温暖化とイスラム国は同じ脅威なのか

MITルーレットで考えれば、再エネによる温暖化対策には疑問符


国際環境経済研究所所長、常葉大学経営学部教授


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 7月下旬にウィーンで開催されたモントリオール議定書第3回特別締約国会議において、米国のジョン・ケリー国務長官が、「大きな温室効果を持つ代替フロン類、HFC削減はイスラム国によるテロとの戦いと同じく重要である」とスピーチしたと報道された。冷媒に使用されるHFCは大きな温室効果を持つ。私が企業時代に最初に手がけた温室効果ガス削減プロジェクトもインドでのHFC排出減の案件だった。世界で初めてのクリーン・デベロプメント・メカニズム(CDM)として国連に登録を申請したが、CDM理事会において中国出身理事の反対に合い、残念ながら登録1位は中国案件に奪われ、世界で3番目の登録案件になってしまったが。
 気候変動問題に対処するためにHFCを削減することは重要に違いないが、イスラム国によるテロとの戦いと同様に重要と言われると違和感を持つ人が多いはずだ。なぜかといえば、テロはいまある脅威だが、気候変動問題が将来引き起こす脅威の度合いは分からないからだ。
 10年前に、英国政府の依頼で地球温暖化の経済的な影響を分析したスターン卿による報告書が話題になった。スターンレポートと呼ばれる報告書では、温暖化が将来大きな被害をもたらす可能性に触れ、経済性の観点からいま対策を取るほうが望ましいとされた。
 将来の被害額については無論推定だ。温室効果ガスが赤外線を吸収する性格があることは実験室では確認できても、地球規模で同様のことが起こっているかは誰にも分からない。温室効果ガスの濃度がどの程度上がれば地球の気温が何度上昇するのか、その結果どれだけの経済的な被害が生じるか、正確に知ることは無論できない。
 いま行われている分析は、こうなる可能性が高いとの蓋然性に基づく予測を行うことだ。ひょっとすると温暖化は人為的な原因で発生していないと主張する懐疑派と呼ばれる少数派の人たちの主張が、結果として正しい可能性も否定はできない。
 では、なぜ多くに国がパリ協定で温暖化、気候変動対策に合意し、温室効果ガスの排出抑制を進めているのだろうか。分かりやすい説明は、マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究グループが作ったGHG(温室効果ガス)ギャンブル、あるいはMITルーレットによるものだ。研究グループによると21世紀末の温度上昇の可能性は、円グラフでルーレットのように示される。最大で5度以上上昇する可能性も数パーセントあるが、温度が1度以下だが下がる可能性も同様にある。2度から2.5度温度上昇が発生するケースが、最も可能性が高いとされている。
 最大で5度以上上昇するリスクが数パーセントでもあるならば、やはり対策を講じざるを得ないということだ。家が火事になる確率は0.1%程度と聞いたことがあるが、多くの人は火災保険を掛けている。確率は低くても被害額が大きいからだ。MITルーレットは、確率は高くないものの極端な気温上昇の可能性を示している。そうであれば、やはり保険として対策を講じざるを得ないということだ。
 ここで問題になるのは、リスクに対していくらの保険料を支払うことが可能かということだ。月当たり1万円の火災保険料であれば、大部分の人は支払い可能だが、月100万円の保険料を支払う人はいないはずだ。支払う資金が現在の生活に大きな影響を及ぼし、リスクに対して見合っていないからだ。
 気候変動対策への支払いも同様に考えられる。将来の温暖化を防止するために、私たちがいくらの資金を今使用可能か、また現在の経済がどこまで負担可能か、よく考える必要がある。例として再生可能エネルギーの導入を考えたい。
 ドイツを筆頭に多くの主要国が、太陽光、風力などの再エネ導入支援策を開始した。化石燃料から再エネへのエネルギー転換を目指した理由の一つは、二酸化炭素の排出抑制、温暖化問題への取り組みにあった。しかし、固定価格買取制度(FIT)を中心にした支援策は電気料金の上昇を招き産業と生活に影響が生じたことから、主要国はFIT政策の変更を余儀なくされた。
 イタリアは、太陽光発電からの発電量と収益に対する課税を新たに開始した。ドイツは太陽光発電の小型設備を除きFITを廃止した。ベルギーはグリーン証書の買取価格を大幅に減額した。スペインは遡及しFITの買取価格を変更し、この制度変更は最高裁にて適法とされた。英国、フランスを含め各国ともに買取額の大幅減額を行なった。
 いずれも、将来のリスクに対し支払う金額が過大になったとの判断に基づくものだ。日本も同様の状況にあるのではないか。電気料金の推移とFIT買取額の電気料金による負担額の推移は図の通りだ。今年度の負担額は標準家庭(300kWhの消費量)で月額675円になり、全国平均の産業用の電力料金の10%以上を占める。原子力発電の停止により2011年度から上昇した電気料金をさらに引き上げることになった。「保険料」として適切なレベルにあるのか、よく考える必要がある。

図1



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