容量市場は果たして機能するか?~米国PJMの経験から考える その1


Policy study group for electric power industry reform


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PJMでの卸電力取引の仕組み:プール市場と相対取引の両立

 PJMでの卸電力取引の仕組みは図2のようになっている。まずPJMにより「容量(キャパシティ)」として登録された発電設備は、すべてPJMが運営するプール市場(前日市場およびリアルタイム市場の2市場で構成)に参加して売り入札するか、前日までに運転スケジュールをPJMに提出する必要がある。前者をプールスケジュール電源、後者をセルフスケジュール電源と呼ぶ。プールスケジュール電源は、PJMからの発電出力指令に従って運転することが求められる。セルフスケジュール電源は、ゼロ・ドルの売値でプール市場に入札したのと同じことであり、申告したスケジュール通りでの運転が保証される代わりに、プール市場においてはプライステイカー(自ら入札しない市場で決まった価格での支払いを受ける存在)となる。また、需要家に供給する小売事業者(Load Serving Entity: 以下LSE)は、前日市場に買い入札を行って、翌日分の卸電力をあらかじめ前日市場の価格で購入することが可能である。

(図2)PJMでの電力取引の仕組み
(出所)矢島正之「カリフォルニア州の電力危機とPJMの概要」、
電気事業分科会資料、2002年1月(一部を加筆修正)

 プール市場の決済は、①前日市場、②リアルタイム市場の2段階で行われることになっており、まず前日市場での約定分は前日市場価格で、次いで実需給の前日スケジュールからの差分はリアルタイム市場価格で決済される。リアルタイム市場価格は、前々回に説明した通り、PJMが最小コストでの需給運用を行って需要レベルを満たすための発電設備のうちで、もっとも高い入札価格として事後的に決まる。なおPJMの前日市場では発電設備や需要と関係ない仮想的な売買も認められており、前日市場はリアルタイム市場の価格変動リスクをヘッジするための市場として機能していると考えられる。
 実際にPJMに参加する電力会社がどのように行動しているのか、PJMエリアの代表的な電気事業者であるExelon社の例を見てみよう。Exelon(持株会社)傘下の電力会社PECO(フィラデルフィアに本拠をおくペンシルバニア州の大手電力会社)とExelonの発電部門であるExelon Gencoの関係を図示すると図3のようになっている。実際にはExelon傘下にはシカゴに本拠をおくComEdという大手電力会社もあり、Exelon GencoはPECOとComEdの2社分の電源をPJM市場でまとめて運用しているのであるが、ここでは簡単のためPECOとGencoの関係のみに着目している。

(図3)PJM内の電力会社(Exelon)の電力取引イメージ
(出所)矢島正之「カリフォルニア州の電力危機とPJMの概要」、
電気事業分科会資料、2002年1月(一部を加筆修正)

 まずPJMは全面プール 型市場(系統運用者が需給運用とプール市場運用を同時におこなって需給の一致をはかる仕組み)であるため、LSEであるPECOはPJMのプール市場(前日市場もしくはリアルタイム市場)から電力を全量調達することになる。一方、Exelon Gencoは「容量登録」した発電設備をPJMの卸電力市場で売り入札もしくはセルフスケジュールすることで収入を得る。PECOの需要を満たすための容量として登録されているGencoの電源の売電分X(MWh)についてのPJMからGencoへの支払分と、PECOのプール市場からの購入分Y(MWh)への請求分がPJM内部でオフセットされる(GencoとPECO間の相対取引として処理される)ので、両社はプールの市場価格変動の影響を受けない(ただし、域内のネットワークで送電混雑が発生すれば、地点別価格の差異による混雑料金の支払いが生じる)。上記はGencoの売電量XとPECOの買電量Yが等しい場合だが、もしGencoがPECOの実需要より多く落札すればグループ全体としてみれば余剰を売り、逆に実需要より少ない量を落札すれば卸市場から不足分を調達したことになる。このようにPJMでは全面プール型市場と発電・小売の相対取引を並立している。若干補足すると、2001年の電力危機によって破綻したカリフォルニアの電力市場制度では、三大私営電力会社に発電資産を売却させた上で、全量を卸電力市場から調達することを義務づけ、長期の相対契約を結ばせなかった。この場合、小売を行う電力会社に卸電力市場の価格高騰をヘッジする手段がなく、安定的な電源確保も困難となるため、結果として電力危機を招いたとして、電力危機以降は「取引所取引に過度に依存せずに発電・小売の間の相対契約を重視すべき」との認識が電力市場関係者の間には急速に広まった。実際にPJMでも8割程度の取引が、相対取引で行われている。残り2割の市場取引分は、プール市場の取引の中でメリットオーダーにより差し替わった取引分や、供給力を容量市場から調達した供給力不足の小売事業者の卸電力の調達分に相当している。



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