固定価格買取制度導入の経緯・失敗の原点(その2)
印刷用ページ3)電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(再エネ特措法)
現行の固定価格買取制度は、震災直後の2011年4月5日に「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法案」として国会に提出された。衆議院で同法案が審議されていた最中の6月15日、「再生可能エネルギー促進法案成立 緊急集会」に、ゲストとして招かれた菅首相(当時)が「国会には菅の顔をもう見たくないと言う人が結構たくさんいる。それなら、この法案を早く通した方がいい。その作戦でいきます!」と訴えると、主催者側であるソフトバンクの孫正義社長が「粘り倒して、粘り倒して、この法案だけは絶対に通してほしい!」と絶叫する姿注13) はテレビでも放送され、世間の注目を浴びた。震災に伴う津波による東電福島第一原発の事故を背景とした「原発嫌悪」の世論の中、再生可能エネルギーの導入拡大に異を唱えることは、政治的には極めて困難な状況にあり、国会では、与党民主党はもとより、自民党・公明党から社民、共産に至るまで、すべての政党が法案成立に積極的であった。再生可能エネルギーに関しては挙国一致ともいえる状況は2012年12月の衆議院議員選挙における各党の選挙公約を見ても明らかである(表4)。これは再生可能エネルギーに対する盲目的な信頼もあろうが、仮にさまざまな課題があることが分かっていても、有権者受けを考えると再生可能エネルギーに否定的な態度は示せないという事情も透けて見えてくる。
再エネ特措法は、国会審議の過程で、いくつかの重要な修正(調達価格等算定委員会の設置、電力多消費産業への減免措置等)が加えられたのち、同年8月26日に参議院の全会一致で可決・成立、2012年7月1日に施行されることとなった。
再エネ特措法のポイントは次の通りである。
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- 電気事業者に、国が定めた調達価格・調達期間での、再エネ電気の調達を義務づけ(第1条)
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- 調達価格・期間は、調達価格等算定委員会の意見を尊重し、経産大臣が決定(第3条)
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- 調達価格は各再エネごとに「適正コスト」に「適正利潤」を勘案して算定(第3条)
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- 経済産業大臣は、調達価格等を定めるに当たっては、賦課金の負担が電気の使用者に対して過重なものとならないよう配慮しなければならない(第3条)
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- 買取価格と回避可能原価との差額を「賦課金」として電気の利用者から徴収(第16条)
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- 電力多消費産業に対する賦課金の軽減措置(第17条)
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- 集中的導入を図るため、施行から3年間は特に利潤に配慮(附則第7条)
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- エネルギー基本計画見直し時または3年ごとに、導入状況、電気料金への影響・見通し、内外の社会経済情勢の変化等を踏まえ、必要な措置を講ずる(附則第10条)
4)調達価格等算定委員会
固定価格買取制度に最も重要な影響を与える調達価格並びに調達期間については、経済産業大臣が決定権者ではあるが、調達価格等算定委員会の意見を尊重しなければならないとされている(再エネ特措法第3条)。すなわち、調達価格等算定委員会は、日本の将来の再エネ導入に重大な権限を有していることになり、また、これから再エネ事業を始めようとする者にとっての事業性の鍵を握っているとも言える。このため、調達価格等算定委員会のメンバーは、再エネや電気事業制度に関する専門性に加え、高い公平性・モラルが求められることから、国会の同意が必要(再エネ特措法第33条)となっている。2011年11月、179回国会に「調達価格等算定委員会委員に進藤孝生君、辰巳菊子君、山内弘隆君、山地憲治君及び和田武君を任命することについて同意を求める件」が上程されると、環境NGOから「進藤(経団連地球環境部会長・新日鐵副社長)、山内(一橋大教授)、山地(RITE研究所長)候補は再エネに批判的な立場の人物であり、委員として不的確」との批判が起こり、最終的には、進藤候補を環境NGOが押す植田(京大教授)候補に入れ替えた案が、国会で承認された。進藤候補は、同法に関する国会参考人質疑で、「単価でいうと0.5\/kWhから約2\/kWh、150\/月というのが家計の負担と言っておりますけれども、600\/月以上ということになろうかと我々は思っています。製造業全体では、4600億の負担増、(筆者補:企業純利益総額の)約3%が喪失されるということであります。」と発言しており、このことがFIT推進派の強い反感を買ったらしい。しかし、その予想は制度開始からわずか3年で現実のものとなってしまった。進藤候補が外されたことで、電気料金の上昇により国際競争力や雇用などに深刻な影響を受ける電力ユーザーの代表者が不在の委員会となってしまった。
最終的に国会により承認された調達価格等算定委員会のメンバーは次のとおりである。
- 植田 和弘
- 京都大学大学院経済学研究科教授
- 辰巳 菊子
- 公益社団法人日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会理事・環境委員長
- 山内 弘隆
- 一橋大学大学院商学研究科教授
- 山地 憲治
- 公益財団法人地球環境産業技術研究機構(RITE)理事・研究所長
- 和田 武
- 日本環境学会会長