ドイツの電力事情④ 再エネ助成に対する不満が限界に


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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 ドイツの電力事情③において、再エネに対する助成が大きな国民負担となり、再生可能エネルギー法の見直しに向かっていることをお伝えした。その後ドイツ産業界および国民の我慢が限界に達していることを伺わせる事例がいくつか出てきたので紹介したい。

ドイツ繊維業界が再生可能エネルギー法は憲法違反であるとして訴訟提起

 このニュースは、7月1日に再生可能エネルギーに関する固定価格買取制度を導入したばかりの日本に衝撃を持って伝えられた。(http://www.nhk.or.jp/worldwave/marugoto/2012/08/0821.html)。
現地報道(http://www.endseurope.com/29427/german-textile-firms-challenge-green-energy-law)によれば、8月14日、繊維業界3社が、再生可能エネルギー法による太陽光発電などへの助成は憲法違反であるとして電力会社に返還を求め、地方裁判所に訴訟を提起した。この3社は業界を代表して訴訟を提起したのであり、ドイツ繊維・服飾連合会は訴訟費用の負担などにより裁判を全面的に支援することとしている。昨年、業界全体で7000万ユーロ(70億円)、原告の一人であるファヴォロン社においては18万ユーロ(1800万円)を支払ったという。ファヴォロン社の従業員数は180人強だというから(電気新聞9月5日 熊谷徹氏”ヨーロッパ通信”より)、その負担の大きさがわかる。
 
 単に負担の大きさに耐えられないということでは訴訟を構成できないため、ドイツ繊維・服飾連合会はレーゲンスブルグ大学に見解を求め、1994年ドイツ連邦憲法裁判が下した石炭業界への補助金を違憲とする判決を例に、今回の提訴に踏み切っている。コールペニー(石炭プフェニヒ)と呼ばれる石炭産業に対する補助金は、電力料金に一定率を上乗せして徴収され、連邦政府が管理する石炭発電基金から連邦予算を経由せずに、約20年にわたり支出されていた。このような特別公課は、あくまで特定の関係者に対象が限定された例外であるべきところ、コールペニー(石炭プフェニヒ)は一般の電力消費者を対象としている点で通常の租税に近く、議会の租税制定権を侵犯しており、違憲であるという判断であった。
 一般消費者に広く負担を強いるという点において、電気料金と税は似た感覚で捉えられる。しかしながら、税は議会による承認を経なければ改正ができないが、電気料金であればそのような手続きを必要としない。こうした手続きを経ずに納税者全体ではなく、「電力消費者」に負担を求める再生可能エネルギー優先に関する法律(Feed in Tariffの根拠法)は違憲であると、くだんの繊維業界は主張するものと見られる。Feed in Tariffの運用にあたっては、電力を多く消費する産業や国際競争にさらされる産業を保護するために免除措置を導入せざるを得ず、その分、中・小規模の企業に大きな負担がのしかかっていることにも不満が生じている。
 Feed in Tariff制度の問題点として、買い取り価格の客観性の確保の難しさについてはよく指摘されているが、加えて、(日本の場合)価格算定委員会の行政機関上の位置づけ、国会の租税立法権の侵害、減免措置の合理性など、様々な問題点を内包する制度である。このドイツでの訴訟が契機になって、我が国においても、今後議論を呼ぶことは必至だ。