第6回 セメントの底力を活かし、持続可能な社会を〈前編〉

セメント協会生産・環境幹事会幹事長/三菱マテリアル株式会社執行役員セメント事業カンパニーバイスプレジデント 岸 和博氏


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授


パリ協定の評価

――パリ協定をセメント業界としてどう評価していますか?

岸 和博氏(以下、敬称略):セメント業界では京都議定書から、自主的にいろいろなCO2削減の取り組みを行ってきました。今回のパリ協定はその京都議定書の時とは違い、世界のすべての国と地域が参加して取り組む、初めての国際枠組みです。

岸 和博氏

岸 和博(きし・かずひろ)氏。

昭和59年3月
東京工業大学工学部無機材料工学科大学院 修了
昭和59年4月
三菱鉱業セメント株式会社(現・三菱マテリアル株式会社)入社
平成19年10月
九州工場生産部長
平成22年6月
岩手工場長
平成23年6月
セメント事業カンパニー技術統括部長
平成23年6月
セメント事業カンパニー生産部長
平成26年4月
執行役員九州工場長
平成28年4月
執行役員セメント事業カンパニーバイスプレジデント

 世界で1、2位の排出国である中国と米国がパリ協定を批准したことで、両国を巻き込んだ実効性のある枠組みになると期待しています。また、強制的ではないので、各産業が立場を考えた上でどこまでできるか自分たちで目標を作って、削減努力の結果をレビュー(評価)して取り組んでいくことになります。このプレッジ&レビュー方式は、我々セメント業界がこれまでやってきたことと同じ手法ですので、他の業界の方たち、他の国の方たちを巻き込んで、温室効果ガス排出削減に向けて取り組んでいきたいと思います。

 我々は、経団連が主導する2008年度~2012年度の5年間にわたる自主行動計画に積極的に参画してきました。実際に京都議定書の時に約束したエネルギー原単位3.8%減も、目標を超えて1990年比4.4%減という結果を出すことができました。パリ協定における削減目標も、苦しいながらも自分たちで目標を作ってレビューしてやっていけば成果が上がっていくと思われます。

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 しかし、パリ協定に記載された「市場メカニズムの活用」については一言申し上げたいと思います。国内でも最近は「カーボンプライシング(炭素価格制度)」に関する議論が活発になっていますが、そもそもカーボンプライシングの定義がどうもクリアではないように思えます。意味を拡大して、「排出量取引」や「炭素税」に向かうようであれば、産業界として非常に憂慮されるものです。

 排出権や税という概念は、削減のための圧力にはなるかもしれませんが、国の経済力を弱め、本来の技術開発に不可欠な「経済と環境の両立」のための活力を奪うことにつながるものです。したがって、排出事業者に対して、排出量取引や環境税などの規制的手法を取ることで排出量削減を促す仕組みではなく、未来につながるような技術革新を引き出すような仕組みが構築されることを望みたいと思います。

世界トップクラスの製造効率

――国内での温暖化対策の取り組みの経緯について伺えますか?

岸:実際にどんなエネルギー原単位がどのように推移してきているかお示しします。(図1)上段のグラフはセメント1tあたりに何MJ使っているか、また下段のグラフは電力で、セメント1tあたり何kWh使っているかを示しています。

図1(図1)出典:セメント協会[拡大画像表示]

 日本では、1990年には世界で主流であり、かつもっとも省エネ成果の高いサスペンションプレヒータ付キルンへの転換がほとんど完了しています。その後も排熱発電の導入や高効率粉砕機の導入などを実施し、小規模な省エネ対策を積み上げることで省エネに取り組んできました。海外と比較しても、日本は断トツと言ってよい効率性を誇っています。日本のセメント産業は70年代の2度のオイルショックで大変痛い思いをしていますので、設備の省エネ性を高めるための努力をしたことがやはり大きいですね。

岸氏

 現在、中国やインドなどの新興国では、古いタイプの工場も多くある一方、最新式の高効率の設備がセメント工場に導入されています。新しいセメント工場は、我々でも勝てないくらい効率の高い設備の集まりです。中国・インドの最新式のセメント工場を何度か視察しましたが、日本の技術はトップだ、エネルギー原単位は最高レベルだと言って胡坐をかいてると知らないうちに追いつかれて追い越されてしまいます。採算度外視で実施するわけにはいきませんが、CO2削減は使命だという気持ちで取り組んで行きたいと思います。

2030年の削減目標とエネルギー原単位の低減

――セメント業界では「低炭素社会実行計画」を昨年12月に公表されていますが、2030年の削減目標とその対策について伺わせてください。

岸:我々の低炭素社会実行計画はフェーズⅡの段階ですが、柱の一つは、「セメント製造用のエネルギー原単位の低減」です。2030年度のセメント製造用エネルギー原単位を2010年度実績から49MJ/t-ce、約1.4%削減することを目標にしています。(図2)省エネ設備の普及とエネルギー代替廃棄物の使用拡大により削減に取り組んでまいりますが、これが甚だ難しいのです。

図2(図2)出典:セメント協会[拡大画像表示]

 わずか1.4%下げるだけじゃないかと思われるかもしれませんが、大きな削減効果を持つ省エネ投資はすでにやり終えていて、現在残っているのは、小さな省エネ効果の寄せ集めです。省エネ設備への更新など大型の工事などはほとんどないに近いのですが、可燃性廃棄物の使い代など、まだ詰めていけばできることもありますので、地道な小さな省エネ活動を推進していくつもりです。

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――今後は、地道な省エネルギー活動を積み重ねていくわけですね。

岸:地道な省エネルギー活動や可燃性廃棄物の活用だけでは、なかなか削減目標に到達できないことも予想されますので、やはり技術的な革新が求められます。技術革新によりエネルギー原単位を下げる、産業廃棄物の処理量は変わらずに、組成を変えてクリンカ自体が少ないエネルギーで作れないかなど、様々な観点から技術開発の検討を行っています。我々としては産業廃棄物処理をするという責任はちゃんと全うしないといけませんので、受け入れる廃棄物の量は減らさないことを前提に、技術革新を実現したいと思っています。

後編に続く)

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