幸せ感じるスマートタウン見学!

日本のスマートな街づくりの展望は?


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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(「月刊ビジネスアイ エネコ」2017年2月号からの転載)

 神奈川県藤沢市に2014年11月にグランドオープンした「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン(FujisawaSST)」を2年半ぶりに訪ね、見学してきました。2020年度の完成をめざし全体の約60%まで開発が進み、美しい街並みが広がっていました。スマートコミュニティの先駆けであるFujisawa SSTの今と、日本のスマートなまちづくりの将来展望を探ります。 

Fujisawa SSTの街なみ=神奈川県藤沢市 (写真はすべてFujisawa SST協議会提供)

Fujisawa SSTの街なみ=神奈川県藤沢市
(写真はすべてFujisawa SST協議会提供)

パナソニックが代表幹事

 「スマートコミュニティ(タウン)」とは、コミュニティ単位で分散型エネルギーを最大限活用すべく、エネルギーマネジメントシステム(EMS)を通じて、エネルギー需給を総合的に管理・最適化するとともに、高齢者の見守りなど他の生活支援サービスも取り込んだ「新たな社会システム」のこと。
 Fujisawa SSTは、藤沢市南部のパナソニックグループ工場跡地(敷地面積約19ha)を舞台に、パナソニックが代表幹事を務めるFujisawa SST協議会(全18 団体)によって開発された日本最大級のスマートタウンです。

Fujisawa SST のセントラルパーク周辺の様子

Fujisawa SST のセントラルパーク周辺の様子

 街の完成時には戸建て住宅約600戸、集合住宅約400戸の計1000戸が整備される予定で、現在約350世帯が暮らしています。住宅はすべて太陽光発電システムと蓄電池を標準装備し、HEMS(家単位で電気やガスなどのエネルギーを効率的に管理するシステム)が導入されています。住宅のほかに商業施設、サービス付高齢者住宅、特別養護老人ホーム、各種クリニック、保育所、学習塾などを整備し、電気自動車や電動バイクなどのシェアリングサービスも提供しています。
 CO2排出量は街全体で1990年比70%削減し、生活用水は一般普及設備の2006年比で30%削減、再生可能エネルギー利用率30%以上、非常時は3日間のライフラインの確保を目標としています。
 ライフスタイル発信型の商業施設「湘南T-SITE」では、住民と地域の人達が集います。居心地のよさそうなレストランやカフェで食事をし、ラウンジで本を読み、さまざまなイベントに参加するなど、いきいきと生活していました。昨年9月には、健康・福祉・教育の複合型拠点「WellnessSQUARE」の南館がオープンし、17年春には特別養護老人ホームも開業予定です。 
 エネルギーのメリットだけでなく、暮らしの楽しみや安心の要素も盛り込んだ新しいまちづくりの発想を世の中に提供したい、というコンセプトを見事に実現していました。

Fujisawa SST の総合情報発信拠点SQUARE Centerのカフェ

Fujisawa SST の総合情報発信拠点SQUARE
Centerのカフェ

食とものづくりの工房SQUARE Lab

食とものづくりの工房
SQUARE Lab

Fujisawa SSTのモビリティサービスが提供する 電動アシスト自転車シェアリングサービス

FujisawaSSTのモビリティサービスが提供する
電動アシスト自転車シェアリングサービス

街の先端物流サービス

 ヤマト運輸は16年11月から、Fujisawa SST全体の総合的な物流インフラとなる「Next Delivery SQUARE」を開業し、ITを活用した宅配サービスを始めました。これは、各宅配会社の荷物をいったんヤマト運輸がまとめ、街の中は電動アシスト自転車やリヤカーなどエコな手段で届ける一括配送の取り組みで、戸建て住宅街で実施するのは国内初です。16年10月に施行された国土交通省の「改正物流総合効率化法」の初の認定案件でもあります。
 17年3月にはすべての荷物情報を一本化し、当日の配送予定の情報や不在連絡をインターネットでつながった各家庭のスマートテレビに配信する予定です。住民はテレビで配送日時の変更や受け取り場所の指定ができるようになります。各宅配会社の荷物を別々に受け取る手間が減り、宅配会社は再配達に伴うコストやCO2排出量などの削減が図れます。
 今後は、宅配ドライバーがあと何分で配達に来るかを確認できるシステムの構築や、パナソニックの自動搬送ロボットによる配送、深夜でも無人で荷物の配送を受け付けるシステムの導入を検討しています。

スマートなまちづくりの展望は?

 日本のスマートコミュニティの現状と将来展望について、経済産業省資源エネルギー庁の新エネルギーシステム課長、山澄克氏にうかがいました。
 「Fujisawa SSTはスマートコミュニティの好事例と言えます。各地でスマートタウン構想が持ち上がり、設備導入の補助金の申請が大変多い状況です。しかし、国が支援するのは導入時だけで、運用は自立してやっていただかなければいけません。ランニングコストを回収するためのビジネスモデルを描いてやっていける事業主体が少ないのが課題です」

――実証などで確立できた技術と目下の技術的課題は?

 「これまでコミュニティ単位のエネルギー需給管理システムであるCEMSなどのエネルギーマネジメントシステムの開発を支援してきました。また、各機器の制御を行うため、ECHONETLiteなどの標準的な通信インターフェイスが確立しました。今後は、家庭用、事業用、産業用のそれぞれの蓄電地を連携させ、総合制御するシステムの構築を支援していく考えです。しかし、EMSなどの要素技術や、蓄電地などの機器のコストはまだ高い水準です。熱導管や自営線の設置など、エネルギー融通を行うためのコストも高く、コスト低減が今後の課題です」 

――どのようなビジネスモデルが期待されますか?

 「今後は『エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス』と『地産地消型エネルギーシステムの構築』を展開していく計画です。16年度からはバーチャルパワープラント(仮想発電所)構築事業で、需要家側の再エネ設備、蓄電地、ディマンドレスポンスなどを統合的に制御する新たなエネルギーサービスの可能性を探っています。アグリゲーション・ビジネスを推進させるためのフォーラム/検討会を2016年1月に設置しましたが、すでに海外で実績をあげている事業者を含めアグリゲーター(需要家側の電力使用量を制御し、電力需給の安定を支援する事業者)として興味を示す企業は複数あります」
 「地産地消型エネルギーシステムの構築については、EMSなどを活用しつつ、地域で生み出されるエネルギーの最大活用と最適化を目指します。地産地消型は、電気だけでなく、排熱の面的利用を促進していく考えです。大規模な排熱地と熱需要地が近接する地域モデルであれば経済性が得られる期待があります」
 ただ、利害関係者を調整し事業全体を進めていく推進主体が不足しており、まちづくりの総合プロデューサー的な人材の育成も求められます。