第7回 都市ガス業界はLNGの新たな活用を拡げ、イノベーションを加速[後編]

日本ガス協会 企画ユニット・環境部長 工学博士 深野 行義氏


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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 前編では、天然ガスの環境特性や分散型エネルギーシステムやLNGバンカリングなどの高度利用について、事例も交えてお話を伺った。前編はこちらをご覧ください。
 後半は、都市ガス業界の海外への事業展開、海外におけるGHG削減貢献量算定ガイドラインや革新的な技術開発について伺った。都市ガス業界は、グローバル・バリューチェーン(GVC)を通じたCO2削減貢献に向けたイノベーションを加速させている。

―――都市ガス業界の海外への事業展開が進んでいると聞いています。GVCの視点を含め、エネルギーサービスなど、その活動内容を教えてください。

日本ガス協会 企画ユニット環境部長 深野 行義氏

日本ガス協会 企画ユニット環境部長 深野 行義氏

深野氏:世界の天然ガスの需要は、将来的にかなり増える見通しです。特に東南アジアもそうですが、石炭や石油を大量に利用している国や地域で、CO2排出削減と大気汚染対策として、天然ガスシフトが進むと思われます。主に大手の都市ガス事業者が中心ですが、元々日本で培っていた様々なノウハウや技術を使いながら、海外で天然ガスの普及を進めています。(図1)

 海外展開としては、LNGの上流から下流まで幅広く手掛けています。天然ガス田を開発、受入れ基地やパイプラインの建設、またガスの配給、コージェネレーションを含めた発電事業も展開しています。バリューチェーン全体で、いろんな普及活動をして、海外にも貢献しています。LNGが日本に輸入されて、2019年で50周年になります。LNG調達は日本がパイオニアですが、東京ガスや大阪ガスなど大手の個社レベルで、海外でのLNGプロジェクトが進行しています。

(図1)ガス事業の海外展開 出典:日本ガス協会

(図1)ガス事業の海外展開 出典:日本ガス協会

―――海外でのCO2削減貢献量は大きいのでしょうか。

深野氏:2018年度で都市ガス事業者の海外展開によるCO2削減見込み量は、約970万t-CO2となります。2020年度には、海外展開による削減は約1200万t-CO2の見込みです。

 また、ガス機器メーカーの海外展開も削減量が大きい。例えばリンナイは、海外で非常に高効率なガス瞬間型給湯器を販売されています。メーカー・業界団体の出荷実績から、代替される機器をベースラインとして推計すると、2018年度で約1070万t-CO2の削減見込みです。
 都市ガス事業者の海外展開とガス機器メーカーの海外展開を合わせると、2,000万トンぐらいの削減貢献量があると考えております。

―――海外展開でのCO2削減量は、かなり大きいですね。

深野氏:例えばアメリカやオーストラリアでは、まだ効率の悪い貯湯式の給湯器が多いのですが、この瞬間式の給湯器に変えるだけで、CO2を大きく削減できます。恐らく日本のガス機器メーカーは、これから東南アジアにも積極的に出ていかれると思います。

―――さて、2019年9月、都市ガス業界の海外における温室効果ガス削減貢献量算定ガイドラインを公表されました。

深野氏:はい、2018年3月に経済産業省がグローバル・バリューチェーン(GVC)を通じた削減貢献を定量化(見える化)するツールとして、「温室効果ガス削減貢献定量化ガイドライン」を策定しました。これを参考に、外部識者らの視点も取り入れて、透明性・正確性・合理性が高い「都市ガス業界の海外における温室効果ガス削減貢献量算定ガイドライン」を取りまとめました。

 今まで国内では、天然ガスの普及拡大を進めている一方で、海外展開も積極的にやっていますが、その削減貢献量はきっちり定量化されていませんでした。このガイドラインは日本のエネルギー業界の中ではたぶん最初に作ったと思います。当協会のホームページにこれを公表しております。
https://www.gas.or.jp/pdf/kankyo/taisaku/sakugenkoukenryou.pdf

 われわれが今まで推進してきた低炭素社会実行計画という、いわゆる自主行動計画の中で4つの柱の一つが海外貢献です。今回このガイドラインを創りましたので、このガイドラインに沿って今年度12月に計算して開示しました。

―――次に、燃料電池、水素活用など、将来的に期待されている技術についてお聞かせください。

深野氏:「燃料電池の高効率化」と「メタネーション」が、将来向けたイノベーションの例です。まず燃料電池は高効率化すればするほど省CO2、省エネになります。エネファーム(家庭用燃料電池)は発売当初、2009年度に発売した時の発電効率は37%でしたが、今、発売しているものは53.5%まで、非常に効率が上がってきています。さらに開発しているのが65パーセントで、将来的には、理論設計効率ですが、80%ぐらいはいくと思われます。今、天然ガスの大型コンバインドサイクル発電所で出力30万キロワットか40万キロワット規模の最新鋭のものが、大体60%超の発電効率になっていますので、それに匹敵する発電効率を家庭用のエネファームで実現できます。

―――もう一つのイノベーション、メタネーションとは?

深野氏:天然ガスの欠点の一つとして、やはりCO2を出すということがあります。脱炭素化へ世界が向かう中、化石燃料の天然ガスをそのまま使うことができない時代になる可能性があります。それを解決するのが、メタネーションという技術で、安価なカーボンフリーの水素とCO2からメタンを合成するものです。カーボンフリーの水素は、再エネ由来の水素といったものです。天然ガスの主成分は大体9割ぐらいがメタンですが、カーボンフリーな水素とCO2からカーボンニュートラルなメタンが作れます。これがメタネーションになります。(図2)

(図2)メタネーション(概念図) 出典:日本ガス協会

(図2)メタネーション(概念図) 出典:日本ガス協会

―――そうなると、天然ガス田といったところから天然ガスの開発はしなくなるのですか。

深野氏:はい、そういう必要はなくなります。要は化石系ではなくて、メタネーションの原理として、CO21個と水素4つでメタン1個できます。その水素がそのカーボンフリーの水素を使えば、カーボンフリーになります。CO2は例えば大気中から採るとかできますし、これを利用することによってカーボンニュートラルなメタンが作れるというわけです。このメタネーションに実証レベルで取り組んでいます。

 例えば海外ですとドイツでは、自動車メーカーのアウディ社が実施している実証試験では、バイオガスから分離したCO2を利用してカーボンニュートラルなメタンを合成し、既存の都市ガスパイプライン網を経由してCNG自動車向けステーションへ供給しています。天然ガス自動車の燃料として使っているようです。

 日本でも、再生可能エネルギー由来のCO2フリー水素と回収CO₂を合成しメタンを生成するメタネーションの実証実験がいくつか行われています。例えば、環境省支援事業「清掃工場から回収した二酸化炭素の資源化による炭素循環モデルの構築実証事業」では、日立造船などを中心に、清掃工場の排ガス中のCO2を原料としたメタネーションにより水素と反応させてメタンを製造する実証プロジェクトを進めています。商用規模でのCO2回収・メタン製造・メタン活用などの一貫した技術を確立し、2023年以降の早期社会実装を目指しています。

 経済的に考えるとやはり大量で、かつ安い水素が必要になります。国の水素のロードマップでは2030年以降に水素を本格的に導入していく見通しですが、それに合わせるような形になっています。

 メタ―ネーションによるメタンは天然ガスのほぼ主成分になりますので、今の日本に整備された天然ガスに関わるインフラ、例えばLNGの基地やパイプライン、お客さまの消費機器、ボイラー、ガス瞬間型給湯器などがすべてそのまま使えます。メタネーションは、社会的なコストを抑えながら脱炭素につなげることができることが、一番大きなメリットだと思っています。

―――メタネーションの安全性はいかがでしょうか。

深野氏:水素の製造段階、その水素とCO2を反応させる段階でも安全的には全く問題ありません。水素を安く大量につくることが水素戦略全体の課題ですが、メタネーションにも当てはまります。技術的には恐らくいろんな実証をすることによって、そのうち確立されるとは思いますが、現状として、やはり大量に経済的に製造することが課題だと思います。

 都市ガス・天然ガスを活用した長期地球温暖化対策にどう貢献するか、将来に向けては様々な選択肢が想定されますが、その一つとして、メタネーションを活用した水素社会の絵姿があります。都市部においては、CO2フリー水素と回収CO2より合成したメタンなどを、都市ガスネットワークを介して利活用する。沿岸部では、輸入水素を大量消費する水素発電所などを起点に、周辺で水素や合成メタンの利活用を進展させる。また、全国の各地域では合成メタンまたは水素などを各ローカルネットワーク内で地産地消するなど利活用し、地域の活性化にも貢献する、といった姿です。GVCの観点から、使用段階で大きくCO2を削減できる見通しです。(図3)

(図3)都市ガスインフラを活用した将来の水素社会 出典:日本ガス協会

(図3)都市ガスインフラを活用した将来の水素社会 出典:日本ガス協会

―――ガス事業者の将来のビジネスモデルは変わりそうですね。

深野氏:ガラッと変わると思います。個社でどこまでビジョンを持っておられるかは分かりませんが、大手を中心にやはり将来のビジネスモデルは考えておられます。
 特に最近は低炭素じゃなくて、「脱炭素」になりました。脱炭素に向けてどう対応していくかは、やっぱり真剣に考え出しておられると思います。エネルギー業界全体が、ビジネスモデルを転換せざるを得なくなっていると思いますし、我々も将来へ向けて、いろいろチャレンジしていきたいと考えています。

【インタビュー後記】

 天然ガスは重要なエネルギー源であり、化石資源の中でももっともCO2の排出が少ないなど、環境性能に優れた資源です。脱炭素化の潮流の中で、世界的にもLNGの需要は伸びています。都市ガス業界として、安価で安定的な調達を図るとともに、将来に向けたさまざまなチャレンジをしていることを、深野氏から伺いました。
 コージェネレーションを核とした分散型エネルギーシステムを各地に増やすことが、レジリエンス対策の強化になること。また民生・産業部門において最終エネルギー消費の約6割が熱のエネルギー利用であり、熱の低炭素化のカギとなる天然ガスへの転換を図っていること。天然ガスの新たな活用分野として、船舶の燃料としてLNGバンカリングを推進しており、2035年には7700万トンへと大幅に増加見通しであるといったお話も印象的でした。イノベーションへの取り組みとして、燃料電池の効率化とメタネーションについても伺いました。都市ガス業界のGVCは、使用段階でカーボンゼロを目指す、ダイナミックで挑戦的な戦略であると感じました。