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IEA World Energy Outlook 2020とその変化(前編)


J-POWER 執行役員、京都大学経営管理大学院 特命教授


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 国際エネルギー機関(IEA)から毎年発刊される World Energy Outlook(WEO) は、世界と各地域のエネルギー需給の最新トレンドと将来の展望を示す「世界で最も信頼されているエネルギー展望」である。筆者は長年熱心なWEOウォッチャーであり、これまでも国際環境経済研究所のサイトにWEO関連の寄稿をしている注1)、注2)
 2020年10月に発刊されたWEO2020は、「コロナ禍からの回復は低炭素化を加速させ、化石燃料の需要は減少し、再生可能エネルギーが躍進する」というメッセージを強く発していて、従来のWEOと多くの点で装いを異にしており、WEOの性格が変質したのではないかとすら感じさせる。そこで、本稿は2部構成として、前編でWEO2020のメインメッセージを紹介した上で、後編では数値を定量的に評価することで、具体的にWEO2020では何が変わったのかを検証した「驚くべき結果」を示すこととする。

1.WEO2020の見た目の変化

(1)構成の変化
 WEO2020はボリュームが従来のWEOの約半分になっており、目次を見ると構成も大きく変わっている。WEO2020を従来型のボリューム・構成のWEO2019と比較して、違いを示すと以下の図の通りである。


図 1 WEO2019とWEO2020の構成の比較

 従来のWEOは中心パートと特集パートの2部構成であるが、WEO2020は特集パートがなくスリム化していること、また、従来のWEOの中心パートは燃料別の項目建てであったのがWEO2020ではシナリオ別の項目建てとなっているという変化が、この比較から見てとれる。

(2)シナリオの位置づけの変化
 WEO2010以降、それまでのリファレンスシナリオに代わる新政策シナリオ(NPS)が中心シナリオ、そして2℃シナリオ(450S)、BAUシナリオ(現行政策シナリオ:CPS)がレギュラーの比較シナリオという位置づけで示されてきた。しかし、WEO2020では中心シナリオという表現はどこにも見られない。これまでBAUシナリオとして存在していたCPSはWEO2020では本文だけでなくAnnex Aからも消えている。
 WEO2020には2つの特別シナリオ、2050年ネットゼロ排出達成のNZE2050と、コロナ影響からの経済回復が遅れるDRSが登場する。これら特別シナリオと合わせて、「SDSが目指すべきシナリオ、究極の理想はNZE2050、STEPSがBadシナリオ、最悪はDRS」に変更されたような印象を受ける。

(3)Overview and key findingsの変化
 近年のWEOでは第1章を「概要と主な結論 (Overview and key findings)」としているが、 WEO2020の第1章の節のタイトルは、従来の「項目名」と異なり、ナラティブで抽象的な文章となっている。例えば、「1.3 再生可能エネルギーは力を増してきており、太陽光は電力の新しい王様(Renewables are taking power and solar is the new king )」、「1.8 コロナ禍は、石油およびガス業界が直面しているジレンマを増大させる(Covid-19 sharpens the dilemmas facing the oil and gas industry)」など。

2.WEO2020のメッセージ(記載内容の抜粋)

 WEO2020各章で最初に示されるグラフと、グラフ毎に記載されているインプリケーションがIEAの強調したいことを最もよく表していると考えられるので、それらをWEO2020のメッセージとして以下に示す。

第1章 概要と主な結論
 Figure1.1(以下の図2)では、一次エネルギー需要合計とその構成を、2019年実績、シナリオ別の2030年展望の変化量(2019年実績比)について示している。いずれのシナリオでも2030年には再生可能エネルギーが増加、石炭が減少するが、その大きさが異なること、石油はシナリオによって微増から大幅減少までと幅があること、などが示唆されている。このインプリケーションを「次の10年間のエネルギーミックスは、コロナ禍の影響だけでなく、政策対応と回復の持続可能性によっても形作られる」と記載している。


図2 シナリオ別の総合一次エネルギー需要とその燃料構成
(WEO2020 Figure 1.1) [拡大表示]

第2章 ロックダウン下のエネルギーの世界
 Figure 2.1(以下の図3)では、2020年の各種エネルギー指標を2019年値との増減率で示している。再生可能エネルギー以外は全てマイナスになっており、特にエネルギー投資の減少が大きい。このインプリケーションを「レジリエントな再生可能エネルギーの出力増加により、2020年の排出の低下がエネルギー需要の低下予測5%より大きくなるが、一方でエネルギー部門の資本支出投資は18%落ち込む」としている。


図3 エネルギー需要、CO2排出量、投資の指標の2020年予測(2019年比)
(WEO2020 Figure 2.1) [拡大表示]

第3章 持続可能な回復を前提として構築
 Figure 3.1(以下の図4)では、既存のインフラと建設中の発電所からの2030年までのCO2排出量(従来通りの運用を条件とした試算値)を描き、それがSDSのCO2排出経路とほぼ同等であることを示している。そのインプリケーションを「既存のエネルギーインフラと建設中の発電所からの排出のみで、長期の1.65℃の気温上昇につながる(50%の可能性)」と記載している。


図4 既存のインフラと建設中の発電所が従来通りに運用された場合のCO2排出
(WEO2020 Figure 3.1) [拡大表示]

第4章 2050年までにネットゼロ排出を達成
 Figure 4.1(以下の図5)では「エネルギーと産業プロセスによるCO2排出とシナリオ別削減手段」を示し、そのインプリケーションを「2050年までに世界の正味ゼロ排出量を達成するには、エネルギー部門の比類のない変革と今後10年間の主要な行動の変化が必要となる」と記載している。


図 5 エネルギーと産業プロセスのCO2排出量とシナリオ間の削減レベル
(WEO2020 Figure 4.1) [拡大表示]

第5章 エネルギー需要の展望
 Figure 5.1(以下の図6)ではSTEPS下の世界のエネルギー需要とCO2排出量、燃料別の展望を2019年比の変化率で示し、そのインプリケーションを「エネルギー需要は2023年初頭にパンデミック前のレベルに戻るが、再生可能エネルギーのレジリエントな成長と石炭需要の減少により、CO2排出量は2027年まで戻らない」と記載している。


図6 STEPSにおける2030年までの世界のエネルギー需要とCO2排出の傾向
(WEO2020 Figure 5.1) [拡大表示]

第6章 電力の展望
 Figure 6.1(以下の図7)では、STEPSの電力展望を国別、電源別に2019年比の変化率で示し、そのインプリケーションを「新興市場と発展途上国で電力需要が増加するものの、太陽光発電が普及し、電力部門のCO2排出量が危機前のレベルに戻ることはない」と記載している。


図7 STEPSにおける2019~2030年の電力展望
(WEO2020 Figure 6.1) [拡大表示]

第7章 燃料供給の展望
 Figure 7.1(以下の図8)では、STEPSとSDSの燃料供給の展望を燃料別に絶対値で示し、そのインプリケーションを「燃料生産者にとっての2つの重要な不確実性は、パンデミックからの回復の形と世界的な排出削減の推進力である」と記載している。


図8 2010~2040年のシナリオ別世界の燃料供給
(WEO2020 Figure 7.1) [拡大表示]

第8章 回復の遅延
 Figure 8.1(以下の図9)は、シナリオ別のGDP、エネルギー需要、CO2排出、エネルギーアクセスの展望を示している。そのインプリケーションを「DRSの弱い経済展望は、エネルギー・トランジションへの投資、エネルギー貧困の緩和、エネルギーアクセスの改善を後退させる。排出削減は間違った理由でもたらされる」と記載している。


図9 回復遅延シナリオにおける主要な指標
(WEO2020 Figure 8.1) [拡大表示]

 以上は、WEO2020の本文中に強調されて記載されている「IEAがWEO2020で伝えたいこと」であり、WEO2020の将来展望は従来のWEOから大きく変化したことを印象づけられる。そのメッセージは「コロナ禍からの回復は低炭素化を加速させ、化石燃料の需要は減少し、再生可能エネルギーが躍進する」というものである。

 多くの人は、IEAという国際的な権威のメッセージを素直に受け止めるだろう。しかし、筆者はWEO2020を読んでいて「果たして、本当にそうなのだろうか?」という疑問を持った。その疑問を感じた理由と、数値による定量的な検証結果については、後編をご覧頂きたい。

注1)
「未来は電気がつくる?World Energy Outlook 2018の電力特集(その1)」
https://ieei.or.jp/2019/02/expl190225/
「未来は電気がつくる?World Energy Outlook 2018の電力特集(その2)」
https://ieei.or.jp/2019/03/expl190318/
注2)
「World Energy Outlookの10年間の変遷(IEAの変心?)」
https://ieei.or.jp/2020/06/expl200625/