約束草案の排出削減努力の評価と世界排出量の見通し
秋元 圭吾
公益財団法人 地球環境産業技術研究機構システム研究グループリーダー(IPCC WG3 第5次、第6次評価報告書代表執筆者)
4.約束草案実現時の世界の温室効果ガス排出見通し
約束草案実現時の2030年の世界全体の温室効果ガス排出量は59.5 GtCO2eq程度と推計された(現状政策排出量比6.4 GtCO2eqの削減)。119カ国の約束草案を積み上げた場合、 2100年に+2~+3℃程度の範囲が見込まれるシナリオと整合的であると評価される(図5)。この気温の幅は、気候感度の不確実性(IPCC第5次評価報告書では1.5~4.5℃と評価されている。本評価では代表的と考えられる3.0℃と2.5℃の場合についてのみの排出経路を図に示したが、0.5℃違うだけで同じく産業革命以前比+2℃以内としても世界排出経路は全く異なってくる)と2050年以降の革新的技術開発とその普及による大幅な排出削減に大きく依っている。
5.おわりに
各国間で能力、排出削減可能性など、差異がある中で適切に「排出削減努力」を評価することが重要であり、本評価はそれを目指したものである。
本評価結果からは、経済見通しにも依拠しやすいが、中国、インドなど、限界削減費用がゼロと推計される国も見られる(成り行きで約束草案達成可能)。限界削減費用に国際的な大きな差異が生じると、炭素リーケージを誘発してしまい、世界全体での排出削減の実効性が著しく劣ってしまう危険性があり、本分析でも世界全体での排出削減効果を幾分か減じると推計されており、懸念事項である。
なお、国際公平性・衡平性を測る絶対的な指標は存在せず、本評価が絶対的なものと言うつもりはない。PDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクルにおいて着目すべき一つの評価と認識してもらいたい。また、ここで劣ると評価された国よりも、そもそも約束草案を提出しない国(うち排出量が多いのは、イラン、サウジアラビア、パキスタン、エジプト、ベネズエラ等)の方が大きな問題であることは認識しておくべきである。
なお、国際レビューシステムを含むPDCAサイクルを働かせることで、約束草案の目標達成を促し、可能な国は更なる深堀を目指すことは重要である。しかし、気候感度の不確実性がないかのように2℃=450 ppmCO2eqとし、そこから世界の2030年許容排出量を導いて、それと約束草案で期待される排出量とのギャップを指摘し、そのギャップを埋めるべきとするギガトンギャップ論を展開することは望ましいとは思えない。この発想は、失敗した京都議定書的な枠組み、トップダウン的な思考に戻ってしまい、排出枠をめぐってゼロサムゲーム的になり非建設的な議論に陥りやすい。レビューはピアプレッシャーを受けながらも自発的に排出削減機会を認識しお互いを鼓舞する前向きなものであるべきだ。さもなければ長続きしない。また2030年のギャップに拘るのではなく、より長期の視点をもって技術革新とその普及を目指し、排出削減を深堀していく前向きな対応であるべきである。
- <参考文献>
- 1)
- RITE公表資料(日本語、2015年11月4日、http://www.rite.or.jp/Japanese/labo/sysken/about-global-warming/download-data/GlobalCO2Emission_INDCs_20151104.pdf;英語、2015年11月11日、http://www.rite.or.jp/Japanese/labo/sysken/about-global-warming/download-data/E-GlobalCO2Emission_INDCs_20151111.pdf)
- 2)
- J. Aldy, B. Pizer, K. Akimoto, Comparing Emissions Mitigation Efforts across Countries (2015). http://www.rff.org/files/document/file/RFF-DP-15-32.pdf
- 3)
- Climate Action Tracker, http://www.climateactiontracker.org/