トランプ政権の環境エネルギー政策2017(3)

温暖化対策を撤廃する大統領令


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授


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 3月28日、トランプ大統領は、環境保護庁(EPA)に出向き「米国のエネルギー自給率向上と経済成長促進」の大統領令に署名した。その中で注目されたのは、オバマ前政権が策定した地球温暖化対策の柱「クリーンパワープラン」の見直しに向けた正式な手続きを直ちに開始するよう、EPA(環境保護局)に命じたことだった。

 EPA長官のスコット・プルイット氏と炭鉱関係者たちが立ち会う中、署名に先立ち、トランプ大統領は「My administration is putting an end to the war on coal(石炭との戦争に終止符を打つ)」と述べ、「この規制はアメリカの産業にとって破壊的な打撃を与えた。米国の繁栄を奪ったこの規制を終わらせ、愛する国を再建する」として、クリーンパワープラン見直しを宣言した。また、トランプ大統領は、地球温暖化対策より産業振興、雇用創出を優先させる方針を強調した。

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出典:Wall Street Journal

 米国の温室効果ガス排出削減目標は、2025年に2005年比25~28%削減、2050年に80%削減だが、温室効果ガス排出量が世界2位の米国が大きく政策転換し、温暖化対策を後退させることになる。

クリーンパワープラン

 オバマ前政権が策定した「クリーンパワープラン」は、2030年までに発電所からの温室効果ガスの排出を2005年比で全米合計32%削減の目標を達成するよう、各州政府にそれぞれの状況に応じた削減案策定を義務づけるものだ。地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」での米国の約束草案を実現するためのカギとなる施策である。クリーンパワープランにより、米国内の石炭火力発電所の新設は不可能となり、古い石炭火力発電所の閉鎖を促す施策であることから、オバマ前大統領は“石炭への戦争”を仕掛けたと言われていた。オバマ前大統領は2015年、州政府に対して削減目標達成案を提出するよう求めたが、産炭地の州は規制強化に反対する訴訟を起こし対立した。連邦最高裁が2016年2月、法的結着がつくまでの間の“保留”を支持している状況である。

 トランプ政権下でクリーンパワープランの撤廃により、石炭火力発電所への規制や規則、政策が大幅に緩和される見通しだ。しかし、2月上旬にワシントンD.C.での米商工会議所や産業界、シンクタンクなどに行ったヒアリングでも聞かれた意見だが、シェールガス革命により米国のエネルギー需給構造が変革し、石炭業界は長年にわたり衰退してきている状況だ。クリーンパワープランを撤廃しても、石炭の国内需要の拡大や雇用創出といった「石炭復興」に即効性があるわけではない。米国の石炭事情については山本隆三所長の論考(トランプ大統領のエネルギー政策が始まった)を参照ください。

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出典:CNN

「パリ協定」の脱退はあるか

 2月のヒアリングでも「トランプ政権はクリーンパワープランを撤廃するだろう」という意見は多く聞かれた。しかし、「パリ協定の脱退はしないだろう」という声が多かったのは意外だった。パリ協定では、各国が5年ごとに削減目標を見直し国連に報告することを定めているが、米国が温室効果ガス削減目標を守れなくても罰則がないことから、米国が打撃を受けることはないだろうと言うのだ。つまり、「米国はパリ協定を脱退しないが、同協定の国際ルールには従わない」と言う見方だ。

 オバマ前大統領は、国連の「緑の気候基金(GCF:Green Climate Fund)」について、米国は目標額の3分の1にあたる30億ドルを拠出することを表明した。オバマ前大統領は2回にわたり計10億ドルを拠出したが、残りの20億ドルの拠出について、トランプ大統領は「国連へ拠出は行わず、それは米国の水・環境インフラ整備に当てる」と発言している。3月末時点で、ホワイトハウスのスパイサー報道官はメディアとの会見で、パリ協定を脱退するかどうかは、現在議論中だと述べている。

地球温暖化対策より国内経済優先

 トランプ政権は環境規制を大幅に緩和し、大規模なインフラ投資と雇用創出を図っていく計画である。2月24日に、トランプ大統領は連邦政府機関に規制改革タスクフォース(作業部会)を新設する大統領令に署名しており、タスクフォースはすべての規制について調査を行い、どのような規制が撤廃、または簡素化できるかを提言する。

 3月18日には2018年会計年度の予算案の骨子が発表されたが、EPA(環境保護局)の予算案について地球温暖化対策費を削り31%減の57億ドル(過去40年間で最低水準)、職員を3200人削減する計画を発表した。

 一方、地球温暖化への影響を懸念し、オバマ前政権が建設申請を却下していた「キーストーンXL」と「ダコタ・アクセス」の2つの石油パイプラインの承認迅速化を促す大統領令に1月24日に署名するなど、エネルギー生産の拡大に向けて素早いアクションを起こしている。トランプ政権は、EPAはきれいな空気と水を保護することが最も重要な使命で、“エネルギー自立の促進”と“環境保護”を同時に進めることができると表明している。

 今回のクリーンパワープラン撤廃に向けた新大統領令に対して、23の州政府や地方自治体でつくるグループは法定で争う姿勢を見せている。

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