小水力発電と地域起こし


YSエネルギー・リサーチ 代表

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 いま、日本のあちこちの山村で、この小水力発電が地域起こしの起爆剤になっている。小水力発電は、世界的に見ると定まった定義がなく、1万キロワット以下とされているのが一般的らしいが、日本では新エネルギー法によって1,000キロワット以下のものが再生可能エネルギーとされているために、この区分が定義となっている。発電方式の分類では、「流れ込み式」、または「水路式」で、環境負荷が大きくなる可能性がある大規模ダム(貯水池式)、中規模ダム(調整池式)に設置されるものではない。河川の水を貯めることなく、そのまま利用する発電方式であり、一般河川、農業用水、砂防ダム、上下水道など、現在無駄に捨てられているエネルギーを有効利用するものだ。太陽光発電や風力発電のように天候によって出力が変動することなく安定しているために、送配電系統に接続しても、系統を流れる電力の品質に影響を与えることはほとんどない。

 筆者が住むのは奈良県北部だが、南部の森林地帯で進む小水力発電プロジェクトも地域起こしの中核になりそうだ。過疎化に悩む東吉野村で、地域住民が主体となって50年ほど前に稼動を止めた小水力発電を復活させようとしている。今年着工されたつくばね発電所だが、もともと大正3年(1914年)に発電を開始してから昭和38年(1963年)迄の約50年間45キロワットの出力で発電し、製材所向けを中心に電力を供給していた。発電設備そのものは撤去されていたが、導水路などが破壊されずに残されていることが分かり、ここで再度小水力発電を始めようというものだ。この村は過疎化が進み限界集落となっている。1070年には7,028人だった人口が、2010年には2,123人となり、このままで行くと2,035年には897人にまで減少することが予測されていた。この低落を阻止する人の流れを生み出すきっかけとするために、村民が中心になって東吉野小水力利用促進協議会が結成され、市民生活協同組合であるならコープも参画した東吉野水力発電株式会社(資本金40万円)が2014年11月に設立された。

 新しく復活する発電所は、有効落差105メートル、最大出力は旧発電所のほぼ2倍にあたる82キロワットとなる。発電された電気は全て関西電力に売電され、収益は東吉野の地域課題の解決に向けた基金として運用されることになっている。今年6月に起工式が行われ、来年3月に運用を開始する予定だ。最近この建設資金の調達がインターネットを利用したクラウドファンディングによって行われていると知って驚かされた。東吉野村つくばね小水力発電復活ファンドがプラットフォームになっている。インターネットを介して申し込みする形になるが、聞いてみると、地元の高齢者の中には自分でPCを操作できない人もいて、戸惑いもあるらしい。だが、東吉野村出身で現在遠くに居る人にもフェースブックなどで情報を提供することによって、順調に資金調達が進んでいるようだ。来年の1月29日までの募集期間になっているが、それを待たずに満額が集まることが想定されている。

 全国小水力利用推進協議会によれば、小水力発電の未開発包蔵水力として300万キロワットが想定されている。小水力発電の規模は大小様々だが、筆者も参加して手作りした数十ワットのようなものもある。このように小さなものは送配電系統に接続などできないが、村の住宅の常夜灯に利用されたりしている。小水力発電でも設備自身の維持管理もあるし、水路に溜まったゴミを取り除いたりする作業が常時必要となる。地域住民がこれに参画することによって、地域の一体感が生まれると同時に雇用を生み出す効果もあって、定住人口が増加することが期待されている。以前にあった小水力発電所が地域住民にも完全に忘れ去られていることもあるらしい。このようなものも含めて小水力発電に適した川の流れを見つけることによって、地域のエネルギーを生み出すプロジェクトがこれからも育ってほしいものだ。

http://east-yoshino.com/ 東吉野村小水力利用推進協議会のホームページ。
http://j-water.org/ 全国小水力推進協議会のホームページ。

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