エネルギー・温暖化関連報道の虚実(2)


国際環境経済研究所前所長

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電気料金は、電力自由化で下がるのか?

 今回は自由化と電気料金との関係です。

 「自由化を進めれば、電力会社間の競争が激しくなって電気料金は下がる」というのが電力自由化推進の根本的な論拠です。ところが自由化が先行する欧州などでは、電気料金はむしろ上昇している。これを解説した記事が次の日経の記事です。(有料会員限定ですが)

http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS04H4B_U5A100C1NN1000/

 ドイツの例を引き合いに、自由化後電気料金は上昇したが、その要因は自由化と関係ない要因でほぼ説明でき、自由化自体は料金抑制の効果があったという経産省の取材コメントをそのまま載せています。

 ただ、この記者はどうも、そのコメントをそのまま信じているとは思えません。この記事全体のトーンが、本当に自由化で電気料金が下がるのか?という疑問に満ちたものだからです。
 
 下記の図は、その記事中にあるものです。よく見ると燃料費や物価変動分というのが、自由化と無関係の要因の方に含まれていますが、そういう整理でいいのでしょうか。競争が激しければ、燃料費(つまり売上原価)や物価変動分のコストアップ要因を消費者に転嫁できるはずがありません。

(2015年1月5日 日本経済新聞webより)

(2015年1月5日 日本経済新聞webより)

 こんなことは企業の経営の現場にいれば当然の常識なのですが、自由化論者(経済学者が主ですが)は燃料費上昇については、自由化と無関係な要因として整理する傾向があります。
 企業経営の現場を、身をもって体験している人にとっては、そのような考え方をする経済学者の頭の中味はとうてい理解できないでしょう。
 自由化するなら、そんなもの(売上原価の上昇)は企業努力で吸収すべきであって、外枠扱いすることはおかしなことです。

 ということで、自由化したからといって、残念ながら電気料金が劇的に下がるとは思えません。それより、まさにドイツと同じように、日本ではこれから再生可能エネルギーの固定価格買取制度による賦課金が急増し、電気料金負担は重くなる一方でしょう。

 自由化推進論者が、「自由化そのものを目的化しているわけではない」というのであればーーーつまり、政策目的が電気料金の負担軽減であるのであればーーーその論者たちに、再エネの無理な導入にブレーキをかけて賦課金の増加をストップさせるべきだとか、地球温暖化対策税のような化石燃料税の軽減するべきだといった点も、同時並行的に主張してもらわなくては困ります。

 最終的な政策目的を明示し、その達成手段を総合的に講じる政府でなければ、国民の信頼を失うことは確実です。この記事は、そのことを明確には指摘していませんが、どうもあぶり出しのようにそういう趣旨のことを言いたいのではないかと思いました。