今後に生かすべき非常時対応の経験
書評:岡本 正 著「災害復興法学 」
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員
(電気新聞からの転載:2014年11月21日付)
「災害復興法学」。耳慣れない言葉である。しかし、知っておくべき言葉である。
法律とはそもそも、社会の構成員が互いを尊重しながら生きていくためのルールだ。守らねばならないルールを明らかにし、そのルールに反しない限り、人々は行動の自由を保証される。
しかし法律が想定するトラブルは、あくまで平常時に立法関係者が想像できる範囲のトラブルである。想定を超える自然災害下において、被災者は何に困り、どのような救済を求めるのか。自身が自然災害の被害者となる事態に備える意味でも、口先だけでない被災地支援のためにも知っておくべきなのだ。
本書はまず、無料法律相談に寄せられた声を定量的に分析する。メディアによる断片的で情緒的な報道ではわからない、本当の「被災」が見えてくる。被災各県の相談内容は多様で、被災地として一括りにできないことがひと目でわかるのだ。
続いて、具体的なケースを入り口にどのような軌跡を経てどのような対策・政策が実現したかを描いている。
例えば借家が一部損壊し風呂が使えない。賃借人は修理してもらって住み続けたいが、大家は修繕の費用は捻出できずこれを機に売却したいという。このように自然災害の被災地では被災者同士、ご近所同士での問題が多く生じるものである。裁判という手段ではなく、第三者機関の仲介・斡旋により当事者同士の合意を図ることが望まれ、例えば仙台弁護士会は震災からほぼ1カ月で「震災ADR」を立ち上げた。
例えば家族を亡くされた方の生活を支える保険金は、市役所に「死亡届」を出し、死亡証明書の発行を受けて生命保険会社に提出せねばならない。しかし、津波でさらわれた「行方不明者」の死亡認定には通常1年を要する。これを救うべく柔軟に対応した保険会社も多くあったが、法的に安定させるため、特例措置が行われた。
被災された方の苦しみを理解していなかったことを恥じるとともに、震災直後の混乱期に法律家としてできることを模索し、そしてその経験を災害大国である日本の今後に生かせるよう「災害復興法学」としてまとめあげた著者に改めて敬意を表したい。
※ 一般社団法人日本電気協会に無断で転載することを禁ず
「災害復興法学」
著者:岡本 正 著(出版社: 慶應義塾大学出版会)
ISBN-10: 4766421639
ISBN-13: 978-4766421637