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中国のCO2排出ピークは従来想定よりその頂点は高く、ピークアウト前倒しの議論は時期尚早

-2013年の石炭消費量は4.2億トンの上方修正、石炭合成ガス(SNG)により2020年に少なくとも1.1億トンのCO2排出増-


九州大学大学院経済学研究院 准教授


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中国の壮大な石炭合成ガス(SNG)計画

 石炭を高温・高圧下で水蒸気と熱分解反応させることで一酸化炭素と水素を主成分とするガスを生成し、更にそれを純化して天然ガスと同様に利用する、石炭由来の合成ガス(SNG)を例に取り上げよう。SNGは内蒙古の褐炭や新疆のような遠隔地の安価な石炭を原料とする分には十分な経済性が確保できる。具体的に言えば、新疆のSNG1 m3当たり1.8~2.2元、内蒙古のSNGで同2.3~2.7元という価格水準で供給可能であり、この価格は現状の国内パイプラインガスと比べると競争力でやや劣るが、今後開発予定の新規ガス田の供給価格よりは安価となる見込みである。
 2013年末時点で認可済のプロジェクトの生産能力合計は935億m3に及び(図1)、2015年末に64億m3、2017年に320億m3を稼動させる目標が示されている。認可済プロジェクトが時期はともかく最終的に稼動するとすれば、SNG生産に必要な石炭の量を試算すると、4億3010万トンとなる。SNGに石炭を加工して供給すれば、従来型大気汚染の煤塵やSO2、NOx排出を低減し、PM2.5を抑制しつつ石炭消費を継続することが可能となるため、石炭需要の伸び悩みという逆風に直面する石炭産業は石炭化学プロジェクトを起死回生の一手と捉えているようだ。

図1 中国のSNGプロジェクト (注)表中のMTO(Methanol to Olefin)はメタノール経由の石炭原料によるオレフィン系炭化水素生産を指す(出所)筆者作成

図1 中国のSNGプロジェクト
(注)表中のMTO(Methanol to Olefin)はメタノール経由の石炭原料による
オレフィン系炭化水素生産を指す
(出所)筆者作成

2020年に1.1億トンのCO2が追加的に発生する見通し

 但し、昨年後半以降の原油価格急落により石油化学やLNG(液化天然ガス)の経済性が向上したこと、加えて図1に示されている通り、SNGを含む石炭化学プロジェクトは水資源制約の厳しい内陸部で多く立案されており、生産過程で相当量の水投入を必要とし、また水汚染への懸念もあり、石炭化学プロジェクト全体に急ブレーキがかかっている。3月末時点の最新情報では、稼動済SNGプラントは43億m3、建設中の生産能力が128億m3、2020年の生産能力見通しは211億m3と上記の2017年目標は未達になる見通しである。
 またSNGの生産過程において天然ガスと比較すると1000 m3当たり5トン程度のCO2が多く発生する。この点は中国国内では今のところそれほど問題視されていないが、減速したSNG運開見通しでさえ、2020年には211億*5/1000=1.1億トンのCO2排出が増加する見込みである。仮に認可済のSNG全てが将来稼動したとすれば最大で4.7億トン、日本の年間排出量の約3分の1に匹敵するCO2の排出増が予想されるのである。
 SNGは中国政府にとって核心的な政策課題となった従来型大気汚染対策としても効果が望めるし、海外へのエネルギー依存を抑制する安全保障上のメリットもある。加えて、国内の石炭産業支援という側面も政府にとって無視できない重要な要因である。節水・環境対策を含めた技術レベルの向上を促しつつ、石油・天然ガスの国際市況次第で再び推進姿勢に転じる可能性は十分にあると筆者は見ている。

石炭化学の動向に注目

 以上をまとめると、次のような結論になる。中国ではある程度脱石炭化が進みつつあるが、従来の想定よりもそのスピードは遅いと考える必要がある。石炭化学のような従来の利用形態と異なる消費も増加しており、そうした石炭消費が石炭火力などの需要低迷をある程度埋め合わせることになろう。石炭化学により生産される製品はガスや石油と同様に利用することで伝統型大気汚染の改善には大いに役立つが、生産プロセスからはより多くのCO2を発生させる。この点を踏まえれば、中国のCO2排出ピークアウトを議論する際には、石炭化学の動向を始め、石炭利用の高度化という要素を加味する必要があろう。

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