データセンターと半導体工場が押し上げる日本の電力需要


CLIP Insight Advisory 代表

印刷用ページ

今年になって、「AI」や「データセンター」という言葉を新聞で見かけることがずいぶん増えた。ChatGPTに代表される生成AIは、いまやスマートフォンでも気軽に使える身近な存在となり、国内では大型データセンターの建設計画が相次いでいる。

AI社会は「発電所規模」の電気を消費する

ただ、こうしたニュースを電力の側から見ると、少し違った景色が見えてくる。大規模なAIデータセンターは100MW(=10万kW)級、大型キャンパス(複数棟からなる大規模データセンター拠点)では1GW(=百万kW)級の電力を使う。これは単なる大口需要家ではなく、発電所と比べるべき規模だ。

データセンター業界からは、データセンターの増加で「2030~2035年に15~20GWの電力消費が新たに発生」するとの見通しが示されたこともある※1。電力需要の大きさだけを単純に比較すれば、大型の原子力発電所12~16基がフル出力で運転するほどの規模であり、しかもデータセンターへは24/7(24時間365日)の安定供給が求められる。

日本国内で計画・建設が進むデータセンターには下記のようなものがある(直近稼働を含む)。多くが交通の便が良い東京エリア・関西エリアにあるが、件数では特に「データセンター銀座」とも呼ばれる千葉県印西市・白井市への集中が著しい。

日本国内の主要データセンター(計画・建設中・直近稼働)

また、円安や地政学的リスク、サプライチェーンの見直しなどを背景に、製造拠点を国内に置く動きが目立つようになった。半導体工場もその一つで、全国で多くの半導体工場の新増設が進んでおり、これらは半導体の種類によっては非常に多くの電力を必要とする。半導体工場の受電容量は通常は非公開だが、ロジック・メモリ等の半導体製造には特に多くの電力を必要とし、数百MWの24/7の安定電力の供給が必要だ。

例えば、北海道千歳市で建設が進むラピダスの半導体製造拠点では、将来的な工場の増設を含め、最大600MW規模の電力需要が見込まれている。北海道エリア全体の2025年度冬季の最大需要は約5.1GWであり、単純に比較すると、同拠点の将来的な電力需要だけで道内ピーク需要の約12%、ほぼ8分の1に相当する。

日本国内の主要半導体工場(計画・建設中・直近稼働)

データセンター・半導体工場が電力需要を減少から増加へ反転

日本では2010年頃から電力需要は減っていくものと考えられ、その前提でエネルギー政策が策定されてきた。人口減少、省エネ、製造業の海外移転などによって、実際に2010年代以降の電力需要は減少傾向にある。ところが、データセンターと半導体工場の増加によってその前提が変わり始めている。

日本の電力需要は戦後の復興期からほぼ一貫して増加し、電力需要と経済成長には「鉄の相関」があると言われるが、2007年度の1,061TWh(=1兆610億kWh)をピークに様子が変わる。実質GDPはその後も伸びているのに、電力需要は2010年代から減少傾向に入った。

背景の一つは製造拠点の海外移転である。これには国内のエネルギー価格の高騰や、円高、日銀の異次元緩和の下での海外直接投資の拡大など、複合的な原因があると考えられるが、ともあれ、国内でものづくりを減らせば工場で使う電気が減る。サービス化や省エネも要因の一つだが、少なくとも電力需要の数字だけを見れば、日本はここ10年ほど「経済成長しても電力需要が増えない国」になっていた。

電力会社にとっては、これはかなり重要な変化だった。発電所も送電線も需要が増えることを前提に増設する時代ではなくなった一方で、設備は経年化すれば更新しなければならず、その投資計画が難しくなった。

ところが今、その前提が揺らぎ、データセンターや半導体工場の増加によって、電力需要は減少から増加に反転することが見通されている。久しぶりの需要増である。

電力広域的運営推進機関(OCCTO)の2026年度需要想定によれば、使用端の需要電力量は2025年度の約803TWh(=8,030億kWh)から、2035年度には約846TWh(=8,460億kWh)へ増加することが見込まれている※1。

電力の安定供給が再び重要なテーマへ

ここ15年あまりの電力需要の減少傾向を大前提として、日本の電気事業の主要テーマは脱炭素、設備投資の削減、自由化による新規参入の拡大、海外への積極的な事業投資などへと広がっていった。しかし、顕在化しつつある電力需要の増加傾向は、上流のエネルギー資源を確保し、電源をどのように開発し、いかに安定供給を守るかという、古くて新しいテーマに電気事業を回帰させているようにも見える。エネルギー行政を預かる政府もまた、国際情勢が緊迫する中で安定供給の確保に難しい対応を迫られている。

電力需要が減る時代から、再び増える時代へ。日本の電気事業は、久しぶりに大きな転換点を迎えようとしている。

脚注

※1
Data Center Japan 2026(2026年3月24日、東京)における日本データセンター協会(JDCC)理事長・田中邦裕氏(さくらインターネット代表取締役社長)による基調講演での業界見通し。
※2
一般送配電事業者等の系統を通じて供給される使用端の電力需要であり、総合エネルギー統計における自家発電による自家消費を含む電力需要とは集計範囲が異なる。