北九州市響灘での洋上ウインドファーム計画

めざすはアジアの風力発電産業拠点


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授


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(「月刊ビジネスアイ エネコ」2017年12月号からの転載)

 北九州市が、響灘で取り組む洋上ウインドファーム(大規模風力発電所)計画の開発予定海域を視察する機会に恵まれました。今回は、風力発電をめぐる北九州市の取り組みを紹介したいと思います。

響灘地区を風力産業の拠点に

 北九州市は2010年、響灘地区への風力発電関連産業の集積などを目指した「グリーンエネルギーポートひびき」事業()をスタートさせました。約2000ヘクタールの広大な産業用地や充実した港湾施設を有する響灘地区に風力発電産業に必要なものを集積し、将来的には風力発電産業のアジアでの総合拠点を目指すものです。


図 「グリーンエネルギーポートひびき」事業の概要
出所:北九州市

 同市には産学官が一体となって公害を克服した歴史と経験があり、環境を産業と捉え、成長が見込まれる洋上風力発電を新たな産業に育てようとしています。
 「総合拠点」としては、3つの機能を備えることを目指しています。1つは「風車積み出し拠点」としての機能です。洋上風車を設置サイトに積み出すため、風車の事前組み立て、最終調整、風車を設置する特殊船への風車の積み込みなどを行います。
 2つ目は「輸出入/移出入拠点」としての機能。響灘地区で製造した製品の輸出/移出と、他地域(海外を含む)で製造された製品の輸入/移入を行う物流センター的な機能を整備します。3つ目は「風力発電産業の拠点」としての機能。港湾施設の後背地にメーカーやサプライヤー、メンテナンス事業者、海運事業者など関連産業の集積を図りたい考えです。
 同市は2016年8月、改正港湾法に基づく第1号案件として、響灘海域に洋上風力発電所の設置・運営を行う事業者の公募を実施。今年2月、優先交渉者として、九電みらいエナジーを代表企業とする計5社からなる企業連合「ひびきウインドエナジー」が選定されました。この企業連合の計画では、洋上ウインドファームは5MW級の場合で最大44基、総事業費1750億円となる予定で国内最大規模です。2022年に着工し、順次運転を始める予定です。
 北九州市での港湾の水域利用者への占用許可は従来、最長3年で、事業を継続する場合は更新手続きが必要でした。しかし、改正港湾法に基づく占用公募制度では、20年間の占用が法的に担保され、事業を継続的に行うことが可能になりました。洋上風力発電の事業リスクを低減する環境が整ったともいえます。

欧州の港湾都市を参考

 風力発電関連産業の拠点化を目指すにあたり、ドイツの港町であるブレーマーハーフェンを参考にしています。ブレーマーハーフェンは、主な産業だった造船業が不況で不振となり、深刻な経済状況に陥りました。しかし、もともと持っていた産業基盤と港湾インフラを活用して風力発電産業の集積化を図り、目覚ましい経済発展を遂げています。
 欧州風力エネルギー協会(EWEA)によると、過去数年間、北海沿岸地域には約5億ユーロ(約660億円)の民間資本が投資されましたが、そのうち半分がブレーマーハーフェンで投資されています。ブレーマーハーフェンでは2008年以降、洋上風力分野での直接雇用が約3000人増え、湾岸全体では1万7000人の雇用が増えています。
 世界の洋上風力発電の累積導入量(2016年)は1万4384MW。英国、デンマーク、ドイツ、ベルギー、オランダの欧州5カ国で9割を占めており、年1~2GW(100万~200万kW)規模で成長しています。
 欧州では洋上風力発電のコストが大幅に低下しており、その技術的要因の1つに、洋上風車の仮組み立てや出荷基地でタワーの全組み立てなどを行う建設工法の改良、港湾インフラの整備が挙げられます。陸上でできる作業は極力陸上で行うことで、洋上での作業時間を短縮でき、コスト低減につながっています。
 北九州市にとって、風力発電関連産業の拠点化を成長の柱に据え、地元経済を発展させていくには、港湾地区の一層のインフラ整備が必要です。市は、洋上風力の建設から設置の各段階で地元の部材を採用し、さらに地元企業を積極的に活用して地域に貢献するビジネスモデルの構築を目指しています。

船で対象海域へ

 北九州港から船で響灘地区の洋上ウインドファーム開発予定海域に向かいました。港を出てから5分ほどして見えてきたのは、響難に面する護岸沿いでエヌエスウインドパワーひびきが運営する響灘風力発電施設(陸上風車、写真1)です。現在10基が稼動し、発電電力量は3500万kWh。これは約1万世帯の年間電力消費量に相当します。


写真1 エヌエスウインドパワーひびきが運営する響灘風力発電施設=北九州市若松区

 船はさらに沖に進み、北九州の沖合1.4キロ地点の海域に、電源開発が所有する定格出力2000kWの洋上風力発電設備(着床式、写真2)が建っています。新エネルギー・産業技術総合開発機(NEDO)の助成を受けて実施しているもので、2013年4月に設置が完了し、同年6月から発電を始めました。洋上風況観測システムも設置され、洋上の風況特性の研究を行う一方、洋上風車で発電した電力を陸上に安定的に送電するためのメンテナンス技術の確立などを目指しています。


写真2 NEDO が実施している北九州沖の洋上風力発電実証研究

 計画中の洋上ウインドファームは、響灘の公募水域(約2700ヘクタール)に建設予定です。過去に例を見ない大規模な事業になるため、北九州市ではセミナーや講演会、視察ツアーを行うなど、地域住民の理解を得る地道な活動も行っています。
 大規模な洋上ウインドファーム構想は国内のいくつかの地域で立ち上がっていますが、産業拠点の形成を目指す北九州市の取り組みを注目していきたいと思います。



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