容量市場は果たして機能するか?~米国PJMの経験から考える その1


Policy study group for electric power industry reform

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 RPMにおいても従前と同様にLSEへの供給力確保義務は残された。一方、RPM導入以前の容量市場ではLSEが自ら市場でクレジットを調達して義務量の不足分を補ったが、RPMでは個々のLSEに代わってPJMがプール全体で必要となる容量を一括して調達した上で、LSEが義務量を満たすための料金をPJMに支払う方式に変更された。このための容量調達の場(容量市場に代わる容量の取引市場)がRPMオークション市場である。変更後の制度の概略は以下の通りである。

(1)
PJMがプール全体の適正予備率を決定し、すべてのLSEに「自らの需要規模×(1+PJMが定める適正予備率)」を保有する義務量を割り当てる。(実際には(4)の通り、日々、事後的に計算される)
(2)
LSEは自らの供給力確保義務を満たすために必要な供給力を、①自己保有、②相対契約いずれかで確保してよい。これはFRR(Fixed Resource Requirement)と呼ばれ、PJMから調達する以外の代替手段と位置づけられる。ただしこの場合は、この方法による確保を最低5年間継続することが求められる。
(3)
PJMは実運用年の3年前からRPMオークションを4回開催して、LSEに代わってプール全体で必要な容量を確保する。(図5)
(4)
実運用年(図5のDelivery Year)に入ってから、需要家のLSE変更を考慮して、日々、各LSEの実需要(PJMエリアの夏季最大電力への推定寄与分)に必要予備率も考慮した必要供給力から、(2)であらかじめLSEが確保した容量を控除したLSE毎の所要供給力(すなわちPJMがLSEに代わってRPMオークションで調達した容量相当)が算定され、LSEはPJMにその対価の支払いを行う。
(図5) RPMオークションの開催タイミング 
(出所) PJMホームページ http://www.pjm.com/

 RPMオークションには、エリア内の既設電源のうちでLSEが相対で確保した容量以外はすべて参加することが義務づけられる(相対契約で取引された電源分については、PJMへの報告が必要)。他方、エリア外の電源やデマンドレスポンスによる需要抑制分、計画中の電源などが任意参加 できる注1
 一方、オークションの買い手はPJMだが、その際にVRR(Variable Resource Requirement)と呼ぶ右下がりの買い入札曲線を用いることとされている。図6に実際のオークションでの入札例を示している。PJMが必要と定めた適正予備率(図中のIRMを指し、2014/2015年度は16.3%に設定)よりも1%予備率が高い水準(予備率17.3%)に達するまでの容量(図中のb点)では、CONE(Cost of New Entry: エリア内での新設ガスタービン発電所の固定費相当額に設定)とよばれる単価で購入しようとしていることがわかる。またこの折れ線では、3年後の予備率が13.3%を下回ると想定される場合(a点)はCONE×1.5相当、予備率が21.3%となるc点ではCONE×0.2相当として、それ以上は調達しないことを示している。なお、広域に跨るPJMエリア内での各地域毎の送電混雑や地域特性を考慮して、5つのゾーン分けがなされており、それぞれのゾーン毎にCONEが設定されている 。VRR曲線のパラメーターの算定方法は、連邦エネルギー規制委員会の承認を得た上でPJMのマニュアルにルールとして定められている。
 なお、下図の例では、取引価格はおよそ115ドル/MW/日でCONEの1/3程度となっており、落札者には約40ドル/kW(約3千円/kW)が支払われたことになる。

(図6)RPMオークションの入札曲線
(2014/2015年度需給分のオークション(2011年5月実施))

注1)計画中の電源については、以下のような要件を満たせば、オークションへの入札が求められている。
・実運用年(Delivery Year)までに運転開始予定であり、必要な電源連系検討が終了していること。
・事前に必要な与信限度を設定すること。 など

(参考文献)
PJMホームページ: http://www.pjm.com/

矢島正之、「カリフォルニア州の電力危機とPJMの概要」、経済産業省電気事業分科会資料(2002年1月)
http://www.enecho.meti.go.jp/denkihp/bunkakai/3rd/3rdshiryou4sankoushiryou.PDF

The Brattle Group, 「PJM市場RPMパフォーマンス評価報告書」(”Second Performance Assessment of PJM’s Reliability Pricing Model”) (2011年8月)
http://www.brattle.com/_documents/UploadLibrary/Upload968.pdf

ELCON: 連邦エネルギー規制委員会の容量市場に関する公聴会 (2001年9月)
http://www.elcon.org/Documents/FERCFilings/PJMrehearing.pdf

経済産業省,電力システム改革の基本方針(2012年7月)
http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/sougou/denryoku_system_kaikaku/pdf/report_001_00.pdf

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