九州電力・新大分発電所を訪ねて

最新鋭「LNGコンバインドサイクル発電」に環境貢献への期待


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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(「月刊ビジネスアイ エネコ」2019年4月号からの転載)

 大分市の九州電力新大分発電所(写真1)を先日、見学しました。同発電所は計約280万kWの出力を誇り、九州電力管内の発電設備容量全体の約15%に相当する、同社最大の火力発電所です。

写真1 九州電力の新大分発電所=大分市(筆者撮影)

写真1 九州電力の新大分発電所=大分市(筆者撮影)

九州初のLNGコンバインドサイクル

 同発電所は、液化天然ガス(LNG)を燃料とする九州で初めてのコンバインドサイクル発電所です。コンバインドサイクル発電は、クリーンな天然ガスを燃やし、高温の燃焼ガスの力でガスタービンを回して発電するとともに、ガスタービンから排出される高温ガスの熱を回収して蒸気を発生させ、蒸気タービンでも発電するものです。
 地球温暖化対策の観点から、今後の火力発電はより効率よく電気をつくって化石燃料の使用量を減らし、CO2の排出を減らすことが求められます。コンバインドサイクル発電は、同じ量のガスから得られる電力が通常よりも多く、燃料費を削減できます。これがひいては電気料金の上昇を抑え、産業や家計に経済的メリットをもたらします。
 燃料のLNGは、天然ガスをマイナス162℃に冷却したもので、無色透明の液体です。LNGは、化石燃料の中でも燃焼時のCO2排出が少なく、硫黄酸化物やばいじんが出ないクリーンなエネルギーとして、世界的に需要が伸びています。また、液化した天然ガスの体積は気化した状態の600分の1となり、大量に輸送、貯蔵できることも長所です。
 同発電所では、2017年度の1年間に約240万トンのLNGを使用しました。そのLNGは、大分エル・エヌ・ジー(本社・大分市)が、オーストラリアやインドネシア、ロシアなどから船で調達し、基地内のタンク(写真2)に貯蔵しています。

写真2 LNG貯蔵タンク(筆者撮影)

写真2 LNG貯蔵タンク(筆者撮影)

最新鋭のプラントを見学

 同発電所の発電設備は、1号系列6基(出力69万kW)、2号系列4基(同92万kW)、3号系列4基(同121.5万kW)の計14基で構成されています。3号系列には2016年6月、最新式の発電設備(同48万kW)1基が増設されました。同発電所の副所長に3号系列のプラントを案内していただきました。
 3号系列の既設の発電設備(第1~3軸の3基)は1998年7月に運転を開始しました。発電設備は、ガスタービン、蒸気タービン、発電機(24万5000kW×3基)からなり、ガスタービン、蒸気タービン、発電機は1本の軸でつながっています。発電出力のうちの約3分の2をガスタービン、残りの約3分の1を蒸気タービンが担っています。

写真3  新大分発電所3号系列第4軸のガスタービン(写真は九州電力提供)

写真3  新大分発電所3号系列第4軸のガスタービン
(写真は九州電力提供)

 「ガスタービンから出てくる燃焼排ガスは、排熱回収ボイラーを通過する間に、チューブの中を流れる水と効率よく熱交換し、高温の蒸気を発生させて蒸気タービンに供給されます。従来の火力と比べて、プラント全体として高い熱効率が維持できます。また、中央制御室では排煙監視計で窒素酸化物の濃度を自動記録し、監視しています」(副所長)
 続いて、3号系列に増設された第4軸のプラントを見学しました。三菱日立パワーシステムズが開発した、世界最高水準の発電端熱効率を誇る最新鋭のガスタービンや、最終翼45インチの蒸気タービン、排熱回収ボイラー、発電機などで構成されています。第1~3軸より一回り大きい第4軸の設備は、圧倒的な存在感があります。
 東日本大震災後、原子力発電所の再稼働がストップし、火力がフル稼働して代替してきました。しかし、ここにきて状況が変わってきています。太陽光発電の導入が急拡大し、火力の出力を制御することが増えており、効率を下げてでも需給調整に対応するケースが増えています。
 九州本土の太陽光発電の接続量は、2012年7月の固定価格買取制度(FIT)導入後に急増し、昨年11月末時点で826万kWと制度スタート当初に比べて約7倍に増加しています。
 天候や時間によって発電量が大きく変動する太陽光、風力発電の増加に伴い、電力システム全体の需給調整に問題が生じています。電力の需要と供給のバランスが崩れると周波数が変動し、最悪の場合、稼働している多数の発電機が設備損壊を回避するため自動的に停止し、大規模停電に至るおそれもあります。電力会社の中央給電指令所では、周波数を常に一定に保つためモニターで監視し、火力などの発電量を調整し、需給バランスをとっています。
 再生可能エネルギーを大量導入しようとすると、需給調整機能の強化が不可欠です。コンバインドサイクル発電は、運転と停止を短時間で容易に行え、需要の変化に対応した運転に優位性があります。一方、欧州では頻繁な起動・停止や過酷な太陽光の出力変化により、火力プラントの疲労劣化が進行し、修繕費や燃料費のほか、プラント改造費や技術開発費が増加しています。日本でも喫緊の課題です。

図 ガスタービンコンバインドサイクル(GTCC)の構成 出展:新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)

図 ガスタービンコンバインドサイクル(GTCC)の構成
出展:新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)

ガスの高効率化技術開発は日本がリード

 温暖化対策の観点から、火力の高効率化に向けた技術開発は重要です。コンバインドサイクル発電の効率向上には、ガスタービン入口のガス温度を上昇させることが有効で、日本は大型ガスタービンの高温化で世界の先端を走っています。
 日本は、1600℃級ガスタービンで世界最高の熱効率55%を達成し、現在は1700℃級ガスタービンでさらなる熱効率向上に向け技術開発を進めています。最新のコンバインドサイクル発電では、熱効率が60%近くまで向上し、従来設備と比べ4割以上も燃料費とCO2排出量が低減しています。
 コンバインドサイクル発電には、環境対策への貢献が期待されています。