対米投資の促進には今後の課題も


環境政策アナリスト

印刷用ページ

3月の高市首相の訪米はワシントンではおおむね好意的に受け入れられたという。ただし日米同盟の推進には課題もあることも忘れてはならない。

第一は日米共通の投資環境の整備である。日米関税交渉の一環で2月には第一陣投資案件としてオハイオ州のガス火力発電および新規データセンターとの接続、テキサス州の原油積み出し港整備等のプロジェクトが発表され、3月には第二陣として日立GEベルノバ社の中小型原子炉がテネシー州、アラバマ州で、天然ガス火力がペンシルバニア州およびテキサス州で建設されること等が発表された。商務省はこれらプロジェクトが国際的技術競争のなかにおける両国のリーダーシップを強化させ、エネルギーインフラのサプライチェーンの安全保障を強めるものと高く評価している。

ただし、これらプロジェクトは安全審査などが予定されているものの設計認可などは得ていない。商務省はこれらプラントにつき日米は「誠実かつ迅速に詳細を調整し」検討するとしている。具体的には財務長官を議長とする「対米外国投資委員会(CFIUS)」において「既知投資家プログラム」によりどれだけ審査プロセスを合理化できるか検討中であり、米国政府は日米案件をこのプロセスに乗せる意向である。トランプ大統領が昨年2月に発表した「アメリカファースト投資政策」に関する覚書に沿った方針となっている。一方、米国政府は日本に対する中国投資に懸念を示しており、日本も外国人による投資に関わる安全保障リスクについて審査を強化するメカニズムを計画しているとしている。米国に対する投資案件は日米共通の外国投資審査メカニズムをベースとしていることを忘れてはならない。

第二はアラスカ原油開発である。イランのホルムズ海峡封鎖への対抗策としてのホルムズ海峡を経由しないアラスカ原油が、今般の高市首相訪米にあたって注目を集めるはずであった。アラスカは1988年に約200万バレル/日のピークを記録したのち現在では47万バレル/日ほどに落ち込んでいる。油田は遠隔地にあるので輸送コストがかかる、そのため他の産油国・地域に対して競争力がないなどがその理由である。しかしながらトランプ大統領はアラスカ原油・ガスをその「エネルギードミナンス政策」の重要な柱と位置づけ、東アジアへの輸出のエネルギーとして、これを推進するとして就任早々の2025年1月に「アラスカの並外れた資源の潜在量を解き放つ」というタイトルの大統領令を発表した。

以来トランプ政権は日本を含む同盟国に対してアラスカへの投資を促してきた。トランプ政権は、本件を単にエネルギー問題としてとらえるのではなく、アラスカ開発に反対する民主党への対抗政策という政治的意味合いも持たしている。その結果、日米関税協議の一環でアラスカ原油への投資および原油備蓄が論点になった。しかしながら高市首相訪米前に合意が予定されていた本件はまとまらなかった。米国の石油・ガスセクターは、米国のイラン攻撃以降、ホルムズ海峡をめぐる不確実性によって短期・中期の計画全体に慎重になり始めている。例えば4月に発表されたダラス連銀エネルギー調査によれば、ホルムズ海峡をめぐる不確実性のもと5月末までにホルムズ海峡の運行が正常に戻ると考える石油・ガスセクターは20%、8月までとみるのは39%、11月までとみるのは26%、それ以降になるだろうとみるのは14%という結果である。さらに対立が終わった後もしばらくホルムズ海峡運行コストは上がったまま推移するとみられている。その結果、主要な石油・天然ガス会社はホルムズ海峡をめぐる混乱は続き、長期的な計画を立てることは難しいと考えており、アラスカ原油への投資についての発表以降、動きはない。

以上のとおり日米合意の重要な部分に曖昧な面があるのは、トランプ大統領が実際の個々のプロジェクトの投資の進展よりも投資プロジェクトに過剰に言及することで政治的なメッセージを強調しているからだと、トランプ大統領を批判する側は考えている。中間選挙を11月に控え、インフレ・雇用面でのパーフォーマンスが改善しないことを、投資がもたらす将来への期待で過小評価させようとする思惑が見え隠れする。