第7回 都市ガス業界はLNGの新たな活用を拡げ、イノベーションを加速[前編]

日本ガス協会 企画ユニット・環境部長 工学博士 深野 行義氏


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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 日本ガス協会は、都市ガス事業の健全な発達を図るとともに、天然ガスの普及拡大、エネルギーの安定供給と保安の確保、環境問題への対応を通じて社会的貢献を果たすことを目的として1947年10月に創立された都市ガス事業者の団体である。約200社の都市ガス事業者が企業会員となっている。日本ガス協会の深野環境部長に、都市ガス業界のグローバル・バリューチェーン(GVC)を含め、地球温暖化対策の取り組みについて伺った。

―――天然ガスは化石エネルギーの中でも環境性能に優れたエネルギーの一つとも言われています。他のエネルギー源と比較して、天然ガスの温暖化対策の強みについて伺えますか。

日本ガス協会 企画ユニット環境部長 深野 行義氏

日本ガス協会 企画ユニット環境部長 深野 行義氏

深野氏:天然ガスは都市ガス事業の原料ですが、その特性としてCO2、SOX、NOX、いずれも化石燃料の中では最も少なく、優れています。特にSOXは0ですし、CO2も石炭に比べればかなり少なく、都市ガスの原料の天然ガスは、非常に環境性に優れています。(図1)

 また、天然ガスはシェールガスも含めて、いろんな国から産出されます。日本は石油の輸入を中東に約8割依存していますが、天然ガスは各国にまんべんなく分布し、地域に偏在しておらず、多様な国から調達できます。ちなみに都市ガス用途の中東依存度は約6%であり、エネルギーセキュリティ(安定供給)の観点からも天然ガスは優れています。

 また、コストの面に関して、LNG(Liquefied Natural Gas=液化天然ガス)は、海外で採った天然ガスを液化して体積を減らして船で運搬していますが、LNGの調達のコスト、ひいては都市ガスのコストにおいても、シェールガスを始めとする新たなガスの調達先を広げることによって、コストを下げてきています。

(図1)出典:CO2は「火力発電所待機影響評価技術実証調査報告書」(1990年3月)

(図1)出典:CO2は「火力発電所待機影響評価技術実証調査報告書」(1990年3月)/(一財)エネルギー総合工業研究所 SOX、NOXは「natural gas prospects」(1986) /OECD・IEA

 昔は、原油にリンクして価格が決まる契約が多かったですが、最近では、単に原油の価格で自動的に決まるわけではなくて、例えばアメリカの取引価格を参照した契約等、様々な価格の決め方があります。ですから、調達地域の多様化、調達契約内容の多様化等を踏まえて、コストを下げることができています。天然ガスは、日本のエネルギー政策の基本「3E+S」の観点にもかなったエネルギー源だと思います。

―――天然ガスのメリットは大きいですね。一方、課題があれば教えてください。

深野氏:天然ガスも化石燃料ですので、CO2の排出量は、他の石炭や石油に比べて非常に少ないですが、それでも燃やすと最終的にはCO2が出ることが弱点と言ったら弱点です。今後の脱炭素化の流れの中で、何らかの対応が必要になってくると思っています。

―――業界として天然ガスの普及拡大に向けて取り組まれていると伺っています。都市ガス事業の特徴と共に、具体的な活動についてお教えいただけますか。

深野氏:天然ガスの高度利用として、「天然ガスシフト」、「分散型エネルギーシステム」への取り組みが主な活動です。天然ガスシフトにおいては、一つはやはり「熱」が非常に大事だと思っています。民生産業部門の最終エネルギー消費量の約6割が熱です。電力は3割ぐらいですので、やはりこの熱利用のところをいかに低炭素化していくかが大事です。

 熱にもいろんな温度レベルがあり、低いところは給湯に使っているような数十℃ぐらいの温度から、工業用ですと1,700℃など非常に高温の熱が要りますが、特に高温の熱はまだ技術的に電気ではできないゾーンになります。高温分野の熱は天然ガスが担える役割が大きいと思います。

 これまで大規模自家発電においては石炭・石油が主流でしたが、環境配慮などの観点から、こうした活用分野での天然ガスシフトが始まりつつあります。ちなみに昔は、コスト的に天然ガスシフトが難しかったこともありました。

―――天然ガスと石炭ではコスト的にどのくらい違うのですか。

深野氏:天然ガスを100とすると、石炭の価格が40ぐらいです。6割ぐらい安いとなると、どうしても石炭から天然ガスへの転換は経済的に難しかった。しかし、最近はCO2削減の観点から、石炭火力の自家発電を天然ガスに転換する事例が出てきています。

―――この他に天然ガスの高度利用として、どのような活用がありますか。

深野氏:新たな天然ガスの用途として、LNGのバンカリング、つまり船用の燃料としての活用があります。基本的に船の燃料はほとんど油燃料ですが、IMO(国際海事機関)の規制により、船舶燃料の国際的な排出ガス削減を推進しています。まずはSOXとNOXの規制をかけていますが、将来的には、2050年に船舶から排出されるCO2の排出量を半減しようという自主的な目標を持っています。

 そうした流れの中で油燃料からLNG(液化天然ガス)に変える動きが日本でも出てきています。船舶用のLNG燃料の需要は、2013年の7万トンから、2035年には7700万トンへ大幅に増加する見通しです。今、日本に現時点で輸入されているのに相当するぐらいの需要が生まれそうです。

―――都市ガス業界が他の業界と手を組んで低炭素化を進めているわけですね。

深野氏:はい。海運会社と連携したCO2削減対策ですが、かなり進み始めています。横浜では、船にLNGを供給する施設を作っていますし、名古屋、大阪にも拠点があります。今、始まりかけたところです。

―――海運会社での動きも出てきているのですね。

深野氏:海運会社もLNG燃料船を新造されているようです。最近ですと日本郵船が自らグリーンボンドを発行されて、その資金でトヨタの車を運ぶ運搬船をLNG燃料船にされるような動きもあります。

―――分散型エネルギーについての取り組み状況は?

深野氏:分散型エネルギーシステム、コージェネレーションと呼ばれていますが、天然ガスのガスエンジンやガスタービンで発電すると同時に、その排熱を有効利用することによって総合効率を上げようというものです。

 コージェネレーションを活用したスマートエネルギーネットワーク(エネルギーの面的利用による地産地消)により、「再生可能エネルギー導入拡大と地域内調整力提供」、「熱・電気の面的利用」、「災害時のエネルギー供給」といった最適なエネルギー利用を推進しています。(図2参照)

(図2)出典:日本ガス協会

(図2)出典:日本ガス協会

 お客さまのところに分散型エネルギーシステムのコージェネーションを設置するとともに、統合的に省エネや省CO2に寄与する取り組みをしています。事例としては、東京都港区の田町駅東口北地区、大阪府大阪市西区の岩崎地区、愛知県名古屋市港区の中川運河沿い「みなとアクルス」などがあります。

―――スマートエネルギーネットワークの分散型エネルギーシステムの強みは?

深野氏:まず、レジリエンス対策があります。地震などに強いガス管を入れています。阪神大震災の時にも壊れなかったようなガス管です。地震の時にもガスが供給できるのは、自然災害が多発している昨今、分散型電源は、生き残り機能を持たせるという意味で、ビジネス上で大きな強みだと思います。大型のコージェネレーションだけでなく、家庭用燃料電池のエネファームも自然災害時は、自律運転機能を持っている機器は使うことが可能です。

 例えば、東日本大震災時にも、六本木ヒルズにはコージェネレーション(5,750kW×5基)を核としたプラントを擁しており、平常時は特定電気事業者として、六本木ヒルズ全体に電力を供給していますが、震災直後は、余剰電力を東京電力へ供給しました。周りが停電している中、ここだけ生き残りました。

―――六本木ヒルズが生き残ったことはニュースになりました。大きな地震の際、コージェネレーションシステムがあると安心ですね。

深野氏:2018年9月6日に発生した北海道胆振東部地震の際も、都市ガス供給は中圧・低圧ともに供給停止した地域はありませんでした。北海道全域が停電した中、コージェネレーションシステムを導入していた施設では、熱と電気を供給できました。最近はこれだけ異常気象が増えていますので、レジリエンス対策という形で国にもいろいろ導入補助金等の支援をいただけるようになってきています。非常にレジリエンスに強いエネルギーシステムと言えます。

―――世界の潮流として、再生可能エネルギー(以下、再エネ)導入が地球温暖化対策として進んできています。天然ガスと再エネとの親和性は?

深野氏:再エネは、天然ガスのコージェネレーションという分散型電源と親和性が強いものだと考えています。例えば、「みなとアクルス」という、名古屋市港区にある複合施設に設置されたエネルギーシステムでは、コージェネレーションシステムの他、太陽光発電やNAS電池、運河水利用ヒートポンプなどを複合的に組み合わせたエネルギーシステムになっています。(図3)

 太陽光発電や風力発電は変動電源ですので、このコージェネレーションでうまく変動を吸収することができます。こういったコージェネレーションと再エネを組み合わせることにより、より多くの再エネを普及させることにも貢献できます。
 また、みなとアクルスでのスマートエネルギーネットワークにより、1990年比で、一次エネルギーは40%削減でき、CO2排出量は60%削減できました。

(図3)

(図3)

 今はガスだけにこだわるというのではなく、幣協会会長も、都市ガスと再エネの親和性を「再エネは恋人」だと表現しています。電力系統で再エネの出力変動を吸収するのは、九州などでもなかなか厳しい状況になってきました。分散型エネルギーを日本全体のいろいろな地域に導入し、再エネの出力をコージェネレーションで安定化させることで、再エネ大量導入のため電力系統の整備に多額のお金を投入しなくても良くなる可能性が高いと考えています。

 ガスエンジンは、起動させると早く立ち上がり、出力変動させることができます。つまり、ガスエンジンは、自動車と同じような機能を持っているのです。そうした機能をうまく利用していくことが大事な時代になっていると思います。

後編に続く〉