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ドイツ・エーオン社スピンオフ(分割)の本当の理由と目的


国際環境経済研究所所長、常葉大学経営学部教授


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 1980年代から、米国では企業戦略に関しスピンオフという言葉を時々聞くようになった。スピンオフとは、企業を分割することを指している。分割の目的はただ一つ、企業価値の向上だ。企業価値の計算には、いくつかの考え方があるが、キャッシュフローを生み出す力、あるいは株価、時価総額を基にするのがよく使われる方法だ。いずれにせよ、稼ぐ力と、株価が企業価値のキーだ。
 欧米、特に米国の企業は常に企業価値の向上策を考えていると言っても過言ではないだろう。向上策はリストラクチャリングと呼ばれるが、日本のリストラが人員整理を意味するのとは異なり、本場のリストラクチャリングは企業価値を向上させるための戦略を意味している。人件費削減策が含まれることはあるが、それは戦略のほんの一部だ。
 ドイツのエーオンが11月30日に発表した発電部門などのスピンオフも、企業価値向上を狙ったものだ。米国では当たり前の手法であり、驚くほどのことではないし、日本経済新聞が伝えるように、ドイツの脱原発政策により財務体質が悪化したからスピンオフしたというのは、原発からの利益は減少していないので正確でない部分もある。現在のエーオンの体制では企業価値を向上させることが困難になったが、分離すれば企業価値が向上する可能性が高いからのスピンオフだ。エーオンがこんな状態に陥ったのは、ドイツの脱原発政策ではなく、再エネ政策のためだ。
 13年末の時点で、エーオンはドイツ国内に約2000万kWの発電設備を保有している。内訳は、原子力540万kW、褐炭50万kW、石炭528万kW、天然ガス436万kWなどだ。加えて、国外に4000万kW強の発電設備を持っている。この発電部門の資産が稼ぐ利益額が図‐1のように変化し、火力の稼ぐ力が急激に落ちていることが、分離を行う理由だ。エーオンの税・金利前利益率(EBIT)と税・金利・償却前利益率(EBITDA)の推移は図‐2の通り波を描きながら低下してきている。

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 火力の稼ぐ力が落ち、エーオンの収益が低下を続けている理由は、ドイツの再エネ政策にある。再エネから発電された電気は優先的に接続される。このために、図‐3が示すようにドイツでは火力の稼働率が落ちる一方、電力取引市場の卸価格の低下が続いている。再エネからの発電が増えれば増えるほど、火力の稼働率は落ち、利益額は低下する。再エネの発電量の増加の影響を受け赤字の運転になっていた天然ガス火力ばかりか、最近では図‐4が示すように、石炭火力まで時として赤字になるようになってきた。

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 社内に再エネと火力部門を保有している状態では、接続が優遇されている再エネでいくら儲けても、火力でその分損を出してしまう。ある意味利益相反の再エネと火力を同じ会社が持ち続けていくことが無理なのだ。分離すれば、再エネが儲けている時に火力も儲ける政策を政府に要求することも可能になる。実際に、エーオンのCEOは火力の稼働率が低下しても収入が保証される容量市場の導入で収益増が期待できると、スピンオフ発表の席上で述べている。分離することにより、火力でも儲けさせてもらい、企業価値を上げますというわけだ。
 スピンオフでは、既存の株主に新会社の株式が割り当てられる。既存の株主は旧エーオンと新会社の株式を保有するが、分離後の売買を通し株主構成はやがて変わっていくことになる。分離することで、再エネと火力を保有する矛盾が解消するので、両社を足した企業価値は当面上昇するだろう。将来の脱原発による収益への影響が不透明なので、新会社の企業価値が将来変動する可能性はあるが。
 今回、再エネと送電部門、小売部門をエーオンに残し、原子力、火力などの発電部門、上流のエネルギー生産などを新会社にしたのは、総資産額、収益額などを基に偏りがないように、また再エネと化石燃料・火力という矛盾する部門を一つの会社に置かないようにとの配慮をしたからだろう。
 エーオンが再エネに力を入れるために、原子力と火力を見捨てたという意見は、“リストラクチャリング”、企業価値向上戦略を理解していない、間違った見方だ。それよりも、再エネ優先策は火力発電所のコスト高に繋がっていき、やがて電気料金の上昇を招くが、同様のことが将来日本でも起こることを心配したほうがよい。ちなみに、日本の電力会社はエーオンのように多角化も国際化もしていない。日本の電力会社が、仮に企業価値向上策を採るとすれば、エーオンとは違った形になるだろう。

 今回のスピンオフに関するさらに詳しい解説は、15年1月末発売予定の「地球環境とエネルギー」2月号の連載で行う予定なので、そちらも併せてお読み戴ければと思う。



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