担当者の現場感覚にあふれた一冊

書評:藤木 勇光 著「CSRは社会を変えるか “企業の社会的責任”をめぐるJ-POWER社会貢献チームの挑戦」


国際環境経済研究所理事・主席研究員


印刷用ページ

電気新聞からの転載:2015年12月25日付)

 「CSR」ほど、その解釈が人によって異なる言葉も珍しい。日常生活で触れる機会はあまり無いため、会社の業務でCSRという言葉に向き合うこととなった社員はその時初めて「CSRとはなにか」という深遠な問いに直面し、苦悩する。流行り言葉のようにもてはやされるかと思えば、本業に関係ないと関心を持ってもらえなかったり、業績にどう貢献しているのだと詰め寄られたりもする。熱意のある社員が担当すれば活発になるが、その人が異動してしまうと振り出しに戻ってしまったりもする。CSRを理念的に説くいわゆるCSR本は多数あるが、本書は企業でCSR関連の仕事をしたことのある人間であれば「あるある」と頷きたくなる迷いや悩みも含めてあますところなく綴った、現場感覚にあふれた一冊である。

 J-POWERは体験型環境教育プログラムを展開しており、私も奥只見水力発電所をベースとした2泊3日のツアーに参加したことがある。大学生約30人をJ-POWER社員や環境教育に知見の深いNPOのメンバーなど10人近いスタッフがサポートし、周辺のブナ林の機能や水力発電の仕組み、奥只見開発の歴史などを学ぶ。「エネルギーの3E」といった言葉を振りかざすことは無いが、プログラムを終えると、3Eのバランスを取り、現実的にものを考えるトレーニングができているのである。

 本書の中に、「電気はどこからやってくるでしょうか」という先生の質問に対して、ある生徒が「壁から」と答えたというエピソードが出てくる。その生徒に対して、電気がどこで作られるかを知識として教えることはある意味簡単なことだ。しかし知識で考える人はぶれやすい。手間暇はかかるし、参加者がそれぞれ多様な考え方を持ち帰ることとなるが、J-POWERは電気卸売の企業として、自分で考えるエコ×エネパーソンをサポートすることを自社の社会貢献の一つとしたのであろう。

 電気事業が全面自由化されれば、短期的な投資リターンを求めて事業に参画するプレーヤーも増えるだろう。しかし、我々のライフラインを委ねる企業が果たすべき責任とはなにか。改めて考えてみたいと思わされた。

※ 一般社団法人日本電気協会に無断で転載することを禁ず

20160113_book

「CSRは社会を変えるか “企業の社会的責任”をめぐるJ-POWER社会貢献チームの挑戦」 
著者:藤木 勇光(出版社:みくに出版)
ISBN-10: 4840305749
ISBN-13: 978-4840305747

記事全文(PDF)



誤解だらけのエネルギー・環境問題の記事一覧