。その意味では記者泣かせの「裏年」である。

 ただ、こうした「裏年」には、「アヒルの水かき」のように、表面的には地味でも長期的には大きな効果を発揮する取り組みがスタートすることがある。例えば、先の日曜日に開かれた「ドーハ・ダイアローグ」という産業界と政府の話合いを積極的に行う取り組みがそれだ。世界の産業界には、「炭素価格(carbon price)」をキーワードに排出権取引制度を推奨する企業もあるが、同制度下で排出枠を国家が管理したり割り当てたりする介入的な手法を嫌い、ボトムアップ的なアプローチを志向する企業群も多い。特に、日米の産業界はこうした点で同じ認識を共有している。

 このドーハ・ダイアローグは、次のようなことが話し合われた。
1)ボトムアップ的な産業界による温室効果ガス削減活動や適応(adaptation)への取り組みを促進するには、どのような国際的枠組みが望ましいかについて、次期枠組みに関する政府間交渉プロセスに産業界の声を反映させるにはどうすればよいか
2)また他方で、政府側も技術移転や民間資金の動員を可能とするよう産業界の協力を取り付けるためには、どのようなプロセスを用意していくことが効果的か

などである。 
 これまでは、交渉は政府、実施は産業界というのが温暖化問題の国際的取り組み方だったが、今後は取り決めに向けての交渉プロセスの早い段階から、産業界と政府が相互に意見交換を密にしていくことを意識的に行うことが重要になってきそうだ。各国の政府交渉団には職業交渉官のような人も多く、これまでは実業の世界で何が起こっているか、何が可能かということについての深い洞察もなく、交渉過程での法的・政治的ゲームが中心になってきたきらいがあるのが、温暖化交渉だ。
 こうした取り組みは、まだメディアの注目を浴びていない。しかし、今後の京都議定書の次の枠組みの交渉過程を追っていくつもりがある記者にとっては、実は重要な取材対象になる。閣僚交渉ばかり追わないで、こうした隠れた「目玉」にも注目してもらいたいものだ。



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