ドイツの電力事情⑥ -供給力確保への苦闘-


国際環境経済研究所理事・主席研究員


 太陽光・風力など、出力が不安定な電源が大量導入された場合、送電網の整備等の系統安定化対策に加え、人間がコントロールできる安定的な調整電源の維持も必要となる。
 欧州各国では電力自由化が進んでおり、その一方で、再生可能エネルギーの導入を政策的に進めてきた。再エネ導入量の増加に伴って、ガスを中心とする火力発電所の稼働率が低下するに伴い、事業者は採算性の悪化した設備を廃止する動きを強めざるを得ない。しかし風力・太陽光などが「間欠性電源」であることを踏まえれば、安定的な調整電源は誰かが維持し続けなければならないのだ。
 このため、ドイツ、イタリアなど欧州各国で発電容量の維持を義務付け、それに対して一定の報酬を払う制度が導入されつつある。脱原発を宣言し、供給力に不安が出てきたドイツでは、ことはいっそう深刻である。
 2012年10月17日、ドイツ連邦政府は冬期の需給バランス確保を目的として、電力会社に対し、向こう2年間、現在の発電容量を維持することを義務付ける法案を閣議決定した。
 また、発電所の閉鎖時には少なくとも12か月前に規制機関(連邦ネットワーク庁)に申請すること、同庁が安定供給に支障が出ると判断した場合は廃止の差し止めを命じることができることも法制化している。電力会社には発電容量維持に伴い生じた費用の補償を行われることが予定されており、財源として電力関連の新たな課税が検討されている。連邦経済省は、これによる国民負担は1世帯当たり2ユーロ/年程度と試算している。再生可能エネルギーの賦課金による負担が来年1世帯当たり60ユーロ(約6000円)程度上昇する見通しである上に、こうした新たな課税を行うことは政治的にも非常に困難であることは容易に想像できるが、電力会社の財産権行使を制限するからには相応の補償が必要となるのは当然であろう。
 政府が打ち出したこの方針に対して、連邦消費者センター連盟が出したコメントがふるっている。「政府の計画を歓迎する。電力自由化は邪道であり、計画的なエネルギー供給に回帰することが必要」―計画経済化を望んでいるようにも聞こえるこのコメントには驚きと戸惑いを感じざるを得ないが、電気代の急騰に加え、供給にも不安が出てきた状況にドイツ国民も困惑していることがうかがい知れる。(Frankfurter Rundschau、“Regierung will Stromengpass per Gesetz verhindern”(2012年9月21日付))

 太陽光発電導入量において、ドイツに次いで世界第二位となったイタリアにおいても同様だ。2011年、同国の火力発電設備の平均稼働時間は約3,000時間、稼働率は33.9%まで低下している。ガスコンバインドサイクルでいえば、設備固定費の回収に必要とされる稼働時間は年間4,000時間とされており、固定費回収が不可能になっていることが分かる。そのため稼働率低下により採算が悪化している火力発電設備に対し、実際に発電を行わなくとも待機状態を評価して報酬を支払う、「キャパシティ・ペイメント」の規定を盛り込んだ法律が2012年8月3日、議会で可決された。

 この制度の目的は太陽光や風力が急増した結果、卸電力価格の低下に伴う運転時間の減少によって経済性を失った火力、主として比較的最近建設された高効率のガス・コンバインドサイクル設備を救済することである。 想定される補助金額は経済界の予測で5~8億ユーロ/年、再エネ業界の予測で15億ユーロ/年とされる。誰がそれを負担するかが問題だが、経済界への配慮から、法律上「電力価格や料金の負担を増加させることなく」制度を導入することが定められているため、再エネ発電事業者が負担せざるを得ないと見られている。

 同様に、イギリスではEUの環境規制強化や発電所の老朽化により、2020年までに現在の設備容量の20%に相当する約1,900万kWの発電設備が廃止されると見込まれている。急務となっている供給力確保策として、2011年12月に容量市場の創設を発表した。
 この他、低炭素電源(原子力・CCS付火力・大規模再エネ)を対象に、差額決済契約に基づき発電事業者の固定価格での卸市場への販売を保証する(CfD:Contract for Difference)の導入が11月23日決定した。決定に至るまでの詳細は、先日の日本貿易振興機構ロンドン事務所長有馬氏の寄稿にある通りだ。

 再生可能エネルギーの導入を進めることは、温室効果ガスの削減や燃料費の節減、エネルギーの自給率向上など様々な意義がある。しかし、再エネそのものの導入にかかる費用、送電網の整備等の系統安定化対策費用に加え、安定的な調整電源の維持も必要になる。設備の節減を図ることはできないのだ。再エネ導入に取り組んだために、再エネが大量に導入されなければ見えてこない、見ずに済んでしまう問題に現在直面している欧州各国がこの状況をどう打開するのかは、今年の夏全量固定価格買い取り制度がスタートした我が国にとって大きな示唆を与えてくれるだろう。この世の中、足の速いウサギばかりが目立つが、ゆっくりと歩くカメには、ウサギがどのルートを通ってどこに行きどうなったのか、見極めてから効率良く行動することができる。先行するウサギの成功にも失敗にも学ぶカメでありたい。

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