米国のCCSプロジェクト(1)~技術の概要


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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 世界はエネルギー消費の約5分の4を化石燃料に依存しているが、気候変動を抑制するためには、大気に排出されるCO2を回収・貯蔵する技術(CCS=Carbon Dioxide Capture and Storage)が不可欠であるとIEA(国際エネルギー機関)などの国際機関が提唱するなど、世界的にCCS技術開発への期待が高まっている。CCSとは、発電所や天然ガス鉱山、化学プラントなどから大量に排出されるCO2を、他のガスから分離・回収し、安定した地層に貯留、または海洋に隔離することにより、CO2を大気から長期間隔離する技術のことを言う。

 2008年のG8洞爺湖サミットでは、2010年までに途上国を含む世界全体でCCSのパイロット・プロジェクトを20件実施するという目標が掲げられた。この目標の実現のため、オーストラリア政府を中心にCCSプロジェクトを推進する国際的な組織(GCCSI :Global CCS Institute)が設立されている。現在、米国や欧州、中東、オーストラリア、中国、日本など世界各地でCCSプロジェクト(パイロット試験や実証事業など)が進められており、データベース化も進んできている。参考までに、以下はマサチューセッツ工科大学CCS技術開発データベースの「プロジェクト進行中の地域のマップ」である。(https://sequestration.mit.edu/tools/projects/index.html

プロジェクト進行中の地域

出典:CCSプロジェクト進行中の地域
Map of active CCS projects worldwide, Carbon Capture & Sequestration Technologies@ MIT

 オバマ大統領は、2009年2月、米国のアメリカ再生・再投資法(ARRA)資金から約36億ドルをCCSプロジェクトに支援することを発表した。2009年10月、米エネルギー省(DOE)により選ばれた3つの大型商用CCSプロジェクトの事業者は以下の通りである。

  • アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド社(2011年よりプロジェクト開始)
  • ポートアーサー・エアー・プロダクツ社(2013年よりプロジェクト開始)
  • レイクチャールズ・ローカディア・エナジー社(2014年プロジェクト中止)

 アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド社が主導するイリノイ州の商用CCSプロジェクトは、深さ約7000フィート(約2.13km)の塩分を含んだ含塩層に、1日あたり約2500メトリックトンのCO2を貯留することを計画している。含塩層には数10億トンのCO2を貯留できる可能性があると見られている。ARRA資金からの1億4140万ドルの他、民間企業が共同負担金6650万ドルを負担し、プロジェクトを進めている。貯留されるCO2は、イリノイ州ジケーターにある貯留場所に隣接するミッドランド社のトウモロコシを原料としたバイオエタノールプラントから出るもので、CO2を貯留することで大気へのCO2排出量が全体として減少する「カーボンネガティブ」が特徴となっている。プロジェクトでは、CO2の圧入やCO2貯留の前段階としての脱水設備の設計、建設、実証、その後に行われる含塩層に貯留されたCO2のモニタリングと検証を行い、長期的なCO2貯留の可能性を探る。(参照:NEDO海外リポート)

CO2圧入設備

出典:DOEホームページより:イリノイ州の商用CCSプロジェクトのCO2圧入設備

 テキサス州ポートアーサーのエア・プロダクツ社の水素製造工場では、2013年5月よりDOEから2億8400億ドルの助成を受け、水素製造過程でメタンの水蒸気改質により生成されるガスからCO2を分離する設備を設置し、炭素回収・利用・貯留(CCUS)の実証プロジェクトを行っている。年間約100万トンのCO2が回収されるが、これを州内のヒューストンの油田に注入し、石油増進回収(EOR: Enhanced Oil Recovery)を行い、EORにより年間160~310万バレルの原油の流動性を上げ原油の増産を見込む。

商用CCS設備

出典:DOEホームページより:ポートアーサーでの商用CCS設備

 エネルギー省(DOE:Department of Energy)は、2013年11月7日、次世代CCS技術18プロジェクトに対して、総額8400万ドルの資金支援を行うことを発表している。18プロジェクトのうち、3プロジェクトは燃焼前ガス処理方式(新設ガス化複合発電(IGCC)などへの適用を想定)、15プロジェクトは燃焼後排気処理方式(既設、超臨界微粉炭火力、天然ガス火力などへの適用を想定)に関わる技術要素の開発となる。

 大口で資金支援を受けるプロジェクトとしては、IONエンジニアリング社(1500万ドル)、SRIインターナショナル社(1050万ドル)などの高性能CO2吸着液の(1)長時間連続運転試験、(2)原油の増進回収法(EOR)、化学プラントでのCO2の商用利用を念頭に置いたコスト低減に向けたパイロット試験をはじめ、(3)CO2吸着液と多孔性超疎水性膜分離法を併用した排ガスからの低コストCO2回収法のパイロット試験などが挙げられている。

 これまでのパイロット試験で行ってきたイオン液体吸収法、膜分離法のほか、すでに実証を行っている燃焼後処理技術((高性能アミン吸収法、チルド・アンモニア吸収法)、燃焼前処理技術(酸素吹き燃焼方式)を引き続き推進する一方、第二世代CCS技術としてリジェネラティブ・カルシウム・サイクル、ケミカル・ルーピング方式などを開発していく計画である。

 しかし、現状では、CCSのエネルギーロスは一般的に3割と言われており、燃料費で見た場合のコストは、CCS付火力発電のコストはCCSを伴わない場合に比べて1.5倍になると思われる。また設備費については、CCS付火力発電のコストはケンパー発電所を例に見る限りCCSを伴わない場合に比べて4倍くらいになり、依然ハードルは高い。CCSの推進をしていくためには、シェールオイル採掘の際の石油増進回収(EOR)としての利用や化学プラントでのCO2回収などエンドユース技術の開発とともに、長期ファイナンスのスキーム作りの実現に向けて現実解を見出す必要に迫られている。

◎謝意:本稿の執筆にあたり、東京電力ワシントン事務所・副所長の西村郁夫氏に資料提供などご協力いただきました。

※次回は、「CCS商用化・普及に向けた課題、取り組み」についてです。

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