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低炭素シナリオの概要とその実現可能性:運輸部門での検証(第3部)

運輸部門でのシナリオとCO2削減策


中部交通研究所 主席研究員


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 第1部では、IEA-ETPシナリオと、SR1.5特別報告書の中で利用された多くのIAM(統合評価モデル)シナリオのBASEシナリオを中心に、シナリオ全体の差を概観し、第2部では、BASE→2DS/1.5DSでのCO2削減策に注目して、ETPとIAMシナリオの差を分析した。ここでは、運輸部門に焦点を当て、ETPとIAMのシナリオの差、さらにETPの詳細データを利用して、1.5℃シナリオにおいて想定しているCO2削減策の具体例を紹介することで、そのハードルの高さを示そうとした。

1.最終消費部門での運輸部門の特徴

 最終消費部門(産業、建物、運輸他)の中で、CO2削減の観点で、運輸部門が他の部門に比べて、どのような特徴があるかを見てみたい。CO2排出量を比較する時に、第2部で述べたように、直接排出のみか、電力消費に伴う間接排出も含めて比較するかで、状況が大きく異なる。図1にSR1.5特別報告書のシナリオ(IAM)を用いて分析した最終消費部門全体のCO2排出の変化を直接排出のみおよび間接排出も含めた場合で示した。
 直接排出のみを見ていると、BASEシナリオから1.5℃シナリオ(1.5DS)へ向けてのCO2排出削減の部門間寄与率を見ると(図1)、運輸(49%)、産業(32%)、建物(19%)の順になり、運輸部門の低炭素化は困難であるという考えと全く違った数字になる。しかし、電力消費に伴う間接排出も含めると、電力消費の高い建物が最も高くなり(40%)、次いで産業(34%)、運輸(26%)の順になる。特に、1.5DSや2DSの低炭素シナリオにおいて、電力部門での低炭素化はCO2削減の最も重要な方策であり、電力化の差が、部門間のCO2削減寄与率に大きく影響を与える。後で、詳述するように、運輸部門での電動車の導入の将来予測が、最近の市場動向を反映して、ここ数年で大きく変化している。自動車の電動化は、2DSより1.5DSでより急速に進むと想定されており、CO2削減における運輸部門の寄与率は、図1の1.5DSにおける分析より2DSでは、より低くなり、26→20%に低下する。図1では、IAMのデータのみ示したが、IEA-ETPのデータも個々のデータはやや異なるが、全体の傾向に関しては同じことが言える。
 このように、最終消費部門において、運輸部門は低炭素化が最も困難な部門であるということが示されたが、後で議論する電動化、バイオ燃料関連の技術進展によっては、その寄与率が大きく変化する可能性も残されている。


図1.最終消費部門のCO2排出量と部門別寄与率の分析(SR1.5-IAMデータ)


図2.運輸部門でのIAMとETPシナリオの比較

2.運輸部門における消費エネルギーとCO2排出

2.1 部門全体の分析
 運輸部門全体でのエネルギー消費とCO2排出に関するIAMとETPシナリオを比較して図2に示した。BASEシナリオ(ETP:6DS)においては、ETPの方がエネルギー消費もCO2排出量も高いが、2DS、1.5DS(ETP:B2DS)においては、ETPの方が低く、IAMよりETPのCO2削減ポテンシャルが高いと想定していることがわかる。ただ、IAMは、非常に多くのシナリオの中央値で議論しているわけで、図の右に示した分布を見れば、ETPのデータも25-75%レンジには入っていることがわかる。
 エネルギー消費は、BASEでは、2060年には現在のほぼ2倍程度に増加するが、 2DS/1.5DS では燃費改善などで、横ばいレベルに削減している。2060年でのBASE→2DS/1.5DS削減率は、IAMで30-40%、ETPで50-60%とETPの削減率の方が高い。CO2排出は、BASEでは、エネルギー消費と同様に現状より約2倍に増加するが、2DS/1.5DSシナリオでは、低炭素化が進み、IAMでは現状より20-60%、ETPでは、50-80%低くなる。2060年でのBASE→2DS/1.5DS削減率は、IAMで50-80%、ETPで70-90%とETPの削減率の方が高い。これは、後で述べるように1つには、ETPの方が燃費改善などの効率化による省エネのポテンシャルを高く評価しており、もう1つは、ETPの方が電動化やバイオ燃料進展による低炭素化がより急速に進むと想定しているためである。

2.2  BASE→2DS/1.5DSにおけるCO2削減策の分析
 BASEシナリオから低炭素シナリオへのCO2削減を、省エネと低炭素化の方策に分離して、その比率を比較して図3に示した。ETPとIAMを比較すると、BASE(6DS)のレベルがETPでは、現状(2010年)の約2倍とIAMの1.8倍より高い。また、1.5DS/2DSのレベルがETPでは、現状の0.2/0.5倍で、IAMの0.4/0.8倍より低い。そして、ETPの方が1.5DS、2DS共に省エネの比率がIAMより高く、省エネのポテンシャルを高く想定している。ETPのBASEのレベルが高いということは、想定している効率化の進展がIAMより遅いと考えることもできる。そうであれば、遅れた分が低炭素シナリオで実現されて、省エネの比率が高く評価されることになる。ただ、BASEが高いことの要因として、運輸の旅客、貨物需要の増加がより高い可能性もあるが、詳細を分析するデータがSR1.5のデータベースには存在しない。
 ETP、IAM共通して言えることは、CO2削減の方策として、省エネの比率は高く、燃費改善、貨物輸送の積載率向上、渋滞解消などの従来技術の改善もCO2削減に大きな力になるということである。効率改善には、当然電気自動車などの高効率先進技術の導入も含まれるが、中短期的には、むしろ従来技術の改善が費用対効果の面でも重要である。低炭素化の方策としては、バイオ燃料と電動化が主要な方策であるが、電動化がより困難な航空や船舶では、後述するようにバイオ燃料に頼ることになる。


図3. BASE→1.5DS/2DSでのCO2削減方策(省エネ、低炭素化)の分析

2.3 低炭素エネルギー消費
  CO2削減策として、省エネが重要であることは、上で述べたが、もう1つ、低炭素エネルギーの消費増大もより長期的には重要な方策となる。低炭素エネルギーの主要なものは、電気とバイオ燃料であるが、図4に示すように、その導入量の想定がETPの方が高い。これは、IEA-ETPの方が、技術進展への期待がより大きいことを反映しているように思われる。運輸全体の消費エネルギーに対する電気およびバイオ燃料のシェアは、2060年に、ETPで、各々50/30%、IAMで、30/20%である。ただ、IAMの分布は図4の右に示すように広く、もっと高いもの、もっと低いものも存在する。
 もう1つ、ETPとIAMの差で顕著な点として、1.5DS(B2DS)と2DSの消費量の差である(図2)。IAMでは、1.5DSと2DSの差が小さいが、ETPでは、2DS→B2DSでバイオ燃料は減少し、それを補うように電気消費量は逆に増加している。バイオ燃料に関して、最近特に土地利用変化に伴うCO2排出増加や食料との競合という持続可能性の視点での懸念が強まっており、バイオ燃料の利用可能量に上限があると考える傾向にある。それゆえに、CO2削減がより困難なところへバイオ燃料を優先配分すべきとの考えが根底にあり、ETPの電気とバイオ燃料消費の変化がこのような考えによるものと思われる。これは、後述する運輸部門内のモード間での電動化の困難さとバイオ燃料優先配分の関係にも反映されているようである。


図4. 運輸部門における低炭素エネルギー(電気、バイオ燃料)消費の比較

2.4 運輸部門の各モ-ドの特徴
 運輸部門の中の旅客、貨物の各モードは、各々に特徴があり、将来の活動量(輸送量)、消費エネルギー、CO2排出量に関して、異なった傾向を示す。ここでは、それぞれのモードに対するシナリオでの想定の違いを明らかにし、興味の焦点である乗用車の特徴を浮き彫りにしたい。モード別の詳細データはIPCCのSR1.5報告書のデータベースには入っていないので、以下の詳細分析はETPのデータのみを使用した。
 まず、最初に、モードごとの活動量(人・km:pkm、トン・km:tkm)の推移を比較する。図5に示すように旅客ではモーダルシフトの影響で、RTS(4DS)→2DS/B2DSへのバス、鉄道での活動量(輸送量)増加(2010年比:1.9→2.5→2.9倍、1.8→3.5→4.7倍)と、他モードの活動量削減と逆の傾向を示すという顕著な差がみられる。一方、貨物輸送では、RTS(4DS)→2DS/B2DSで、多少の減少傾向は認められるが、大きな変化はない。ただ、途上国の経済成長を支える物資輸送の影響で、船舶による急激な活動量増加(2010年比、約4倍)をいずれのシナリオでも想定している。


図5. 旅客、貨物輸送量(活動量)のモード別の推移(IEA-ETP:MOMOデータ)

 図6に示すように、ベースシナリオ(6DS)→2DS/1.5DSへのエネルギー消費削減への各モードの寄与率を比較すると(図中央の棒グラフ)、まず、乗用車(LDV)の寄与が60%程度と大きく、次いでトラック、航空の寄与が10-20%程度となっている。乗用車等の寄与率が高いのは、1つには、図6(右)でわかるように消費量そのものが他のモードより高いことがあり、1つには、図5に示すようにベース(RTS)シナリオでの活動量の伸びが高く、消費エネルギーも将来への伸び率が高く、削減ポテンシャルが高いことがあげられる。運輸部門の中で異なった動向を示すのは鉄道で、モーダルシフトによる鉄道へのシフトが、エネルギー消費増大を招いている。


図6. エネルギー消費削減への各モードの寄与率とB2DSシナリオでの消費動向(IEA-ETP)


図7. CO2排出量削減への各モードの寄与率とB2DSシナリオでの排出動向(IEA-ETP)

 次に、CO2削減への各モードの寄与率を比較すると、図7に示すように、乗用車が約50%、トラック、航空が約20%程度とエネルギー消費削減の場合(図6)とよく似た傾向を示している。ただ、図6のエネルギー消費削減の各モードの寄与率と図7のCO2排出削減とを比較すると、乗用車は寄与率がやや低下し、トラックの寄与が増大している。これは、CO2削減のために、乗用車では、まずモーダルシフトで活動量(pkm)を削減し、次いで燃費向上等による省エネ効果で消費エネルギーを削減し、さらに電動化、バイオ燃料の導入で燃料の低炭素化をしている。一方、トラックでは、特に途上国での経済成長で輸送量の削減は困難で、また、燃費向上も乗用車ほどは期待できないので、エネルギー消費削減では、大きな寄与は期待できないが、CO2削減では、後で述べるように、乗用車ほどではないが、電動化、バイオ燃料導入による削減が期待できる、という差が、CO2削減での寄与率をエネルギー削減での寄与率をより高くする要因になっているためであると考えられる。
 各モードの燃料消費効率(燃費)を図8(左)に示す。鉄道を除いたすべてのモードで2010年から2050年に向けて効率が約70%改善されている。図にはB2DSのみを示したが、2DS、RTSシナリオ共に2050年へ向けての削減率は各々約60%、50-60%と多少異なるが、全体の傾向は非常に似通っている。燃料消費効率が改善されるとその分エネルギー消費が削減され、結果として、CO2排出が削減される。先進技術導入によるCO2削減に比べると、従来技術の改善で達成される部分は大きく、費用対効果が高いので、短中期の対策としては、非常に重要なものである。


図8. 燃料消費効率と燃料の炭素強度(IEA-ETP2017-B2DS)

 次にCO2削減対策として直接的に寄与する燃料の炭素強度の変化を図8(右)に示した。炭素強度(g-CO2/ MJ)は、使用する燃料の炭素含有量に依存するが、長期的なスタンスで、バイオ燃料や電動化で低炭素燃料へと転換していくことになる。モード毎の傾向を見ると、鉄道のみが主要消費エネルギーが電気で、電力部門の急速な低炭素化を反映して、2010年から2050年に向けて、約100%と急激な低下傾向を示している。他のモードでは、30-70%と燃料mixによって削減率は異なるが、2010年から2050年に向けて比較的よく似た傾向で低下していく。表1に示すように、乗用車では、電動車(PEV)シェアが80%を越え、バイオ燃料も運輸全体の17%が配分されて消費エネルギーの15%を占め、炭素強度は、2010-2050年で60%低下する。トラックでは、PEVシェアが68%で、バイオ燃料も35%が配分され、炭素強度は50%低下する。航空や船舶では、電動化の寄与はないが、バイオ燃料が28、21%と優先配分されており、炭素強度は、50、30%低下している。ここで注目すべきは、トラックにバイオ燃料が35%と最も多く配分されており、また、航空、船舶での消費エネルギーに占めるバイオ燃料の比率が、70、46%と非常に高いことである。図8にはB2DSのみ示したが、2DSは比較的似通った傾向で、RTSは、低炭素化が進行せず、ほぼ現状維持の状況にある。
 炭素強度の低下は、バイオ燃料や電動化で促進される長期的な対策である。バイオ燃料では土地利用変化や食料競合などの制約が存在し、電動化では、現状の技術レベルでは、補助金などのサポートなしで市場主導の電動化が進行する状況にはない。今後の政策や技術進展に大きく依存し、シナリオの不確実を高くしている。


表1. 運輸部門での電動化とバイオ燃料(BF)消費(2060年:ETP2017)

3.乗用車(LDV)部門での詳細データ

 運輸部門の中で道路交通が、エネルギー消費、CO2排出において約70%のシェアを占め、そのまた半分程度が乗用車(LDV:Light-Duty-Vehicle)部門である。将来のCO2削減ポテンシャルも、乗用車部門が最も高いことから、運輸部門における温暖化対策では、最優先で取り組むべきモードであると言える。ここでは、まず、活動量(輸送量)、エネルギー消費、CO2排出のシナリオ間の比較を概観した後、将来の省エネ、低炭素化に密接に関連している車両効率、バイオ燃料消費、電動化などのCO2対策を分析する。
 図9に示すように、活動量(輸送量)は将来に向けて大きく伸びるが、シナリオがより低炭素になるにつれ、鉄道等へのモーダルシフトで、輸送量の伸びが減少している。さらに、図10に示すように、車両効率の改善がどのシナリオでも進展して、消費エネルギーの伸びは、輸送量の伸びより低下し、B2DS、2DSシナリオでは、現状よりエネルギー消費が削減されている。次に、CO2排出量を見ると、6DS、RTS(4DS)シナリオでは、2010年比は、エネルギー消費とほぼ同じ値で、燃料の低炭素化が進展しないが(図10参照)、2DS、B2DSでは、バイオ燃料消費の増加、電動化で、より低炭素化され、エネルギー消費の2010年比の値より大きく低下している。特にB2DSシナリオでは、2050年にはすでに、電力のCO2排出係数が負になっており、その導入効果は大きくなっている。
 図10に示した燃料消費効率(=乗用車部門の全消費エネルギー/活動量)の低下は、主に車両の燃費改善によるもので、図11に示すように、保有ベースの燃費(路上の乗用車の燃費平均)が燃料消費効率と同じように改善されている。どのシナリオでも燃費は改善されているが、図11の右端の技術別新車燃費(その年に販売された乗用車全体の燃費平均)の改善をみると、シナリオ間での差が小さく、技術改善はほぼ飽和しており、シナリオ間での全体燃費の改善は車両技術のMixがより効率の高い技術へとシフトする(内燃機関車:ICE→ハイブリッド:HEV→電動車:PEV)ことで生じていることがわかる。2050年でのG-ICE、G-HVの燃費をみると、各々5、4L/100km(20、25km/L)で、現状の乗用車の技術レベル(2010年: 8.6L/100km; 12、18km/L )から判断するとこれらは、世界全体での平均値であり、将来の途上国での急増や米国のような大型車嗜好の市場も含めて考えるとかなりハードルの高い値である。EVは2010年比10%程度の改善であるが、PHEVでは50%以上の改善で、これもハードルが高い。


図9. 乗用車部門での活動量、エネルギー消費、WTW-CO2排出(IEA-ETP)


図10. 乗用車部門での燃料消費効率と燃料炭素強度(IEA-ETP)(IEA-ETP)


図11. 乗用車の新車、保有燃費(IEA-ETP-MOMO)


表2.乗用車部門における電気、バイオ燃料のシェア(%)(ETP2017-MOMO)

 次に、図10の燃料の炭素強度に注目すると、2DS、B2DSでは、低炭素化が急速に進行している。これは、バイオ燃料のシェア増大と電動化によるものである。乗用車部門でのバイオ燃料、電気の全消費エネルギーに占める割合を表2に示したが、2DS、B2DSでそのシェアが大きく伸びていることがわかる。特に、B2DSでは、2050年以降、電力部門ではネガティブエミッションが達成されており、電動化は低炭素化に大きく寄与している。
 ここで、注目すべきは、2050年で、乗用車の消費エネルギーの70%が低炭素化されている一方で、残る30%は、未だ化石燃料由来の燃料であることである。これは、図12に示す保有台数での内燃機関車(ICE:HEV、PHEVを含む)のシェアがB2DSで45%、また、HEV、PHEVを除くICEのシェアが20%もあることからも理解できる。一方で、急速に進む電動化の傾向が2DS、B2DSで見られる。これは、表1にも示したが乗用車だけでなく、バス、トラックでも同様な傾向がみられる。2050年に、B2DS、2DSでは乗用車の新車販売の88、57%が電動車(PEV=EV+PHEV)になっており、B2DSでは特にCO2削減能の高いEVの占める割合が増加している。
 このように乗用車(LDV)部門でのCO2削減は、効率改善によるエネルギー消費の削減、そして、バイオ燃料や電動化による燃料の低炭素化によって達成される。ただ、その量的、スピードの点から見て、これらの対策がシナリオで想定されるように進むか、大いに疑問のあるところである。第4部では、これまでの分析の総まとめということで、電動化がシナリオ通りに進まない条件下で、2DSやB2DSのような低炭素シナリオが達成できるのか、あるいは、これらが必須条件なのかを分析する。


図12. 乗用車の新車、保有での技術別Mix(2050年、IEA-ETP-MOMO)


<参考文献>
 
[1]
IPCC(2018):Special Report “Global Warming of 1.5 ºC”
[2]
IEA(2017): ETP(Energy Technology Perspectives) 2017