先進エネルギー自治体(1)

宮城県東松島市〜日本初、マイクログリッドによる防災エコタウン


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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 先日、一般社団法人レジリエンスジャパン推進協議会主催『先進エネルギー自治体サミット2016〜強靱な地域エネルギーシステムへ〜』の『先進エネルギー自治体大賞』の審査員をつとめさせていただく機会に恵まれました。東日本大震災から5年目の今年、自然災害の脅威への備えなど、レジリエントなまちづくりは地域における今後の大きな課題です。ファイナリストに残った18自治体は、いずれも地域の特性を活かしながら、“強靱化(レジリエンス)”をめざした先進的なまちづくりを行っています。これからのまちづくりにおけるヒントとして、いくつかの自治体の取組を取り上げたいと思います。

 最初は、東日本大震災では市街地の65%が浸水し、死者1000人超と甚大な被害を受けた宮城県東松島市です。大震災発生後、市中心部では約20日間、最も遅いところでは3か月以上電気のない避難生活を余儀なくされました。市民らはエネルギーが供給されることがいかに大事か身をもって感じたといいます。市が策定した「復興まちづくり計画リーディングプロジェクト」では、「防災・減災による災害に強いまちづくり」を基本方針の一つに掲げ、分散型地域エネルギー自立都市の形成を進めています。2011年12月には内閣総理大臣より「環境未来都市」(全国11都市)に選定されています。

東松島防災エコタウン

 市が積水ハウスと官民連携事業として進めている「東松島防災エコタウン」は、マイクログリッド注1)が導入された日本初のエコタウン。85戸の災害公営住宅注2)と周辺の病院などへ、市が所有するマイクログリッドにより電気が供給される仕組みになっています。(環境省「平成26年度自立・分散型低炭素エネルギー社会構築推進事業」[平成26~28年])

出典:「東松島スマート防災エコタウンの概要」東松島市・積水ハウスによるプレスリリース(2015年3月6日)より

出典:「東松島スマート防災エコタウンの概要」東松島市・積水ハウスによるプレスリリース(2015年3月6日)より

 エコタウンには、太陽光発電(合計470kW)、大型蓄電池(500kWh)、非常用バイオディーゼル発電機(500kW)、スマートメーター等が設置されており、災害公営住宅エリアと病院、公共施設は、電力会社から一括受電し、自営線による電力供給が行われています。公道をまたぐ複数地区にわたる自営線の敷設は自治体が行いました。平成27年度中に設備が完成し、昨年8月から災害公営住宅の入居者に対する電力供給が始められています。実証の最終年度となる今年度はデータ計測が行われる予定です。

 インフラは普通財産として自治体が保有し、初期投資や維持管理に関わる費用を自治体が負担しています。投資回収期間は15年の見通しですが、インフラの構築の金銭的リスクを自治体が担うスキームにより、事業者はこれらの金銭的負担から解放され、マイクログリッドによるまちづくりの持続可能性が担保されました。事業主体は、産学官民による復興まちづくり中間支援組織の一般社団法人東松原みらいとし機構です。

出典:「東松島スマート防災エコタウンの概要」東松島市・積水ハウスによるプレスリリース(2015年3月6日)より

出典:「東松島スマート防災エコタウンの概要」東松島市・積水ハウスによるプレスリリース(2015年3月6日)より

地域エネルギーマネジメントシステムはどう機能する?

 平常時の電力供給はもちろんのこと、非常時にも3日間の電力の供給を行えることが東松島防災エコタウンの特徴です。これを実現するためには、CEMS(地域エネルギーマネジメントシステム)が核になります。平常時は、スマートメーターにより電力量を計測し、①エリア全体・個別の電力の見える化を行い、②個別機器の発電量と需要量の測定と電気事業者へのデータ送付、③蓄電池の充放電によるピークカットなどを行います。

 非常時は、例えば公共系統が停電した場合、エリア内のバイオディーゼル非常用発電機を起動し、太陽光発電と蓄電池も組み合わせて、電力の需給調整を行って供給します。避難が少し長引いても、避難所となる集会所と病院には太陽光発電と蓄電池により最低限の電力供給の継続ができ、病院の自家発電も運転させる予定です。病院など医療機関に電気をいつでも供給できる体制を整えることは、市民にとって安心につながります。東松島市の取組は、「エネルギーの地産地消」、「防災力の向上」、「医療活動の向上」を図るレジリエント都市の良い事例と言えるでしょう。

出典:「東松島スマート防災エコタウンの概要」東松島市・積水ハウスによるプレスリリース(2015年3月6日)より

出典:「東松島スマート防災エコタウンの概要」東松島市・積水ハウスによるプレスリリース(2015年3月6日)より

注1)
マイクログリッドとは:既存の大規模発電所には依存せず、エネルギー供給源と消費施設をもつ小規模なエネルギーネットワーク
注2)
災害公営住宅とは:災害で家屋を失い、自力で住宅を確保することが困難な被災者のために、国の補助を受けて自治体が供給する住宅(災害復興住宅)