容量市場を巡る議論ではっきりしたエーオンの狙いは火力の収益確保


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授

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 欧州のエネルギー業界では、電力の容量市場がいま注目を集めている。昨年末に英国政府が行った初の容量市場の入札結果について賛否両論が起こっていることと、ドイツでの容量市場導入についてガブリエル副首相兼経済・エネルギー相と大手エネルギー・電力企業エーオンのティッセン会長兼CEOの発言が対立しているからだ。英国での議論については「ビジネスアイ・エネコ 地球環境とエネルギー」の連載で取り上げるので、関心のあるかたは4月号をお読み戴きたい。

 ここでは、ドイツの容量市場を巡るエーオン・ティッセン会長の発言により、先に取り上げたエーオンのスピンオフ戦略の読み方(エーオン社スピンオフの本当の理由と目的)で解説した「再エネと火力部門を同じ企業で持つと利益が相反し、矛盾が生じるために、分割が選択される。エーオンの狙いは再エネでも火力でも収益だ」という見方が裏付けられた話を取り上げたい。

 電力市場では、発電コストにより発電所の稼働率には大きな差が生じる。高コストの蓄電技術を大規模に利用できない電気では、必要量を常に発電する設備が必要だからだ。夏場の一時期しか利用されない設備では稼働率が数パーセントという設備も生じる。そんな設備を作っても儲からないので、市場に任せると誰も作らない。ピーク対応の低稼働率の設備建設のために考え出された制度が総括原価主義だった。設備を作れば、コストに加え査定された収益が保証された。

 90年頃から英国をはじめ、欧州、米国の一部の州で開始された自由化では、総括原価主義はなくなり、自由市場での競争になった。そうなると低稼働率の設備の更新が行われなくなる。投資しても、利益が出る可能性は薄く、儲からないことがはっきりしているからだ。全投資家が、稼働率が高くなるベース電源設備への投資を目指すが、ここで問題が生じる、数十年間必ず競争力があり常にベース電源となる設備が分からないのだ。

 燃料コストで競争力があるのは石炭のように思えるが、石炭は設備費が高く、二酸化炭素の排出量も多い。将来気候変動問題対策として二酸化炭素のコストの負担が発生すれば競争力を失う。天然ガス、石油となると燃料コストの変動が大きくなる可能性が高く常にコスト競争力がある保証はない。結果、市場に任せれば設備への投資がなくなり、設備も減少する可能性が高い。

 この問題を解決するために考え出された制度が「Capacity Market-容量市場」だ。設備を保有していれば一定額の支払が行われる。通常、支払い額は入札で決まる。稼働率が高く追加の支払は不要と思う事業者は低い金額を入札する。稼働率が低くなるので収入が必要な事業者は入札額を高くする。支払われる額は誰が負担するのか。当然消費者だ。電気料金はその分上昇する。設備に対して支払いが行われるのであれば、総括原価主義との違いは、金額が入札で決まるか投資額を基準に査定されるかだ。

 ドイツでは、再エネの導入量が増えるにつれ火力発電の稼働率が低下し収益が大幅に低下した。電力会社は火力発電所の維持ができなくなり閉鎖を検討することになった。火力発電所の閉鎖が続くと不安定な再エネからの発電が停止した際に十分な電力供給ができなくなる。ドイツ政府は発電所の停止を許可制にしたが、現在50もの閉鎖申請が審議中のままになっていると報道されている。ガス火力を中心に、一時停止、予備扱い設備が増加している。図の通り天然ガス火力では6分の1の設備が停止中だ。

図1

 昨年8月の再エネ法改正時、ドイツ政府は容量市場の導入を検討するとしていたが、今年になりメルケル首相が、否定的な発言をした。さらに、ガブリエル副首相が、「火力発電を対象にした容量市場導入は、消費者、特にエネルギー多消費型産業、のさらなる負担増を招くので、導入は行わない」と発言した。

 ガブリエル副首相は、一貫してエネルギー、電力価格を抑制し、ドイツの製造業をエネルギーコストが低い米国と競争可能にしなければいけないとの立場だ。再エネ導入で上がった電気料金のさらなる上昇を招く容量市場の導入は避けたいに違いない。副首相は、「市場に任せれば、希少性により価格上昇があり、投資へのシグナルになる」としているが、通常の商品と異なり電気では必ずしもそうはならない。

 ティッセン会長が、この発言に反論した。「安全な既存の火力発電を置き換えることは、不可能だ。不安定な再エネの導入があり安定供給のために火力は必要とされるので、火力は正当な価格を受け取るべきだ。風力と太陽光は補助的に利用されるだけであり、ドイツだけではなくほぼ全ての工業国では既存の発電所の代替にはならない。欧州の他国は容量市場導入に踏み切るだろうが、容量市場で電気料金が暴騰することはない。ドイツでも同じだ」。

 エーオンは再エネを中心に据え、火力と原子力を見限ったとの報道があったが、明らかに間違いだ。エーオンは企業分割により矛盾を解消し、分割後の両企業を活かし、再エネでも火力でも収益をあげようという戦略であることは明白だ。