電力会社はもうけすぎか
問われる適正な利益率
山本 隆三
国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授
(「季刊 EPレポート 2026年10月1日 第2187号」より転載)
企業で海外資源開発事業に従事していた時に、海外企業の方とのお付き合いもあった。中には、「こいつとは取引したくない」という人物も混じっていた。もうけるためだったら何をやってもよいと考える人間だ。その人物からエンロンに転職すると連絡があった。1990年代の終わりの話だ。
エンロンの採用担当に人を見る目がないか、倫理観に欠ける企業のどちらかと思ったが、どちらにしても取引したくない企業だ。同社は、電力市場を自由化したカリフォルニア州で卸料金の引き上げを狙い意図的に供給量を削減し、2000年に大規模停電を引き起こした。翌年末、粉飾決算が表面化し破綻した。
同社の従業員の大半は、株価が上昇を続ける自社株を購入していた。破綻後、米国で言われた教訓は「自社株を買ってはいけない」だった。会社が破綻すれば、フローの収入と同時にストックの資産も失い個人も破産に追い込まれる。
料金上昇の原因は?
もう一つの教訓は「電力市場を自由化してはいけない」だった。カリフォルニア州を含め多くの州は、自由化を中断した。今も米国では電気料金を規制する州が約3分の2を占める。その規制州を中心に「電力会社は電気料金で不当にもうけている」と、消費者団体などが非難を強めている。
データセンター(DC)の新設が相次ぐ米国の電気料金は上昇を続けている。過去2年間の上昇率は、消費者物価指数を上回っている。全米平均の家庭用電気料金は24年1月の1kWh当たり15.14セントから、今年6月の18.34セントまで約19%上昇した。昨年6月から今年6月までの1年間の上昇率は5%。同期間のエネルギー・食品を除く物価上昇率2.6%の約2倍だ。
背景には、DCを中心に増え続ける電力需要がある。先進国の電力需要は十数年間停滞あるいは減少していたが、米国の発電量は数年前から増加に転じ、20年の4兆kWhから、昨年は史上最高の4兆4290億kWhに達し、今年も更新が見込まれている。需要増に応えるため、電力会社は発送電設備の増強に迫られ、電気料金の引き上げにつながっている。
上昇率上位の州は、ハワイ州を除けば、アイダホ州(19%)、ワシントン州(15%)、メリーランド州(13%)、バージニア州(13%)、ノースカロライナ州(10%)だ。料金を引き上げる要素は、発電設備の構成、燃料費などさまざまだが、DCも影響を与えていることは確実だろう。バージニア州はDCの世界一の密集地だ。ワシントン州、メリーランド州もDCを多く持つ州だ。
消費者の電気料金上昇に関する見方は厳しい。ピューリサーチセンターの調査では、DCが料金引き上げに影響しているとみる消費者は66%(大いに影響43%、少し影響23%)、送電網の増強費用が影響は70%(大いに40%、少し30%)の一方、電力会社の収益が料金を上げていると考える消費者は85%(大いに64%、少し21%)に達している。
平均より低いROE
州の公共事業委員会は、規制州では電気料金を査定し、自由化されている州では配送料金の決定業務などを担う。料金査定の基準は電力会社のROE(自己資本収益率)だ。査定時に電力会社が要求するROEに対し、電力会社の利益のせいで料金が上がると考える消費者団体などは、低いROEで十分と主張し対立することが増えてきた。
今年5月のメリーランド州の値上げ申請の公聴会では、「電気料金の支払いに困窮している」との住民の意見に対し、商工会代表者は「電力にはインフラへの投資が欠かせず、地域の成長にもつながる」と主張したが、公益事業委員会は8月に電力会社の申請した10.5%のROEに対し、9.4%を承認した。標準世帯で月額料金は約3.94ドル値上がりする。
多くの州の公益事業委員会は10%前後のROEを電力会社に認めている。ニューヨーク市立大学が全米5994社のROEのデータを作成しており、今年1月時点の平均は17.2%。業種により使用資金の内訳も資本コストも異なるので必要なROEも変動するが、リスクが相対的に小さいと考えられるにせよ、電力事業の10%のROEは、適正な数値だろうか。
電力需要の急増に合わせ、発送電設備への継続的な投資が必要になる環境下で、事業者は競争力のある資金を調達する必要がある。10%という米国では高いとは言えないROEは最低必要なレベルのように思える。消費者団体の低ROEの要求は、短期的には料金抑制につながるが、資金調達に支障が生じ将来の設備の整備を妨げる可能性がある。電力産業では中長期的な視点が欠かせないが、値上がりする電気料金は、米国の消費者の判断をゆがめているように思える。
東京電力はROEとROA(総資産利益率)のデータを公表しており、24年度のROEは4.4%、ROAは1.6%だ。設備投資のための資金を呼び込むことが可能な数字とは思えない。電力産業のROE/ROAを引き上げない限り将来の電力供給増は絵に描いた餅になる。料金を引き上げない形で、設備投資に備える資金を調達する必要がある。例えば再生可能エネルギーの賦課金額を料金から除外するなど恒常的な見直しも視野に、中長期の電力事業の計画を練る時期になっている。













