エネルギー効率の国際比較:「省エネ大国 日本」もはや幻想?中国より下位?


公益財団法人 地球環境産業技術研究機構システム研究グループリーダー(IPCC WG3 第5次、第6次評価報告書代表執筆者)

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 運輸部門では「Vehicle miles traveled per capita」(最大3点)を最初の項目として提示している。エネルギー効率の概念をより広くとれば、乗用車から公共交通機関へのモーダルシフト、あるいはコンパクトシティー化などによる「自動車に頼らない快適な生活」も重要な評価項目となりうる。しかし、ACEEE報告は所得水準や人口密度での補正を行っておらず、単純に年間乗用車走行距離を人口で除している。交通のエネルギー効率を表しているというよりも、所得水準や国土条件に強く依存する項目である。

人口当たりの乗用車走行距離

注)邦訳は筆者による。OECD統計に基づくと、上記のイタリアの数値には疑問があり、
イタリアは本数値の3倍程度、つまりドイツ並みとなるのが正しいとみられる。

まとめ

 ACEEE報告はエネルギー効率水準を適切に評価できない手法をとっており、かつ、いくつかの点で誤りも含んでいるとみられる。よって、ACEEE報告の得点表・ランキングといった定量部分を引用、解釈する際には注意が必要である。
 RITEでは鉄鋼、セメント、火力発電など、主要部門別のエネルギー効率比較等を行ってきており(例えば、Oda et al., 2012; RITE, 2012; RITE, 2014b)、その知見からは、少なくとも多くの産業部門およびエネルギー転換部門においては、日本のエネルギー効率は世界において高い水準にあることが示されている。一方、運輸部門や家庭・業務部門のエネルギー効率水準を的確に評価するのは更に難しいため、より適切な指標のあり方については今後、一層の検討を進めることは必要と考えられる。省エネを進め、エネルギー効率をより高めることは、温暖化対策を進める上でも極めて重要な方策の一つである。エネルギー効率の国際比較を行うことは、エネルギー効率改善機会を見出す意味でも大変重要である。しかしながら、その際には、エネルギー効率水準を適切に評価できる指標を選択することが重要であり、かつそれぞれの指標が示す意味をよく理解しながらそれを解釈することが必要である。


<参考文献>
Phylipsen, G.J.M., K. Blok, E. Worrell, International comparisons of energy efficiency-Methodologies for the manufacturing industry, Energy Policy, 25(7-9), 715-725, 1997.
Oda, J., K. Akimoto, T. Tomoda, M. Nagashima, K. Wada, F. Sano, International comparisons of energy efficiency in power, steel, and cement industries, Energy Policy, 44, 118-129, 2012.
RITE「2010 年時点のエネルギー原単位の推計(鉄鋼部門-転炉鋼)」(2012)
RITE「世界主要国のエネルギー効率ランキング報告の検証-ACEEE報告の解釈について-」(2014a)
RITE「火力発電所の発電効率国際比較:2011年時点まで」(2014b)

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