スウェーデンが脱原発 → 建て替えに政策転換した理由

日本メーカーは国内の原発工事で経験蓄積の必要あり


国際環境経済研究所所長、常葉大学経営学部教授


(「月刊ビジネスアイ エネコ」2016年8月号からの転載)

 東日本大震災の後、エネルギー政策の研究者が「世界の脱原発の流れははっきりした」と発言しているのを聞いたことがある。間違いだ。福島第一原子力発電所の事故により、ドイツでは2022年の原発全廃政策が決まった。スイスも将来の原発廃止を決めた。しかし、世界全体では原発は増加し、脱原発の流れはない。
 中国、インドは無論のこと、欧州でも東欧諸国を中心に増設が予定されている。脱原発が世界の潮流と説明するのは無知なのか、あるいは意図があってのことだろう。ドイツの脱原発にせよ、紆余曲折があり決定したものだ。スウェーデンはドイツよりもはるかに早く、1980 年には2010 年6月の原発全廃を決定した。
 しかし、多くの識者から脱原発による電気料金上昇と二酸化炭素(CO2)排出量の増加を考えるべきとの指摘があり(例えば、環境経済学で著名なノードハウスの著書“Swedish NuclearDilemma”邦訳「原子力と環境の経済学」(電力新報社)は、経済性と環境問題から脱原発は不可能とした)、スウェーデン政府は1998 年に方針を転換し、2010年以降の原発利用を決める。
 ただ、スウェーデン政府は、2040年までに水力を含めた再生可能エネルギーからの電力供給を100%にする目標を立て、原子力を徐々に廃止する予定とした。原子力発電に課税し、その税収分を再エネ支援に充当する政策も採用した。しかし、スウェーデン政府は今年6月、またまた政策を変え、既存の原子力発電設備10基のリプレースを電力会社に認め、さらに原子力発電への課税も廃止することを決定した。

スウェーデンの原子力発電の現状

 スウェーデンでは現在、3カ所で9基の原子力発電設備が稼働中だ。2015年の発電量は543億kWhに達し、全発電量の34%のシェアを持つ。水力発電が供給量の47%のシェアを持ち、原子力以上の供給を行っていることから、1kWh当たりのCO2排出量は20グラムだ。原発がほとんど稼働していない日本の2014年の1kWh当たりの排出量は556グラムだった。ドイツの2013年の数字は510グラムだ。スウェーデンの排出量が極めて小さいことが分かる。昨年閉鎖された設備1基を含めたスウェーデンの原子力発電設備の概要は表1の通り。

表1 スウェーデンの原発 出所:世界原子力協会

表1 スウェーデンの原発
出所:世界原子力協会

 スウェーデンの原子力発電のコストは安く、1kWh当たり平均3.8ユーロセント(4.3円)と報告されている。このコストには、政府による再エネ支援のための課税0.75セント(0.8円)が含まれている。総額では4億ユーロ(450億円)になる税だ。このコストでも原子力発電設備を保有する電力会社は利益を上げることが難しくなってきた。北欧の電力市場の卸価格が低迷しているためだ。卸市場の価格低迷の理由の1つは、景気低迷により需要が伸びないこと、さらに政策的な補助を受けている風力などの再エネによる発電量が増加していることだ。
 原子力発電所の採算が悪化しているため、スウェーデンに本社のある大手電力バッテンフォールは、原子力発電に対する課税の廃止がない限り運転している7基すべてを2020年までに停止すると発表した。さらに、3基の設備を持つOKGの最大権益を保有するドイツ・ユニパー(イーオンが火力部門などを分離し設立した企業)も、課税が廃止されないのであれば設備を廃棄すると発表した。
 原発が全廃されても、電力供給は問題なく行われるだろうか。スウェーデンは年間340億kWhの電力輸出、125億kWhの輸入を行っている純輸出国だが、原発の供給がなくなれば、輸入国にならざるを得ない。スウェーデンからの電力輸入に需要量825億kWhの20%、170億kWhを依存しているフィンランドも影響を受けることになる。北欧の電力需要が最大になる冬場の電力供給に問題が生じることになるだろう。
 原発が全廃された場合の電力供給を風力発電で代替する試算も行われた。風力発電はいつも利用できるわけではないので、バックアップ電源としてガス火力を用意するが、900万kWの原発を代替するには2230万kWの風力発電設備と860万kWのガス火力発電設備が必要とされている。発電コストは1kWh当たり10ユーロセント(11円)になり、CO2排出量は現状の2倍になると想定されている。

原子力発電所のリプレースと日本企業

 原発がないと電気料金の上昇、CO2排出量の増加が予想されることから、原発の稼働継続を図り、建て替えも行う必要があることは明らかだ。そのためスウェーデン政府は原子力発電への課税を来年から2年かけて廃止することを決め、さらに表1にある10基のリプレースを認める決定を行なった。電力会社が建て替えに踏み切るかどうかの検討はこれから行われることになる。
 2040年に再エネからの発電を100 %にするとの目標の整合性については、単なる目標でありその日に全ての原発を停止するわけではないと説明されている。スウェーデンのエネルギー大臣は「これが伝統的なスウェーデン流の譲歩」と述べたと、英フィナンシャルタイムズ紙は報じている。
 仮に10基の設備が建て替えられる場合、どこの企業が建設を請け負うことになるのだろうか。
 隣国フィンランドでは、仏アレバが建設中のオルキルオト3号機(172万kW)の建設が遅れ、当初予定の2010 年の運転開始が2018年になり、30億ユーロ(3400億円)の工費は85億ユーロ(9600億円)まで膨らんだ。新たに建設が予定されているハンヒビキ1号機(120万kW)では、ロシア・ロスアトム社が34%出資し、同社製の原子炉「VVER-1200/V-491」が導入される。フィンランド政府への建設許可申請はすでに提出されており、建設開始は2018年、運転開始は2024年の予定だ。
 オルキルオト3号機の工期が遅れ、工費が膨れた理由の1つは、仏アレバが請け負う工事が減少し、経験が少なくなったことにもあると言われている。原発工事には、工事経験の蓄積が必要だが、いまその経験を積んでいるのは中国企業になってしまった。経験の蓄積が少なくなると、工期、工費ともに当初予定を守ることが難しくなると言われている。
 日本では、2030年の電源構成案で原発の比率を20-22%とする長期エネルギー需給見通しはあるものの、建て替え、新設の目処はまだ立っていない。世界の原発技術を支えている日本企業が工事経験を長期間失うことになれば、世界の原発建設に大きな影響を与えることになる。世界の原発新設計画は表2の通りだ。

表2 世界の原子力発電所 ※2016年6月現在  出所:世界原子力協会

表2 世界の原子力発電所
※2016年6月現在  出所:世界原子力協会

 日本企業が技術を維持し、世界の原発工事の工期、工費で問題を生じさせないようにするには、日本での工事を継続的に手がけ経験を蓄積する必要がある。長期エネルギー需給見通しの具体化が待たれる。


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