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日本経済が再び世界をリードするために[前編]

~エネルギーの安定供給と経済性の視点を外さないでほしい~


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授


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我が国のリスクの全体像が国民に伝わっていない

――東日本大震災では、原発事故対応やエネルギー問題など、政府の情報発信に批判が集まりました。

井手:今回の東日本大震災は、歴史的な大地震と大津波、加えて複数の原子炉の重大事故が重なるという、まさに未曾有の事態でした。初期の対応については、情報が不足したり遅れたりすることも、ある程度はやむを得なかったと思います。初期の政府の情報発信に問題があったかどうかは、事実関係についての公式の報告を待っての判断になろうかと思います。

 ただ、菅政権の末期になると、情報発信のあり方の本質的な部分でいくつか気になることがありました。その一つが、発信される情報が政府内で共有されていなかったことです。原発の再起動に関する経産相と首相のやりとりは、国民の不安をいたずらに増すだけであり、わが国に対する国際的な不信を招きかねないものでした。

 もう一つは、この大震災を契機に顕在化しつつある我が国のリスクの全体像が、国民に正しく伝わっていないのではないかとの懸念です。その結果として、日本が抱えるリスクの総量をいかに最小化するかという議論がまったく活発化していません。原発対反原発、原子力対再生可能エネルギーのような、いわゆる二項対立関係に問題を単純化し、非常事態で不安感が高まっている国民感情を政権延命に利用しようとの思惑があったのかもしれません。

――国民の関心が、たとえば放射能の問題など、実生活に影響のある部分に集中するのはやむを得ないことと思います。

井手:原子炉事故による放射能汚染の問題は、被災地の方々だけでなく、日本にとって第一に考えるべき問題であることに間違いはありません。しかし、残念ながらわが国が対応しなければならない課題は、これだけではないのです。電力の安定供給の見込みはまったく立っておらず、来年の夏は今年の夏以上の電力不足が予想されています。

 今回の震災は、わが国の企業や製品をサプライチェーンに組み込むことのリスクを顕在化させてしまいました。また、復興には巨額の費用がかかりますし、当面の電力確保のためにも追加の費用が必要です。こうした問題もあわせて考えていかないと、産業の空洞化や失業率の増加、エネルギーコストの上昇など、さまざまな形で国民生活が脅かされることになります。

――そのような情報を認識したり、議論したりする場がないように思います。解決策はあるのでしょうか。

井手:国民生活を脅かす様々なリスクや、それが顕在化しつつある状況について国民が正しく認識し、リスクを最小化する手段を議論できるような環境が必要ではないかと思います。この点では、唐突に脱原発の一点のみを掲げ、その影響を国民に正しく伝えることもしなかった菅政権のようなことがないことを期待したいと思います。

 もちろん、国任せにするのではなく企業からの情報発信も重要です。東日本大震災では、現場の情報が不足しているなかで、国民やマスコミが明快な説明を求めるケースが多々ありました。しかし、状況が見通せないなかで、企業として責任ある発信をすることは非常に難しく、常に大きな課題となっています。経営者が直接、マスコミに実情を説明する、あるいは、全体像を示してリスクの所在と現在の対応や効果を説明するなど、国民の納得を少しでも得られる努力は必要だと思います。
(次回につづく)

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