トランプ政権の環境エネルギー政策2017(1)

自動車と燃費規制


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授


 ワシントンD.C.で今年2月6日から一週間にわたり、米商工会議所や産業界、シンクタンクなどに、トランプ政権の環境・エネルギー政策の行方についてヒアリング調査を行った。自動車業界でのヒアリングをもとに、初回は「自動車と燃費規制」について報告する。

 米国で販売される自動車には、日本とは異なる自動車の燃費規制が適用されている。「CAFE:Corporate Average Fuel Economy(企業平均燃費)」と呼ばれる燃費基準は、自動車メーカーが販売した車全体で平均燃費を算出し、それに規制をかけるというものだ。ある特定の車種で燃費基準を達成できなくても、その他の車種の燃費を向上させることでその分をカバーすることができる。しかし、その年のCAFE基準を達成できなければ、自動車メーカーは罰金等が課せられる。

 1978年の新車で初めてCAFE基準がかけられ、1985年まで段階的に引き上げられた結果、大幅な燃費の向上につながった。その後、しばらく基準値はほとんど引き上げられなかったが、気候変動(地球温暖化)問題や原油価格の高騰などを背景に、バラク・オバマ前政権は2009年5月、2012年から2016年まで毎年5%ずつ段階的に規制を強化するCAFE基準を設けた。オバマ前大統領は電気自動車(EV)の発展に強い関心を寄せ、政策的に支援してきた。

 オバマ前政権下のCAFE基準により、米国内で販売を行うすべての自動車メーカーは、燃費向上のための技術開発コストを増やし、燃費改善の技術開発と導入を迅速なスピードで進めてきた。しかし、売れ筋の車種がライトトラック(ピックアップトラック/SUV/ミニバン)と呼ばれる大型のガソリン車である米国の自動車メーカーにとって、CAFE基準は経営上の大きな負担になっている。

 米環境保護庁(Environmental Protection Agency)は、オバマ政権終わり間際の今年1月13日、2022年〜2025年型の将来の新車の平均燃費基準を、2025年までに、現在に比べて10マイル/ガロン引き上げて、「36マイル/ガロン」に最終決定したことを発表した。「図1」は2007年7月から2017年1月までの米国で販売された高燃費車の1ガロン当たり平均走行距離(マイル)の推移である。トランプ政権に変わる前の、EPAの“置き土産”とも言える非常に厳しい規制について、米自動車メーカーを中心に、トランプ政権が引き下げてくれることを切望していることが米メディアに伝えられている。

図1

 大統領に就任早々、“規制緩和”に関する大統領令を発表しているトランプだが、果たしてこの「新CAFE基準」を引き下げることができるのだろうか。自動車業界のヒアリングでは聞かれた意見は、「燃費基準の引き下げは簡単ではない」というものだ。しかも、「引き下げには何年もかかるのではないか」という意見さえ聞かれた。

 なぜならば、端的に言うと、CAFE基準は1978年に設定されて以降、州政府の規制とも複雑に絡み合い、規制緩和が容易ではないからだ。例えば、米国の中でも環境規制に厳しいカリフォルニア州では、カリフォルニア大気資源局(CARB)が1990年以降、排ガス規制としてZEV(Zero Emission Vehicle)法を制定し、自動車メーカーに対して販売台数の一定割合を、走行時に排ガスを出さないZEVにすることを義務付ける「ZEV規制」を導入している。ZEVはライトトラックに比べると燃費の点でも優れている。

 現在、CARBは、カリフォルニア州内で販売する新車の14%をZEV車にすることを義務づけており、2018年から2015年にその割合を15.4%に引き上げる予定である。実際には、ハイブリッド車(HV)や天然ガスなどもZEVに準じて考慮されているが、規制値をクリアできなかった場合、自動車メーカーはCARBに罰金の支払いか、他社から環境クレジットを購入しなくてはならない。

 仮に連邦政府がCAFE基準を引き下げたとしても、カリフォルニア州、それに追随するニューヨーク州やニュージャージー州などの7州は、自動車への規制は変えないだろうという意見も多く聞かれた。つまり、米国内で販売する自動車の燃費向上のための開発の手を緩めることは当面できそうもないということだ。

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