「欧州の優等生」の危うさ、明らかに

書評:三好 範英 著「ドイツリスク 「夢見る政治」が引き起こす混乱」


国際環境経済研究所理事・主席研究員


電気新聞からの転載:2015年10月30日付)

 ドイツは2015年には46年ぶりに新規国債発行をゼロとするなど、「欧州の優等生」と評されている。日本の国民の中には「欧州の病人」と呼ばれていたころのドイツの記憶は残っておらず、欧州経済のけん引役であり、「エネルギー転換」という社会変革の旗手としての姿が強調されて伝わっているように思う。

 エネルギー転換政策について言えば、脱原発・脱化石燃料・再エネ主体の経済への切り替えという明確な理念は国民の理解と賛同を得ているし、再エネによる発電電力量が25%を上回る再エネ大国となっている。その政策が成功か失敗であるかの評価は、最終的にその国の国民がすべきもので、他国の国民が評価するのは余計なお世話でしかない。

 しかし我が国の政策の参考にするのであれば、分析と評価をせざるを得ない。様々な環境や条件、国民性などを知り、我が国との共通点・相違点を洗い出さなければならない。そうした意味で、ドイツに駐在していた筆者が感じ取っていたドイツ人の思考回路は一つの参考になる。

 私もドイツメディアの記者や研究者と接していてしばしば感じるのだが、彼らは理念と善意で「べき論」を語る傾向が強い。福島原子力事故について、ドイツで極めて悲観的な報道がなされていた根底には、もともとドイツ国民が原子力技術を倫理的ではないと認識していたことに加え、自国民および日本人のことを心配する善意があったのであろう。しかし、花粉症対策でマスクをする東京都民の写真を一面に掲げて「死の不安にある東京」と報じる勘違いや、緑の党党首がTwitterに原発事故で1万6千人が亡くなったと書きこむに至っては、もう少し冷静に現実を見てほしいと言いたくなる。筆者が「夢見る政治」と評するこの国の危うさやそれによってもたらされている混乱も、我々は知るべきであろう。

 この本の示してくれるドイツも一面から見たドイツでしかない。しかしこうした側面を持った国なのである。我が国もドイツに劣らず、「夢見る政治・夢見る国民」になっていないか。隣の芝生を仰ぎ見ても学びは無い。人の振り見て考える大切さを教えてくれる一冊である。

※ 一般社団法人日本電気協会に無断で転載することを禁ず

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「ドイツリスク 「夢見る政治」が引き起こす混乱」 
著者:三好 範英(出版社: 光文社)
ISBN-10: 4334038794
ISBN-13: 978-4334038793

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