どこか似ている脱EUと脱原発議論


国際環境経済研究所所長、常葉大学経営学部教授


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 EU残留か離脱かの英国の国民投票前に、離脱の場合の英国経済への影響が残留支持派の英国政府財務省はむろんのこと、IMF、OECDなど多くの国際機関からも発表されていた。どのレポートも離脱により英国経済は成長、雇用の面でマイナスの影響を受けると指摘していたが、それでも英国民は離脱を選択した。
 離脱決定の後、通貨、株価が値下がりし、企業へのアンケートでは英国から移転するとの声も多くあり、離脱に投票した人のなかには後悔している人もいると報道されている。しかし、EU残留を希望する人が多いスコットランドの独立に関する国民投票が行われることはあっても、再度EUの問題で国民投票が行われることはないだろう。後は離脱の条件交渉になる。
 離脱の影響を受けるのは英国だけではなく、最貧国なども大きな影響を受けるとの調査レポートが英国のシンクタンクから出された。最貧国が受ける影響の一つは英国経済の低迷とポンドの下落による輸出の減少とされている。国民投票後ポンドが10%下落したがその場合の幾つかの最貧国と途上国の貿易への影響は表のように試算されている。

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 短期の輸出額への影響は、インドで0.4%、中国で0.3%とさほど大きくはなく、中長期の影響は今後の交渉により変わりえるので現時点で見通すのは難しいが、いずれにせよ、英国との貿易額多い最貧国、途上国にとっては迷惑な国民投票だった。
 なぜ国民投票で経済に大きな影響がある脱EUが選択されたのだろうか。離脱派はジョンソン前ロンドン市長の演説にみられるように、欧州を征服しようとしたヒトラーが失敗したようにEUもうまくいかない、あるいは、EU本部の官僚により英国の主権が奪われていると主張した。残留派は、経済、雇用にマイナスの影響が生じ、社会全体が受け取る便益、社会的厚生は減少すると主張したが多数派にはならなかった。
 国民投票では、若年層は残留に、高齢者は離脱に投票したとされ、調査によると年齢とともに離脱支持の比率が上昇し、65歳以上では離脱支持が61%だった。18歳から24歳の若年層では離脱支持は25%しかいなかった。これから国を担う若者の意見が反映されなかったというのも再投票を要求する根拠になっている。
 このEU離脱の話は、脱原発の話と似通っているところがある。脱原発を主張する人たちは事故のリスクをあげることが多い。原発の稼働により電気料金が下がるという数字で捉えられる社会的な厚生があるが、それと事故のリスクの経済面(社会的な損害は確率論で計算可能だが)が比較されることはない。社会的な厚生ではなく、他の側面が判断の基準になっている点はEU離脱の話と似ている。
 高齢者の判断が世論になっているのも、脱原発と脱EUは似ている。日本でも原発反対は年齢とともに上昇し、60代が最も多くなるようだ。自民党の不支持率と同様の動きだ。RDDと呼ばれる電話による世論調査では、NHKの世論調査室の副部長によると、回答者に占める20歳代の比率は3%程度、60代以上が約半数を占め、高齢者の意見が強く反映される問題があるとされている。年齢により意見が大きく異なる問題では世論調査の結果を疑ったほうが良いかもしれない(朝日新聞は、日本の年齢構成と世論調査の年齢構成が同じになるまで電話をかけ続けているらしいが、母数と回答数は他のRDD方式の世論調査とあまり変わらないようだ)。年齢構成比で世論調査の結果を修正すると原発肯定の人が多い結果が得られたというのは以前指摘した通りだ。
 経済面での影響を最も受けるのは、中堅の給与生活者であり、年金生活者は現時点では影響を受けることは相対的に少ないはずだ。また、英国で指摘されているように、国の将来は若年層の意見を多く反映する形で決めるのが望ましいのかもしれない。日本の原発問題も角度を変え社会的な厚生を含め議論すべきとの発想があってもおかしくはない。
 



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