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第7話(2の1)「ポスト『リオ・京都体制』を目指して(その2)」


在ウィーン国際機関日本政府代表部 公使


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(1)全ての国に適用される(applicable to all Parties)こと
 最も重視すべき点であるといってよい。現行「リオ・京都体制」の最大の問題点は、1990年代初頭の国際社会をベースに排出削減義務を負う国と負わない国を厳格に分ける二分論(dichotomy)の構造であった。ダーバンCOP17では、新たな枠組みは「全ての締約国に適用される(applicable to all Parties)」ことが明記された一方、「共通に有しているが差異のある責任」原則については明記されなかった。もちろん、この将来枠組みの策定プロセスも現行の国連気候変動枠組条約の下で(under the Convention)行われる以上、同原則が否定されているわけではない。コペンハーゲン合意においても、各国が提出した温暖化対策目標は、先進国が絶対目標であるのに対し、途上国は効率性目標であるなど、内容もフォーマットも依然として差異はある。
 しかしながら、コペンハーゲンからカンクンを経て、ダーバンに至る国際交渉の流れが、先進国と途上国(特に新興国)の温暖化対策を出来るだけ共通の土俵にのせていこうとする方向にあることは明らかである。今後の交渉では、この方向性を更に後押ししていくべきである。「共通に有しているが差異のある責任」原則も、時代の流れに応じて再定義していく必要がある。こうした方向性はまた、新興国のプレゼンス増大にともなう、他の分野での国際枠組みの再編成の流れ(G20首脳会議の創設や、ブレトン・ウッズ機関における出資比率の見直しなど)にも沿うものである。如何なるグローバル・ガバナンスの構築においても、発言力と責任は表裏一体であることを全ての国が認識する必要があろう。

(2)法的拘束力(legally binding)のあり方
 気候変動問題を規律する国際枠組みが法的拘束力(legally binding)を持つべきか否かは、これまでの国際交渉で最も注目され、かつ論争をよんだ点である。現行の「リオ・京都体制」、なかんずく京都議定書の根幹は、先進国に排出削減の数値目標を義務づけたことにある。以来、これが「法的拘束力のある枠組み」の理念型とされ、いかにこの理念型を絶やさないか(legal gapを生じさせないか)がここ数年の国際交渉における一大争点となった。COP17でも、将来枠組みの性格が法的拘束力を持つものか否かは、最後まで重要な争点となった。引き続き重要な論点であることは間違いない。が、少し冷静に考える必要もあると思われる。図表7-1において、「新たな一つの包括的な法的文書」とのみ記してあるのは、将来枠組みの法的性格は、国際交渉における各国の動向をみつつ、出来るだけオープンに検討されるべきとの問題意識からである。
 そもそも、何のための法的拘束力かを冷静に考える必要があろう。法的拘束力は、国際枠組みの実効性確保の重要な要素の一つではあっても、唯一絶対のものではない。法的拘束力が無くても相当程度の実効性確保される国際枠組みは存在する。国際業務に従事する各国の銀行の自己資本比率を規制するバーゼル合意や、輸出信用や開発援助等の分野で加盟国の行動を規律するOECDのガイドラインはその一例である。これらの枠組みでは、法的拘束力よりも、銀行の健全性に関する市場の評価や、加盟各国間のピアプレッシャーが、これら国際枠組みの実効性を担保しているといえる。逆に法的拘束力が規定されていても、想定された実効性は確保できない例もある。京都議定書に署名したものの批准を行わなかった米国や、批准したものの結局脱退したカナダはその最たる例である。
 気候変動問題を規律する国際枠組みにおいて法的拘束力を指向する議論としては、それが各国の温暖化対策に対する予見可能性を強化し、炭素市場への信頼性を支えるといった議論がある。各国の金融政策のみならず財政政策、銀行監督制度をも統合することで単一通貨の信認を確保しようとするユーロを巡る議論と似たところがある。しかし、ユーロ維持の為の各種政策と同様、各国の温暖化政策の予見可能性は、結局それらの政策の妥当性、国民一般における受容度などに左右され、国際的に法的拘束力を受けるか否かの影響は限定的なのではないだろうか。
 これまでの国際交渉における法的拘束力を巡る議論は、実効性確保の手段としての法的拘束力の有効性を冷静に論ずるというよりは、法的拘束力そのものが自己目的化しているきらいがある。あくまで将来の国際枠組みの構成要素の一つとして、その役割を過大評価も過小評価もせず、他の要素とバランスをとった形で検討すべきである。その際、法的拘束力の対象は何か(京都議定書のような絶対的数値目標の達成か、政策・措置の実施か、報告か)、法的効果はどうあるべきか(不遵守の結果はどのようなものにすべきか)、如何なる法形式で規定すべきか(条約又は議定書によるのか、国際的にはCOP決定にとどめ各国国内法に委ねる形にするか)といった個別論点を、あくまで実効性確保の観点から検討されるべきである。



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