2030年度電源構成のなかの再生可能エネルギー(再エネ)比率の意味を考える(その3)

COP 21に向けて日本に求められるのは、世界の化石燃料消費の具体的な削減提案でなければならない


東京工業大学名誉教授

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COP21に向けて温室効果ガス(CO2)の排出削減目標が発表されたが

 今年(2015年)末に予定されている第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)に向けて、日本のCO2の排出削減目標の提示が迫られている。このCOP21への温室効果ガス(CO2)排出削減率の値が、4月30日に、2013年度(国際的には西暦年が使われているが、国内のエネルギー統計(日本エネルギー経済研究所(エネ研)データ(文献3-1)では西暦でも年度が用いられているので、ここでは、年度で記す)に対して26%減との具体的な数値が提示された。このCO2削減率の値が、その2日前の4月28日に発表された表3-1に示す2030年度の電源構成(案)をもとに計算されたとされている(朝日新聞2015/5/1)。

表3-1 経産省の2030年度の電源構成比率案、2013年度との比較
(朝日新聞2015/4/29から)

表3-1

電源種類別の単位発電量あたりのCO2排出量は、各電源種類別に

(CO2排出量) =(CO2排出原単位)×(電源構成比率) ( 3-1 )

として与えられる。この(3-1)式から、表3-1の電源構成比率の値を用いて各電源種類別のCO2排出量を計算した結果を表3-2に示した。
 この表3-2から、2013年度に対する2030年度(以下、2030/2013比)の電源構成の変化によるCO2排出量の比率を計算すると

(2013年度のCO2 排出量合計; 1.7652 kg-CO2/kg-石油換算)
/(2030年度のCO2排出量合計;2.659 kg-CO2/kg-石油換算)
=0.663

と求められる。
 したがって、2030/2013比の電力構成の変化によるCO2排出削減率は、34.0%(=1-0.663)と与えられる。しかし、この値は、資源量で表される一次エネルギー消費のなかで一定の比率を占める電力についてのCO2排出削減率の値である。すなわち、後述(本稿(その4))するように、一次エネルギー消費のなかの電力の比率(一次エネルギー基準の電力化率)が現状(2013年度)の42.5%から、2030年度にどう変わるか、また、一次エネルギー(電力以外)のCO2排出削減率がどのような値をとるかで、2030年度の一次エネルギー消費合計(電力と電力以外)のCO2排出削減率の値が違ってくる。すなわち、経産省による2030/2013比のCO2排出削減率26%の値が、表3-1に与えられる同じ経産省による電源構成比(エネルギーミっクス)によって決まるとは言えない。

表3-2 電源構成とCO2排出量の推定計算値、単位;kg-CO2/kg-石油換算トン(一次エネルギー換算発電量)
(表3-1の電源構成比率の値を基に計算)

表3-2

注:

*1;
CO2排出量原単位、エネ研データ(文献3-1)から
*2;
各エネルギー源種類別のCO2排出量、本文(3-1)式により計算、ただし(電源構成比率)の値は表3-1から

2030/2013比のCO2排出削減率の値は、エネルギー消費各部門のCO2排出削減率を推定して決められている

 上記から、経産省により4月30日(2015年)、COP21に向けて示された2030/2013比のCO2排出削減率の値26%減は、その2日前に、同じ経産省により示された表3-1の電源構成比率の値とは関係無く、エネルギー消費部門(以下、部門)別の2030/2013比のCO2排出の削減率についての報道(朝日新聞2015/5/1)記事を参考にして、私の推定を含めて、表3-3に計算結果を示すように、下記のようにして算出されたものと考えざるを得ない。
 すなわち、先ず、

(各部門別のエネルギー消費合計の2030/2013比CO2排出削減率)
=(各部門CO2排出量比率)
×(各部門別の2030/2013比のCO2排出削減率)(3-2)

として求める。ただし、2030年の(各部門CO2排出比率)の値は、2013年度と変わらないとして、エネ研データ(文献3-1)から、この2013年度の値を求めて用いた。次いで、COP21対応のCO2排出削減率を、

(エネルギー消費合計の2030/2013比CO2排出削減率)
=Σ(各部門別のエネルギー消費合計の2030/2013比CO2排出削減率)(3-3)

として計算した。
 実は、(3-2)式の右辺の(各部門別の2030/2013比CO2排出削減率)の値を推算するには、それぞれの部門での電力と電力以外の一次エネルギー消費の違い(各部門別の電力化比率)、また、電源構成の違いによるCO2排出削減率の違い、さらには電力以外の一次エネルギー消費によるCO2排出削減率の違いなどの複雑に絡み合った要因を考慮した推定計算が必要になるはずである。したがって、表3-3の各部門に示すCO2排出削減率の想定数値は、いま、COP21のためとして求められている国内の(エネルギー消費合計の2030/2013比CO2排出削減率)の目標に合うように、適当に決められた数値と考えるべきである。
 このように、科学技術の視点から見て、合点のいかない表3-3に示す各部門別のCO2排出削減率の合計として与えられる(エネルギー消費合計の2030/2013比CO2排出削減率)の値21.9%は、COP21対応の国際公約の目標値26%に4.1%不足する。そこで、この不足分を、森林のCO2吸収2.6%に、代替フロンの使用によるCO2削減効果1.5%を加えた4.1(=2.6+1.5)%として、辻褄合わせをしていると言わざるを得ない。

表3-3エネルギー消費部門別の2030/2013比のCO2排出削減率の値
(エネ研データ(文献3-1)から、経産省の発表値(朝日新聞2015/5/1から)と、一部推定を含めて作成)

表3-3

注:

*1;
家庭部門と業務部門の合計とした
*2;
エネ研データ(文献3-1)の部門別のCO2排出量の化石燃料+電力按分分のデータから
*3;
経産省の発表値(朝日新聞2015/5/1から)、運輸部門のカッコ内数値は、各部門合計のCO2排出削減率が21.9%となるように、私が逆算で求めた推定値

地球温暖化対策のためのCO2の排出削減の国際的要請は、世界が現状の化石燃料の年間消費量を維持すれば達成できる

 地球温暖化問題が起こった1990年代以降、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が、この温暖化の原因だと主張しているCO2の排出削減を目的として、化石燃料代替の再エネの利用・拡大が広く訴えられるようになった。そのために、先にも述べたように、経産省が発表したのが今回のCO2の2030/2013比26%の数値である。これに対して、朝日新聞は社説(2015/5/4)で、「政府案は意欲に欠ける」と批判している。
 しかし、考えて欲しい。本稿(その2)でも述べたように、地球温暖化の問題は、地球の問題である。世界の3.75%しかCO2を排出していない(2013年の値、文献3-1から)日本が、いくら頑張って高い排出削減率を提示してみても、世界の協力がなければ、地球上のCO2排出量は削減できない。これに対して、最も確実にCO2排出を削減できる方法は、地球上での化石燃料の消費量を削減することである。
 IEA(世界エネルギー機関)のデータ(エネ研データ(文献2-1))から、現在(2012年)の世界のCO2排出量は32,562百万トンとあるから、世界が、このCO2の年間排出量を今後も守るように化石燃料消費を抑制することができれば、今世紀末までの累積CO2排出量は.2.9兆トン(=(32,562百万トン/年)×((100-12)年))と計算され、IPCCが何とか温暖化の被害に耐え得るとする地上気温上昇幅2℃以下に抑えるために必要なCO2の累積排出量の値4兆トンよりも小さくできる。
 なお、地球上の化石燃料の確認可採埋蔵量(現状の採掘技術で経済的に採掘可能な埋蔵量)の値から私が計算したCO2の累積排出量は3.23兆トンであるから、経済力のある先進諸国が経済成長のためとして、無謀な化石燃料の消費を行わない限り、IPCCが訴える「将来取り返しのつかない事態」には陥らないで済む(文献3-3)。

現状の化石燃料の年間消費量を守るための各国の化石燃料消費節減目標

 具体的には、世界各国が協力して、現在(2012年)の世界平均一人当たりのCO2の排出量4.63トン/人を守るように、化石燃料消費量をコントロールすればよい。このためには、例えば、先進国としての日本の場合、2005年(CO2排出削減目標の基準年とされている)の9.54トン/人を約半減(0.485(=4.63/9.54))しなければならない。ただし、それは、いますぐでなくてもよい。当分の間は、先進諸国の削減分と、新興国・途上国の増加分がキャンセルされて、世界の排出量が現在の値を超えないようにすればよい。したがって、その目標達成年を2050年として、その時の化石燃料消費を現在(2012年)の51.5%(=1-0.485)減とすれば、2030年の目標値は、24.4%(=(51.5%)×((30-12)年)/(50-12)年))減と概算される。
 また、世界一排出量の多い米国(2005年に19.6トン/人)は、同じ2050年までに76.4%減(=(1-(4.63/19.6)))が要求されるが、2025年の要求削減比率は、同上の計算で、28.4%(=(76.4%)×(25-12)/(50-12))減となり、いま、米国がCOP21に提出している目標値「25年に05年比で26~28%減」が、何とかクリアできそうである。
 いずれにしろ、人類が目標としなければならないのは、温暖化防止を目的としたCO2の排出削減ではなく、現代の文明社会を支えている化石燃料を息長く使うための化石燃料消費の削減である。結果としてのCO2の排出削減により、上記したように、地球温暖化が、もしIPCCが主張するようにCO2の排出に起因するとしても、何とかそれを防止できる(文献3-4参照)。

引用文献

3-1.
日本エネルギー経済研究所計量分析ユニット編;EDMエネルギー経済統計要覧、2015年版、省エネセンター、2015年
3-2.
久保田宏;科学技術の視点から原発に依存しないエネルギー政策を創る、日刊工業新聞社、2012年
3-3.
久保田宏;IPCC第5次評価報告書批判――「科学的根拠を疑う」(その1)地球上に住む人類にとっての脅威は、温暖化ではなくて、化石燃料の枯渇である、ieei2014/01/15、
3-4.
久保田宏;COP21に向けての重要な提案;化石燃料の節減こそが求められなければならない(その1)米中首脳が温室効果ガスの削減目標で合意したと言われるが、ieei2015/01/05、(その2)世界の化石燃料消費の背源こそが、地球環境保全のための世界的な合意の主題でなければならない、ieei2015/01/07、(その3)化石燃料の節減のためには、先進国の経済成長の抑制が求められる、ieei2015/01/13

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