継続する電力・ガス補助金、正しい税金の使い方か


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政府が物価高対策の一環として行ってきた電気・ガス料金の負担軽減策が常態化しつつある。2023年1月から価格補助の形で断続的に行われ、ガソリン・軽油で行われた分も加えると、これまでに投じられた税金は累計で昨年末までに約12兆円になる。しかしこの巨額の補助金が、日本と国民生活を豊かにする効果はあったのか。国民全体で考える時が来ている。

日本国債の急落・金利急騰、財政への不信から

「日本は高市首相のタブーの減税により混乱する市場を落ち着かせることに苦労するか-」(Japan may struggle to calm markets tripped up by Takaichi’s taboo tax cut)。ロイター通信は1月21日に、このような記事を伝えた。欧米の経済メディアには「混乱」「パニック売り」などの言葉が並んだ。海外のメディアは日本に批判的な論調の記事を伝えることが多いが、この混乱は最近の日本政府の放漫財政政策のために生じたと、特に厳しい批判を向けている。

2026年1月20日から日本国債の市場で価格の急落(=利回り上昇)が発生した。それまで2%前後までジリ高の続いていた指標となる10年物国債利回りが、この日の取引で2.38%まで急上昇。1999年2月以来、約27年ぶりの高水準に達した。

高市首相は、1月23日の通常国会の冒頭で衆議院の解散を表明した。その前から選挙公約として減税、積極財政を打ち出した。そして各野党も選挙前にさまざまな補助金支出の方針を示した。こうした政治の「ばらまき」姿勢を、世界の投資家たちは売り材料と判断したようだ。国債市場の混乱は1月末時点で一服したが、報道などによると、金融市場で警戒感は広がり続けたままだ。

危機感ない高市政権

ところが、このような金融市場の動きについて、高市早苗首相と政権の危機感は乏しいように見受けられる。

「国民の皆さまが直面する物価高対策については、もう待ったなしの課題だ」「ガソリンと軽油の価格については、補助金も活用したことで、既に値下がりしている」高市首相は1月19日の衆院解散を表明した記者会見の冒頭で、エネルギーの補助金支援や減税の成果をアピールした。政府は2025年末にガソリンの暫定税率を廃止、26年3月末に軽油で同様の措置を行う。それによる効果も自賛した。そして「強い経済」「責任ある積極財政」という自らの政権のスローガンを語った。

一方で円安傾向や長期金利上昇に対する高市氏の答えは「為替の変動など、マーケットで決まることについては、私の方から特にコメントすることはない」と、そっけない公式見解だけだった。海外の報道によれば、これが20日からの国債市場の混乱の一因になったとの意見もある。

もちろんエネルギー料金の負担軽減は、国民にとって喜ばしい。しかし、この政策はプラスの効果ばかりではない。

そもそも物価高の主な原因は円安だ。昨年6月の1ドル=140円台から、最近の160円前後まで円が下落したことが物価の上昇要因となっている。それにコロナ禍後の賃金引き上げや、これまでのデフレ傾向の反動など、さまざまな要因が加わった。一方でエネルギー価格は昨年後半から、指標となるWTIの価格が1バレル60ドル前後を推移。LNG、石炭といった他の化石エネルギーの国際市況も落ち着いて推移している。円安によって割高感が引き起こされているわけだ。

円安は、日本の過剰流動性に加え、他国に比べて低い金利、そして財政 の信頼への低下が一因とされる。この根本問題に手をつけないで、インフレ抑制のためとしてエネルギーに補助金を出すのは、本質からずれた政策だ。それどころか財政にさらに負担を課すことで、それへの不信が高まり、さらなる円安を招きかねない状況にある。

原子力発電所の再稼働促進、新しい動きなし

停止中の原子力発電所の再稼働は電力料金の引き下げに効果がある。しかし、それが東日本を中心に遅れている。東北電力女川2号機に続き、1月21日にはようやく東京電力柏崎刈羽6号機が再稼動になった。27年度に北海道電力泊3号機が予定されているものの、他の稼働の目処が立っていない。

再稼働や審査の遅れをめぐり、民間有識者や原子力関係者からは、原子力規制委・規制庁への批判が広くある。孤立した原子力規制委員会・規制庁の規制行政は混乱をし、そのために審査が遅れているとの指摘だ。東京大学大学院教授の岡本孝司氏は産経新聞「正論」コーナーで「原子力規制委員会の解体的改善を」https://www.sankei.com/article/20260127-4HH7P2JKDVKSPIXDF7WCNDIZ54/photo/BGUC3K6VV5JVND7CD4MCKE6Q4A/(26年1月27日)との寄稿を行い、その規制体制を世界水準に合わせるように抜本的に見直すことを提案している。

高市首相は、これまで原子力問題に関心を示し、2024年には科学技術担当の国務大臣時代に核融合の商用化の提言をまとめた。ところが首相就任後は原子力規制の見直し、また再稼働に積極的な対応をしていない。原子力の活用は、掛け声だけのように見える。

自由化、脱炭素の国の政策に矛盾

さらに日本は福島事故の後で、エネルギー自由化を進めた。電力、ガスは小売料金への規制が残る中途半端なものであるが、小売分野も自由化された。

自由化とは市場で価格を決め、競争を通じてサービス向上や料金の低下を促すことだ。それを補助金はゆがめてしまう。そしてエネルギー事業者の業務効率化を止め、自由化によって彼らに迫られた変革を止めてしまう可能性もあるだろう。つまり、エネルギー価格の補助政策は自由化と矛盾する。

また日本は「2050年カーボンニュートラル(脱炭素社会)」の実現、2030年度に温室効果ガスを2013年度比で46%削減、さらに50%の高みを目指すという目標を掲げている。GX(グリーントランスフォーメーション)という経済の作り替えを、GX国債などの資金調達、さらにはGX機構という特殊法人まで作って補助金を出し、進めようとしている。しかし電力・ガス補助金はエネルギーの消費を促し、二酸化炭素排出を増やす。この脱炭素政策とも矛盾する。

このように電力・ガスの補助金は、これまでの政策をゆがめる。ただし消費者にとって料金抑制は心地良いものだ。政治は人気取りのためにその実現に走った。そして、その財源を安易に財政負担とした。世の中には「打ち出の小槌」、つまり日本の昔話のように振れば無償でお金の降ってくる仕組みなどない。財政悪化を市場が警告している。国の借金は次の世代の負担になり、長期的には日本経済に悪影響を与えていくだろう。

ばらまきの税金12兆円超、効果的な使い道はなかったか

かつて日本では1973年、79年の2回の石油ショックで、エネルギー価格が高騰した。その時に価格補助金は出たものの政策の中心ではなかった。政官民は協力し、国費を投じて、省エネ技術研究のムーンライト計画、新エネ技術研究のサンシャイン計画を1974年から行った。全てが成功したわけではなかったが、太陽光や省エネなどに成果が出て、1980年代からの省エネ、日本の製造業の強化に結びついたとされる。

ところが最近の日本が採用した政策は、エネルギー価格抑制のための補助金ばらまき、暫定税率の廃止だった。そして政官民の当事者からも、国民からも、強い疑問や批判の声も出ない。過去の日本の方が賢明だったように思える。

またこの補助金について、明確に数値化して検証しようという動きもない。効果があったかも分からないのだ。12兆円以上の補助金を省エネ対策、原子力研究に回していれば、大きなイノベーションが引き起こせたはずだ。

高市氏も政治家も、エネルギー支援の補助金を誇らしげに語るべきではない。この継続する補助金の妥当性を政治論点にし、その適切さを検証すべきだ。そして、おそらく問題だらけという結論が出るだろうが、その場合には速やかに補助金を止めるべきだ。