化石燃料の枯渇がもたらす経済成長の終焉(その4)

化石燃料消費の抑制こそが貧富の格差の是正による平和な世界を創る


東京工業大学名誉教授

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世界の化石燃料消費の増加が化石燃料国際市場価格の高騰をもたらしている

 本稿(その1)で述べたように、確認可採埋蔵量とは、現状の採掘技術で、経済的に採掘可能な化石燃料の量である。世界中が、経済成長を競って、この成長に必要なエネルギー源として、資源量の限られた化石燃料を大量に消費すれば、当然、その価格が上昇する。この価格上昇が異常な値に達すれば、その結果として消費量の増加が減少するから、需要の伸びを期待して上昇を続けていた化石燃料の国際市場価格の上昇が停滞する。
 エネルギー経済研究所(エネ研)データ(文献4-1)から原油の国際市場価格にほぼ比例する日本のドル建ての輸入CIF価格(産地の出荷価格に運賃と保険料を上乗せした価格)の年次変化を図4-1に示した。この図に見られるように原油の国際市場価格は、先ず、1973年と1978年の2度の石油危機で急騰した価格が、その後20ドル程度で比較的安定していた。しかし、2005年頃からにわかに急騰し、100ドル/バレル以上にまで達し、乱高下を繰り返していたものが、2014年度後半には50ドル/バレル以下まで暴落した。

図4-1

注;星印は2014年後半の暴落後の原油価格を示す。
図4-1 原油のドル建ての輸入CIF価格の年次変化(エネ研データ(文献4-1)をもとに作成)

 この2005年頃からの原油価格の急騰の原因は、IEA(国際エネルギー機関)のデータ(エネ研データ(文献4-1)に記載)から化石燃料種類別の資源量としての一次エネルギー消費の年次変化を示す図4-2に見られるように、1990年代後半から始まった中国をはじめとする新興諸国の高度経済成長に伴うエネルギー需要の増大に誘発されて、原油が先物商品市場における投機の対象にされた結果であると見てよい(水野らの文献4-2参照)。この原油価格の乱高下を伴う異常高値を、もとに戻したと見られるのが、昨年(2014年)暮れの原油価格の暴落である。生産コストの安いサウジ原油が価格維持のための生産制限を行わないと発表したために、価格が50ドル/バレル程度に急落した。この値であれば、図4-1に示すように、1990年代から2004年頃まで続いていた原油価格の緩やかな上昇傾向にほぼ一致すると見ることができる。

図4-2

図4-2世界の一次エネルギー化石燃料消費量の年次変化
(IEAデータ(エネ研データ(文献4-1)に記載)をもとに作成)

世界の化石燃料消費の増加の抑制こそがその国際市場価格の高騰を抑える方法である

 では、今後の原油価格がどう変化するのであろうか?先ず、需要と供給のバランスがとれれば、今回、起こったような、原油が投機の対象になって起こる異常な価格上昇は起こらないはずである。それには、世界全体が協力して、石油の消費量を現在の値に抑えることが必要になる。
 しかし、本稿(その1)に述べたように、正味の確認可採埋蔵量が増加しなければ、生産量(消費量)の分だけ残存可採資源量が減少する。したがって、いま、原油の国際市場価格がこの残存資源量に反比例して上昇すると仮定した場合の原油市場価格を計算して、この値の1990年の価格に対する比率を、実際の値と比較して図4-3に示してみた。幾つかの仮定(図の注参照)を含んだ計算値であるが、この図に見られるように、昨年(2014年)の暴落後の原油価格は、この推定曲線(1/a)に近い値にあると見てよい。すなわち、今後、このように、世界全体が経済成長を抑制して、原油の消費量を現状の値に抑えれば、国際市場価格の異常高騰は防ぐことができるはずであるが、長中期的な値は、この図に示すように、資源の残存量の減少とともに上昇すると推定される。

図4-3

注(計算の前提と作図の方法);①原油の国際市場価格が日本の原油輸入CIF価格に比例すると仮定した。②正味の確認可採埋蔵量の増加は無いものと仮定して、2011年の確認可採埋蔵量234.3十億トン(BP社による)と、各年の石油消費量(IEAによる)から、各年の確認可採埋蔵量の推定値を求めた。③a;1990年度の確認可採埋蔵量を基準(a=1)とした残存資源量比率、④1/a;原油の国際市場価格が、原油の残存原油資源量aに反比例すると仮定した時の基準年1990年の値(a=1)に対する比率とした。⑤;(実際の原油輸入CIF価格比率);各年度の原油輸入CIF価格の値(ドル建て、ドル/バレル)の基準年1990年度の値に対する比率、⑦星印(14年);原油価格暴落後(2014年)の1/aの値
図4-3 原油の国際市場価格と残存資源量(推定値)との関係
(エネ研データ(文献4-1)をもとに計算、作成)

 石油に較べて、資源量が多く、国際市場価格が安価な石炭の場合は、石油のような需給バランスに影響される価格変動が比較的小さいと考えられる。石炭について、原油における図4-3と同様の国際市場価格と残存資源量の関係を推定してみた結果を図4-4に示した。この場合も国際市場価格の値として、日本の石炭の輸入CIF価格(一般炭と製鉄用の原料炭の消費比率を考慮して計算した値)を用いた。この図4-4に示すように、石炭の場合でも、残存資源量の逆数に比例すると推定される国際市場価格比率の(1/a)の値に比べて、実際の比率の値がかなり大きくなっている。その理由は、最近の新興国での石炭消費の増加は、殆ど国産炭で賄われているために、国際市場に出回る石炭の量が少なく、原油の異常価格上昇の影響を受けたためではないかと考えられる。しかし、その影響は、図4-4に見られるように、比較的短期間に終わっているようである。

図4-4

注;計算および作図の方法は、図4-3の原油の場合と同様である。
図4-4石炭の国際市場価格と残存資源量(推定値)の関係
(エネ研データ(文献4-1)をもとに計算、作成)

化石燃料の国際市場価格の上昇が貧富の格差を拡大し、世界平和を脅かす

 なお、ここには示さないが、化石燃料のもう一つの天然ガスについても、同様な価格上昇が起こっている。すなわち、石油と石炭、さらに、天然ガスを含めて化石燃料の国際市場価格は長中期的には、確実に上昇する。そのときに、その影響を真っ先に受けるのは、現在、化石燃料のほぼ全量を輸入に依存している日本経済であろう。
 しかし、これを、単に自国の問題として考えてはいけない。化石燃料価格の国際市場価格の高騰で、世界では、それを使える国と使えなくなる国がでてくる。さらには人々の間の貧富の較差も拡大するから、いま、主として石油の生産地の中東で起こっているような、宗教の問題と結びついた国際間テロを助長することになるであろう。これを防ぐ方法は、世界各国が協力して、政治成長を抑制して、化石燃料消費を節減することで、その国際市場価格の高騰を避け、平和的な協力のなかで残された化石燃料を分け合って大事に使い長持ちさせることである。自国に資源を持たない日本は、その具体策を、本稿(その3)で記したような世界の化石燃料消費量の節減モデルを作成し、世界に向って提言すべきである。

<引用文献>

4-1.
日本エネルギー経済研究所編;「EDMC/エネルギー・経済統計要覧2015年版」、省エネルギーセンター、2015年
4-2.
水野和夫、川島博之編著;世界史の中の資本主義、エネルギー、食料、国家はどうなるか、東洋経済新報社、2013年

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